冬季限定愚行

夜詩痕

愚者

 帰宅すると、すでに彼女はいた。少し前は彼女はこたつに入らず、そのすぐ側で正座をしていた時があった。あれから少しは距離が縮まったのだろうか。そう思いたい。


「お帰りなさい」


 消え入ってしまいそうな声で彼女は言う。


「あぁ、ただいま」


 コートを脱ぎ、手洗いうがいを済ませた僕は早速こたつに入る。最初こそは熱く感じるも次第に慣れていった。

 いつにましても彼女はぽかんとしている。僕がみかんを手に取れば、それを待っていたかのように彼女も僕に倣う。みかんぐらい、勝手に食べてていいのに。

 彼女は白い繊維を取るのに苦戦しているようで、目を細めているのも美しく感じた。それもいいけど、僕のほうを見てほしい。もっと君の表情を見たい。そう思うのは束縛だろうか。

 試しに、僕は足を彼女に足にぶつけてみる。


「あ、ごめんなさい」


「いいよ、別に。むしろもっと当てて」

 

 そういうことに無頓着なのか、彼女はわかっていなさそうだ。もう少し弄ろう。


「足、絡ませて」


 言ってる自分が恥ずかしい。僕も彼女も目を逸らす。でも、彼女は物欲しそうに僕を見つめるのであった。少しは興味あるのかな。だったらそれに応えるまでだ。

 彼女の足を僕の足でなぞる。靴下越し、タイツ越しだから感触はわからない。だが、優しくつつけば気持ちいい弾力が足指を一瞬だけ包み込む。


「あ、あの、だめ……破恋知です」


 あんな目で見ていた癖して、顔を赤面させながらやめるように言う。その赤みは恥ずかしさからか、それとも快楽なのか。その二つを併せ持つ今の表情は、とてもそそる。


「今更? いいから君からも来て」


 そう言わずとも、足は絡みつく。肌と肌で触れたかったのは山々だが、彼女がいつになく積極的なのが嬉しかったのだ。僕の足はいつの間にか拘束されていた。

 僕たちは顔を見合わせる。互いに熱帯びていたのは、こたつのせいではないだろう。

 彼女の口が開く。


「足だけで、満足ですか?」

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