最終回 ここが私の帰る場所

「ちゅっ……♪」


 リズさんを見送りに来た、春休みの空港で。

 由理ゆーりは、季紗きさにいきなりキスされた。


「んむ♪ な、なに?」


 驚いて赤くなる由理へ、季紗がジト眼を向ける。


「……ゆうべはお楽しみでしたねー」


「し、知ってたの……?」


 昨夜はリズさんと「思い出作り」をしてた由理……消え入りそうに羞じらうと、美緒奈みおなも背伸びして、キスしてきた。


「ちゅっ……♪ まっ、由理がエロ乙女なのは知ってるけどさ」


 季紗と美緒奈には言われたくない……そう抗議の視線を、由理は送るけれど。


「リズねえが、喜んでくれたらなって。だから昨日はさ、2人きりにしてやったわけよ」


 本音はやっぱりフクザツな美緒奈、ぷくーとむくれてみせる。


「ちょっとムカついたけどね、由理がちゅぷちゅぷうるせーから! このキス魔!」


「ふふ、今日は私たちとも百合キスしてよね! ちゅぅぅぅぅ……っ♪」


 春らしく爽やかな色の、可愛らしいワンピースを着たお嬢様スタイルの季紗と、私服のゴスロリドレスな美緒奈。動き易いショートパンツな由理へ、唇を重ねる。

 ……空港で。


「ちゅぅぅぅっ♪ どーよ由理、美緒奈様のキスも甘いだろー♪」


「んっ♪ ちゅぷぅ♪ ……こ、ここ、空港だってばぁ。皆が見てるー!?」


 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」の外で百合キスは……一般人に見られながらキスするのは、まだまだ抵抗がある由理。

 リズさんたちががんばって、世界中に百合メイド喫茶が出来れば……百合キスが日常の光景になれば、由理ももっと幸せになれるでしょう。


「ちゅっ♪」


「ちゅぷー♪」


「んんっ!? むぷぅぅ!?」


 空港のロビーにて、ひそひそ噂話する通行人の視線にさらされながら、由理はレズ乙女2人の口撃キスに呼吸困難ぎみで、赤面するのでした。


「わぁ。3人とも楽しそうね。私も混ぜて♪」


「ふぇぇ、リズさん!?」


 スーツケースを引いて、遅れてやって来たリズさん。唇を指でなぞって、瞳キラキラ、星を浮かべる。

 今日の彼女は、季紗セレクトの可愛い衣装……爽やかな空色コーディネートの、お嬢様らしい服装だ。

 金髪縦ロールに童顔、お姫様みたいな容姿によく似合う。もちろん、巨乳は強調されている。


「ふふ、もちろんですよリズさん。飛行機来るまで、いっぱい百合キスしましょう♪」


 ハァハァ吐息を漏らして、舌なめずり季紗ちゃん、淫乱モード。

 美緒奈もツインテールをぴょこぴょこ揺らして、百合キスの輪へ、リズさんを誘う。


「とーぜん♪ イヤっていっても、今日は百合キスで見送るつもりだかんね♪」


 ……そして。

 青空がよく見える、春の空港のロビーで。


 仲良し4人組は、空港を通る世界中の人たちへ、見せつけるみたいに。


「……ちゅっ♪」


 女の子同士で、唇を吸い合った。


「んっ♪ ふぅっ、ちゅー♪ ちゅぷ、ちゅぷん♪ むぅ、ちゅふぅ……♪」


「ぐぷぅ♪ むちゅ、ちゅー♪ ふぅっ、くちゅぅ♪ ぬる、ぬるぅ♪」


「にゅぽん♪ ぢゅばぁ、ぐちゅー♪ ぢゅぽ、ぢゅぽ……♪」


「ふぅっ、りゅぷぅ♪ ふぅっ、んふー♪ く、ふぅぅ……っ♪」


 ギョッとする一般の皆さんへは、由理が唾液の糸を引きながら、


「た、ただのあいさつですので! お気になさらず!!」


 百合キスがあいさつ……1年以上毎日ちゅっちゅしてきた彼女たちには、それが紛うことなき事実。

 指を絡めて、4人で密着して。接吻の甘さを味わった。

 ……お互いの存在を、忘れてしまわないように。

 唇の味を、刻み込むように。


「ちゅぅぅ……っ♪ ふ、んーぷっ♪ ちゅぅぅっ♪」


「ちゅー♪ ぢゅぼ、るっぷん♪」


「ふぅっ♪ ちゅぷん、ちゅくー♪ ちゅふぅ♪ んんっ、ぬぷぅ♪」


「むー♪ むぷぅ♪ ふぁ、るちゅん、ぐぷぅ♪ ……ず、ちゅぅぅーっ♪」


 百合キスが好き。

 乙女同士唇を重ねるのが、なにより幸せ……そんな百合メイド4人。


 彼女たちの間に、お別れの言葉なんて要らない。

 涙は見せない。


 ただ、百合キスがあればいい。

 燃える唇、重なる吐息……唾液の甘さが。弾む鼓動が、星の数の言葉よりも、愛情の証だから。


 ちゅ……♪と皆の唇を味わいながら、由理は思う。


(百合キスって、素敵だね)


 気持ち良くて、蕩けるみたいで。愛を333《チュッチュッチュッ》%伝えてくれる、女性専用コミュニケーション。

 世界でいちばん、幸せな行為。


(私たちはきっと、世界一幸せ)


 だから、この口づけを全世界へ!

 女の子同士でキスすると、こんなにも暖かな気持ちになれるんだよって、地球の裏側まで……遠い国にも、見知らぬ街角にも、想いを届けていきたい。


(リズさんと同じ。それが……私の、将来の夢かな)


「……ちゅぅぅぅ♪ ちゅっぷぅ、ちゅぷぅん♪」


 季紗に美緒奈にリズさんに……美少女たちとディープキスで口内粘膜を合体させながら、ここに一人の少女が、由理が、未来への夢を描くのだった。


「ちゅぅ♪ ちゅぷ、ちゅくー♪ ちゅっちゅ、ちゅー♪ ちゅぷん、ちゅふぅ♪」


「むちゅぅ、くぷん♪ ちゅぱぁ、ちゅぅぅっ♪」


「んふ、るちゅぅ♪ ちゅぱ、ちゅぱぁん♪」


「くぅ、んんっ♪ ちゅ、ちゅ……ちゅっ♪ ちゅっちゅ、ちゅー♪ ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ……♪」


