1つのシェルター4人の男
エリカ
1つのシェルター4人の男
今、私の目の前には1人用の核シェルターがあった。
人里離れた山中、その前には4人の男がいる。
5分前まで、私はこの男達の必死の説得にあっていた。
私は国内最大手の運送会社会長の孫娘だ。
今は、祖父が用意してくれた私専用の別荘で一人、長い休暇を過ごしていた。
そこは携帯の電波も入らなければ、テレビもない。本当の意味で都会の喧騒から抜け出せる場所だ。
休暇を過ごすという名目で、ここに来てはいたが、本当はここで人生を終わらせてもいいかもしれないという迷いの中、訪れていた。
というのも先日、親友だと思っていた友人と、私のフィアンセとが、実は恋仲であるという事実が発覚したのだ。
2人とも私のお金や地位が目当てで、近付いてきていたのだ。
その事実を知り、私はもう誰も信じられなくなってしまった。
2人に傷つけられ、怒りを抱くというよりは、そこまで自分は魅力のない人間なのかと、自信を無くしていた。
誰にも会いたくなくなった私は、都会を抜け出し、この場所にこもり、このまま消えてしまいたいとさえ考えていた。
しかし2日程前、そこに突然4人の知人の男性が現れ、皆、次々にプロポーズをしてきたのだ。恐らく、祖父からの差し金だろう。確かに、誰か跡取りを決めてからでないと、消えていなくなるのも、祖父に申し訳ない気がした。
とりあえず誰か1人を選ばなければと考えてはいたが、特に決め手もなく考えあぐね、2日が経過していた。
しかし5分前、そこに突然大きなサイレンがなり響いた。
「緊急連絡です! 隣国から、巨大核爆弾が発射されました! 30分後、ここ一帯に落ちる模様です。 シェルターに避難してください!」
残念ながら、私専用のシェルターには、1人用1日分の酸素と、1人でもギリギリのスペースしかなかった。
しかも、食料等も殆ど保管しておらず、チョコやクッキーがお遊び程度に置いてあるだけだ。1人で入ったとしても、ここ一帯の放射能が落ち着くまで、生き延びることが出来るのか、微妙だ。
私は、意外と冷静に次の行動を考えていた。
今まで冗舌だった男たちは、呆然と立ち尽くしていた。
彼らを見て、私は思った。誰を選ぶべきなのか何日も答えが出せずにいたが、今なら答えが出るかもしれない…。死ぬ前に生涯の伴侶を決めるというのも良いのではないか。
私は彼らを見て言った。
「あなた達はどうしたい?」
その問いに、A氏は泣きながらこう言った。
「お願いだ! 俺にこのシェルターに入らせてくれ!」
この男は、元から私の事など愛していなかった事がすぐさまわかった。 もしこの男と結婚していたら、財産を奪われ、今ここで死ぬより惨めな人生になっていただろう。
B氏は言った。
「A氏、君は愚かだ! これは彼女のシェルターだ! 彼女が入るべきだ。さあ、早く入るんだ。まずは今生き延びるんだ」
B氏は、私を愛してくれていた様だ。
しかし単純な男は嫌いだ。私を入れるというのは、1番簡単な答えだが、そこに1人残された私は、これ以降、どう生き抜いていけば良いのか。毎日助けが来るのを待ちながら、餓死して行けというのか。
C氏は言った。
「僕は君と1秒でも長く2人でいたい。1人用だとわかってはいるけど、2人で入りたい。 僕の足がもげても、息が出来なくなっても、最後は2人でいよう」
彼も私を愛してくれているように感じた。そして、その言葉にとても感動させられた。
しかし、ロマンチストは苦手だ。こういう男は、実際そんな状態になった時の事を、リアルに考えられていないだけなのだ。
その後、私はD氏を生涯の伴侶とする事に決めた。
彼はこう言ったのだ。
「実は、あのアナウンスを流したのは、僕なんだよ。変ないたずらをしてごめんね。だからもうこんな話はやめて、そんな3人は置いて、僕と近くの湖にピクニックに行かないか? そのシェルターにある、おいしそうなお菓子を持って、好きな音楽を聴きながらさ」
私は彼とピクニックに出かけた。
おいしいお菓子を食べながら、楽しい話をし、好きな音楽を聴き、とても楽しい時間だった。
彼は、私の人生最後の25分を、最高のものにしてくれた、最良の伴侶だった。
1つのシェルター4人の男 エリカ @Ering
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます