2択問題

それから俺はユウヤの姉であるマリさんに、いま自分が置かれている状況を説明した。ユウヤの隣でうんうん頷きながらこちらの話を聞く彼女の様子は先程までのユウヤのそれと似ていて、やはり姉弟なのだと感じさせる。


「ふーん、それで帰省するかどうか悩んでたってわけね?」

「俺は絶対帰った方が良いと思うんだけどなー。」

「あんたはちょっと黙ってなさい。」


肘で真横に座る弟を小突くマリさん。一方やられたユウヤは小声で悪態をついていたが、どうやら二人のパワーバランスはかなりハッキリしているらしく、ひと睨みされただけで黙ってしまう。俺に帰省するよう促していた彼のキリッとした姿はいったいどこに行ってしまったんだ。


「いや、彼に言われてやっぱり帰ろうかなとは思ってます。こういう時でないと会えないですし。」

「ふーん。別に私には関係ないしどっちでも良いけどさ、なんかそれ大変じゃない?あっ、カレーとアイスコーヒー下さい。」


確かに自分にかかる負担はこれまでの帰省と比べて大きくなると思う。元々それが嫌で帰らないようにするって決めた訳だし。ただユウヤの言う通りきっと母さんは、いやたぶん他の家族も俺の帰りを楽しみにしてくれているだろうし、多少無理してでも帰省しておいた方が、ってお姉さんまでカレー頼んでるし。


「家族の為にって気持ちはまぁ分からないでもないし立派だと思うけどね、もうちょっと自分勝手になっても良いんじゃない?」


それにもう大人なんだから親離れしなきゃね、とマリさんは言う。まぁ確かにもう就職して3年。半分くらい学生気分だった新入社員の頃とは違うし、もう年齢的にも30代に近付いて来ている。そんないい歳した大人がそこまでして家族と会おうとするというのは周りの人間からしたら親離れできていないように見える、のかもしれない。やはり帰省は盆まで見送るべきだろうか。


「でもよー、さっきも話したけどもうどれだけ一緒にいられるか分からないんだぜ?会えるときに会わずに後悔しても遅いんだぜ?」


姉に睨まれてからずっと沈黙していたユウヤがようやく口を開いた。といっても先程までと内容は変わらないが。……しかしいくら考えても二人の言っていることはどちらも正しいように思えるし、いったいどうすれば良いのだろう?帰省するとなれば体力的にも金銭的にも負担は避けられない。しかし帰省を見送れば家族と会える貴重な機会を一回分失うことになる。あちらを立てればこちらが立たず、か。


「なに言ってんの。もうこの子も大人なんだから……」

「いや、でもやっぱり帰省した方が……」


どうするべきか考えている俺をよそに二人は帰省した方がいいとか、いや、やめといた方がいいとか言い合っている。きっとどちらを選んでも完璧って訳にはいかないだろうし、これ以上彼らにあれこれ考えさせるのもなんだか申し訳ないと思った俺は、ズボンのポケットに入れた財布から500円玉を取り出すと、親指で思いきり弾き上げた。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る