ホテル最上階の高級レストランで、激しい口論をする若い男女のお話。
ぱっと見はただのカップルの痴話喧嘩、ちょっとした日常のワンシーン……かと思いきや、といった筋書きの作品です。およそ3,000文字というコンパクトな尺の中、シンプルながらも綺麗にまとまったストーリーラインが魅力的でした。
インパクトの強い会話の場面から入って、中盤で詳細な事情を明かしつつ不穏な空気を匂わせ、最後に急転直下のひねりを加えて落とす。流れが綺麗で、くっきりと浮き立つようなわかりやすさがあって、真っ直ぐ滑らかに読み通せたお話でした。
若干ネタバレ気味の感想になってしまうのですが、結び付近の展開の味わいというか、この辺りに含まれた豊富な想像の余地がとても好きです。落涙、という、これ以上ないくらいにはっきりとした情緒の証。はたして彼の抱えた欠陥は、本当に欠陥と呼べるほどのものなのか? なまじ本物の怪物であるがゆえに見ることのできない、自分自身の本当の姿。決して満たされることのないであろうその飢えに、どうしようもなく心が揺さぶられてしまいました。