竜が息吹く町

多口綾汰

1話目

私の故郷である静岡県磐田郡竜洋町は,平成の大合併により名を変え,新たな一歩を歩み始めた.

小学生の時,私は学活の時間で郷土史を学んだ.

その頃は,私が住む地元は「竜」が名前に付くということで,かっこいいと喜んでいただろう.

成人を迎えた私にとって,そのことは懐かしい思い出であると共に,故郷の歴史は後世に伝えたい大切なことであろう.

そういった目的のため,この場を借りて,私の解釈を交え,竜洋町について述べる.

ここで記述することは必ずしも正しいとは限らない.

実際に存在する町について,少しばかしのファンタジーのスパイスで味付けしていることを考慮してほしい.


日本の川は水の流れが早い.

なぜならば,日本の国土の約75%は山地が占めており,標高の高い上流から河口まで,急勾配で流れ落ちる.

その有様は,昔の人々はこう言った.

「まるで,竜が暴れているようだ」と.

私たちが住む町の側には天竜川――地元では別名,暴れ天竜と呼ばれている河川がある.

昨今では,軽巡洋艦天龍の命名はこの川に因んで名付けられたことで知られているのかもしれない.

私たちは子どもの時からその存在を知っており,小学校や中学校の校歌にも,その名は刻まれている.

昔は天竜川が氾濫したことがあり,氾濫の跡の上に作られた中学校のグラウンドは水捌けが悪く,雨が止んでも,すぐにはグラウンドを使えなかったことを覚えている.

江戸時代では,天竜川は上流から良質な木材や物資を運搬に利用され,河口では江戸や大阪の中間の湊として栄えていた.

その湊が栄えていた当時の繁栄を今に伝えるため,毎年10月に遠州掛塚貴船神社例祭が行われている.

地元の人たちが祭りの時期になると活気づき始めて,祭りの賑やかさは江戸時代の活気を再現しているのではないかと思わせるほどである.


天竜川は遠州灘に注がれる.

竜洋町は「洋」が名前に付く理由の1つとして,太平洋に面していることが挙げられると考えられる.

私たちの地元が含まれる海域のことを遠州灘と呼ばれているのだ.

近くに海があるのに,私は遠州灘で遊泳したことがない.

なぜならば,遠州灘は波が荒いため,全域で遊泳禁止であるからだ.

遠州灘はまさに天竜川という竜の,入ろうとするものを喰らう巣のようなものである.

そんな遠州灘に足を運ぶ海の生き物として,海亀がいる.

海亀が産卵時期になると,遠州灘の砂浜に訪れて卵を産み,立ち去っていく.

その産んだ卵から子どもの海亀が孵る.

その孵った海亀は海に帰るために歩き始めるのだが,文明が進んでいくうちに問題が浮上してきた.

海亀が大好物のクラゲと間違えて漂流・放置されたビニール袋を食べてしまったり,夜のネオンの明るさで海の方角がわからなくなってしまったりしてしまう.

そのため,海亀を保護する団体が存在し,海亀を安全に海へ帰れるようにと活動を行っている.

私も小学生か保育園の頃に海亀の放流イベントに参加したことがあり,実際に海亀の子どもを触ったり,砂浜に放置されているゴミを片付けた覚えがある.

今でも保護活動を行っているようで,放流イベントを開催しているらしい.


私たちの住む地域では,風が強いことが特長である.

遠州のからっ風と呼ばれており,地域特有の強風が吹いている.

この風を利用した,風力発電として,風竜という巨大な風力発電風車が竜洋海洋公園内に設置されている.

風竜は私が小学生のときに設立され,愛称募集を小学校で愛称を考え記入した覚えがある.

空が明るく,遠くの景色が見れる時には,その羽根を回す姿を自宅付近からでも眺めることができる.

風を全身に浴び,その羽根を羽ばたかせ,私たちの生活に必要な電力を生み出している.


竜が息吹く,海と風と自然の町――竜洋町.

町の名前や町の形が変わりさえしたけれど,今でも私たちは竜たちと共に生活している.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

竜が息吹く町 多口綾汰 @ayata_taguchi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