それから
翌日の朝、俺はいつものようにスマートフォンのアラームで目を覚ました。時刻は午前6時ジャスト。会社の敷地内にある社員寮に住んでいるためもう少し寝てても出勤には間に合うが、昔から朝型の人間だった自分にはこの時間に起床するのがもはや当たり前のようになっていた。いつものようにのそのそと布団を抜け出し、アラームを止める。
「うー……さむっ……」
地元と比べたら九州の気温は遥かに高いがそれでも今は12月、朝と晩はやはり冷える。そのため最近は起きてすぐにエアコンのスイッチを入れて30分くらい布団の中でダラダラしながら室温が上がるのを待つことにしている。もともと不活発なうえに冷え性持ちの自分にとっては冬の朝から動き回るというのは苦行みたいなものだし、それはごく当然の行いだった。
しかしながら今日だけは違った。空調の電源を入れた俺はすぐに敷かれた布団を畳み、朝食の準備に取りかかる。といってもまぁ今朝は戸棚に入った切り餅をキッチンに置かれたレンジに投げ込んでスイッチを入れるくらいのものだが。それからすぐ食べられるように餅が焼き上がるまでの僅かな時間を使って海苔と醤油と皿を部屋に用意する。それから先の食事や歯磨き、洗顔に着替えまで済ませてしまう。
「さて、こんなもんかな。」
てきぱきと一通りの身支度を済ませた俺は、いつもより少しだけ出社すると、一足先に来ていたらしい部長に挨拶をする。
「部長、おはようございます。」
「おはよう。そういえばこないだの現場の件だけど……」
「あぁ、あれですか?結局今年は帰省しないことになったんで平気っす。」
あのあと二人と別れて帰宅した俺は実家の母に電話をした。内容は先日の電話の時に言い過ぎてしまったことへの謝罪と、やはり今年は帰省しないという報告。時間が経ってお互い冷静になっていたからか、前はあれだけ拗れた話が今回はあっさりとした感じで済んだ。自分としても可能なら帰りたかったし、声やしゃべり方から母が非常に残念そうにしているのを感じたときは心が痛んだが、運を天に任せた結果こうなったのだから仕方がない。それに生きてればたまにはこういう事だってある。だからこの痛みはきっと大人になるための
「そうじゃなくてさ、実はあの現場延期になったんだよ。」
「ふぇっ?」
「いやぁ、あちらさんの都合でね。そういう訳だから年末年始はカレンダー通り休んで良いよ。」
それだけ俺に伝えると、部長は大きな鞄を持って外へ出ていってしまった。きっと今から客の所へ行くのだろう。誰もいなくなった事務所にひとり残された俺は、急なスケジュール変更に対する怒りと一気に押し寄せる徒労感にただ呆然とすることしかできなかった。
成長痛 アリクイ @black_arikui
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