 百合キスいっぱい。

 百合キス満開な、幸せ結界、「永遠に百合咲き誇るエターナル小さな花園リトル・ガーデン」。

 こんなにも愛し合える、唇を重ね合える私たちは……きっと、遠く離れても、時が過ぎても。

 ずっと、繋がってる。

 唾液の糸みたいに、何度だって繋がれる。


「……ねえ、リズさん」


「なぁに?」


 空港へ吹き込む、優しい春風に祝福されながら。

 由理は……今までありがとう、と、またキスしようね、の言葉の替わりに。


 微笑んで、口づけした。


「……ちゅっ♪」


 ※ ※ ※


 そして。

 唇の温もりが冷めないうちに……飛行機は、遠く空の果てへ、飛び去って行った。


「……行っちゃったね」


「うん……」


 せめて、リズさんのキスの味を忘れないように。

 唇をなぞって、うつむく由理。


 ぽた、ぽたと。

 熱い滴が、空港の床を濡らした。


「……や、やだ、泣かないでよ、由理。笑顔で見送ろうって、決めてたじゃない」


「ひくっ……季紗こそ。顔、涙でボロボロじゃない、のよぉっ」


 美緒奈も……周囲の視線なんか忘れて、わんわんと泣き出した。


「やっぱ、寂しい、よぉっ。会えなくなるの……イヤだよぉ……っ!」


 絆は永遠、ずっと繋がってる……そう信じられても、私たちは聖人じゃないから。

 やっぱり別れは寂しいし、悲しい。


 だから今は泣いて、泣き叫んで。

 泣き疲れたら、眠って。

 ……そして明日はまた、未来へ歩いていこうと思った。


「ふぁぁっ、うぁぁ……っ! く、ぁぁっ。ぐすっ、ふぅ……うわぁぁぁぁ……ぁぁぁんっ!!」


「ひくっ……ひぅっ。うっ、んぅ……! ぐす、ずっ……ひぅ、うぅー……!」


「うぁぁぁ、うわぁぁぁぁぁぁん! う、あぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ、ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 行き交う人々皆に心配されるくらいに、3人は泣き続けた。

 泣き続けながら、百合キスして慰め合った。


「うう……。ちゅ、ちゅぅぅ……っ」


「ちゅぷぅ、ちゅぅぅー……。ちゅっ、ちゅぅぅぅー、ひくっ、ちゅぷぅ」


「ちゅん、んっ、ぐすっ……。ちゅ、ちゅぅぅ……」


 出会って、別れて……また出会って。

 人生は、その繰り返しなのだろうけど、そんな風に悟るほど、オトナにはなれない。

 だから、泣くことだって、あるけれど。


 前を向くことは、やめない。

 前を向かなきゃ、百合キスできないから。


「ちゅっ……♪ ううぅ、ちゅむぅー……♪」


 3月の終わり、暖かな春の日に。

 3人は一生分の……忘れられない、百合キスをした。


 ※ ※ ※


 ※ ※ ※


 ※ ※ ※


 ここは都内某所、郊外の喫茶店。

 女の子が好きな女の子が集まる、百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」。

 少女趣味全開、白とピンクで可愛らしい店内は、今日も乙女達で大賑わい。


 そして客を出迎える少女たちはもちろん全員、メイド服着用だ。

 ロングスカートの黒のメイド服に、純白のエプロンドレスの正当スタイルが、流行の萌え系とは一線を画す高貴で清潔な印象。


 ここは萌え文化が人々に認知されるより前から続く、実に数十年の歴史を誇る由緒正しいメイド喫茶なのである。


 でも、特筆すべきはそこではなくて。


「ちゅぅぅぅっ♪ ちゅっちゅ、ちゅぅぅっ♪ ふふ、お嬢様? 春の新作パフェ口移し、お味はいかがですか?」


 いきなり口移し百合キスである!

