最後にサキに会ったのは、中1。


 その年を最後に、サキはここに現れなくなってしまった。


 

 桜が咲いても、枯れても、なんでも。


 

 ここにはもう、来てくれなかった。




   *  *  *




 今日、私はずっとサキを待っている。


 公園に置かれた椅子に座って、何時間も、何時間も。



 ふだん私がここに来ようと思うのは、サキの気配みたいなものが感じるからだ。



 行けば、会える。



 そのくらい、私とサキは見えない絆で繋がっていたはずなのに、ここ数年、めっきり気配がしない。



 何年だろう。いま私は高3だから…、5年? 絶対おかしいって。


 なにか、あったのかな……。



 でも、私がここにいればサキが来るんじゃないかって。


 根拠もない考えで、とぼとぼやってきた。



「そういえば、この椅子、子供の頃はなかったよねぇ」



 プラスチックの長いすに座って、呟いた。


 何か言えば、サキがそこに現れて、「そうだね」とかなんとか、言ってくれるかもしれないって、思ったから。



 だって、いつもそうだったじゃん。



 いつか昔は、「なんで桜って毎年ちゃんと咲くんだろ」って言ったら、「咲きたいからかな?」なんて悪戯に、返事くれたじゃないか。


 いつか昔は、「咲いて散って、面倒くさくないのかな」って言ったら、「それがないと桜じゃない気がする」なんて、なんだか真面目に返事くれたじゃないか。



——いくら待っても、サキの声は聞こえなかった。



 燃え尽きそうな夕日が見える。桃色を焦がすような、赤があたりを染めた。


 もう、帰らないとだ。



 今日も私はサキに、唯一の友達に、



——会えなかった。






 春休みの間はずっと待った。


 あの子を。


 サキを。



 でも、現れないんだ。


 桜が散っても、来てくれないよ。



 もう今年が最後なのに。


 大学は他の県に行くから、今年が最後なのに……。



 会えたら、連絡先を交換しようと思った。一緒に写真を撮りたいと思った。


 最後に会ったときは、携帯なんて持ってなかったから。この間スマホ買ってもらったから、さ。


 そうすれば、ずっとメールで喋ってられるし。会いたいときに会えるし、電話もできるし。



「……枯れたときに、来るっていったじゃん、この前、」



 ねぇ、なんで来ないの、サキ。


 毎年来るって、また来年って…。



「……桜って、どうしてあんなに綺麗なんだろうねぇ」



 笑ってよ、笑い声。


 真面目な返事でも構わないから。



 私の問いに、答えてよ。



 風の音がする。車の音がする。鳥の鳴き声も聞こえる。でも。きみの声は聞こえない。それは、なぜだろう。理由、もしかして、きみはもう——



「桜、ずっと散らなきゃいいのになぁ!」



 この公園に、私の声が響いた。



 瞬間、私の声を、風がどこか遠くに運んで行く。



 花びらが私の手に乗る。桜が散る。



 「サヨナラ」



 私の思い出はこの花びらと一緒に、どこかに飛んで行ってしまうんだ——




   * * *




 名札には、柳下やぎしたれいと書かれている。


 観光関係の、お仕事。



「柳下さん」と、隣から声がする。


 透き通った綺麗な声。



「よろしくお願いします」 



その方の名札には、萩原はぎわら紗希さきという名前が書いてあった。

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【短編】桜の咲く、あの日に。 ぽんちゃ 🍟 @tomuraponkotsu

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