 けれどこのお店では、ごく当たり前、日常的なサービスなのだ。


「んぷぅ♪ ふぁ、季紗お姉さまぁ♪ とても……甘いです♪」


 唇を奪われながら、女の子のお客様がうっとり。

 さらさら亜麻色の髪を長く伸ばした、清楚系お嬢様メイド……季紗は、その反応にえっちな表情で興奮しながら、


「ふふ……♪ もぉっと舌挿れちゃいますから……たっぷり、味わって下さいね。ちゅぅぅぅぅぅぅ……っ♪」


 ぬるぷ。

 ……彼女が、お店の看板娘である。


 そしてまた、別のテーブルでは。


「ちゅぅぅ、ん♪ ちゅぱぁ♪ ちゅ、ちゅぱぁっ♪ や、やぁん♪ お姉さまたちってば、美緒奈の唇、吸い過ぎぃ♪」


 女子大生の団体さんに、ちゅっちゅちゅっちゅ唇を吸われて喜んでる、赤毛ツインテールのロリメイド。

 小学生サイズの小悪魔メイド美緒奈は、挑発的に目を細めて、


「にひひ、美緒奈様可愛いから、仕方ないけどね。お姉さまたちがよくじょーしちゃうのも♪」


 ロリな顔に似合わず、メスオオカミな狩人の表情で、エロティックにニヤリ。


「ふふっ、美緒奈様と、もっと口移しキスがしたいのかな? じゃーあ……次はこの、2600円の特製ロールケーキを注文してね♪」


「きゃー♪ 注文するするぅ♪ 美緒奈様とキスできるなら、安いものよ♪」


 ……やっぱり美緒奈、商売上手である。


 その奥、カウンター席では。

 今では、由理も……。


「ちゅぅっ♪ ふぷっ、むぅ……ん♪ い、いかがですか、お嬢様。初めての、百合キスは……♪」


 初めてご来店のお嬢様にも、熱い接吻ベーゼを贈れるようになりました。


「ふぁぁ♪ ちゅ……♪ んっ、し、知らなかったです。女の人とのキスが、こんなに……ドキドキするなんて♪」


「ふふ……♪ 赤くなって、お嬢様可愛い♪ もっと……やめられなく、なっちゃいましょうか♪」


 セミロングに髪を揃えた、活発系美少女メイド……由理。

 「リトル・ガーデン」の、現バイトリーダーは、女の子の頬に手で触れて、顔を近付けて。


「……る、ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅっ♪」


「んっ、ふぅぅぅぅー♪」


 舌で、唇を舐め割り、お口の奥まで挿入するのだった。


「……って、別に私が、変態さんになったわけじゃないからねー!?」


 誰にかは分からないけど、由理は赤くなって言い訳する。


「バイトリーダーの責任っていうか……前よりちょっとだけ、積極的にキスしてみようって、それだけなんだからー!?」


 とかなんとか言いながら、結局由理も、


「ちゅっ♪ んぐ、ぐちゅぅっ♪ ぢゅぶ、るぷぬ♪ ふぅっ……やっぱり、百合キス、好きぃ……♪」


 百合キスに溺れるのでした。


 こうして、「リトル・ガーデン」はまたいつも通り。

 百合乙女たちの唇が奏でるぴちゃぴちゃ音と、甘ったるい吐息に満たされる。


「ちゅぷっ♪ ぴちゃん♪ ふぅっ、ちゅっぷ、ちゅっぷ♪ ぴちゅぁん♪」


「ぬっぷ、ぬっぷ……♪ ふぅ……っ♪」


「ずちゅ……♪ ずちゅ……♪」


「……ちゅぅぅぅっ♪ ちゅぷ、ふぅぅ……っ♪ ふ、ちゅぅぅぅ……っ♪」


 可愛らしい内装の中で、ケーキや珈琲、紅茶を、乙女たちが口移ししてる……。

 そんな、百合メイド喫茶の光景に。

 ようやく順応してきた新人メイドの千歌流ちかるが、


「……まったくもう。ふーぞく、って言いたいですけど」


 やれやれと呆れながら、でも微笑んだ。


「……皆、幸せそうですよね」


「もっちろん。だって、ここは。このお店は……」


 その言葉へ、由理は胸を張って。


「乙女の、聖域ですから♪」


 ……ちゅっ♪

 お嬢様たちへ、百合キスしながら答えた。


 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」……男子禁制、いつも百合の花咲く、乙女たちの理想郷ユリトピア

 時が流れて、人が入れ替わっても、きっとこのお店は、存在し続けるでしょう。


 百合キス最高。

 その、永遠の真実がある限り。

 この小さな庭に、百合は咲き続けるから。


「……ちゅっ♪」


 ※ ※ ※


 そしてまた。

 今日も、一人の女の子が、新しい世界の扉を開こうと……。


「べ、別に私は、女の子同士でキスなんて、興味無いんだけど!? ほ、ほら、社会勉強っていうか!?」


 からん、ころんと、お店のドアのベルが鳴って……。

 ほんの少しの勇気とともに、扉を開いて、一歩を踏み出せば。


「お帰りなさいませ、お嬢様♪」


 きっとそこには、百合色に輝く未来が。

 ほら、世界はこんなにも、暖かなもので満ちている。


「ちゅぅぅっ……♪」



《百合メイド喫茶へようこそ♪ 完》

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百合メイド喫茶へようこそ♪ 百合宮 伯爵 @yuri-yuri

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