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「次回もっ! 新・魔法少女エクセレント☆ガールをお楽しみに~」
「はい、カットー!……いまのでエンディングコール頂きます! これで収録は終わりになります、皆さんお疲れ様でしたー」
音響さんのアナウンスがアフレコブースへと流れ、私は先輩達に挨拶をしてブースを出た。
先輩達は口々に「佐藤さん成長したね~」と言って肩を叩いてくれた。
「お疲れ様、佐藤さん!」
ブースを出ると、すぐに担当マネージャーの宇賀神さんが声をかけてくる。
「お疲れ様でした! 宇賀神さん、私、どうでした!?」
「いや~良かったよ佐藤さん!! お姫様やってるシーンなんて特に良かった!! これは放送が楽しみだね~」
宇賀神さんは嬉しそうにそう言うと、私を労ってくれる。
「まさか、あの佐藤さんが、マエガ新作の追加ヒロインオーディションに合格するなんて……ほんとに、本当に僕、七浜さんに佐藤さんを預けて良かったよ!!」
「ちょ、宇賀神さん! まだここスタジオですから! 泣くなら事務所に帰ってからにしてくださいよ! ほら、ハンカチ!」
涙を滲ませる宇賀神さんを窘めながら、私はこの数ヶ月を思い返す。
依頼を終え、あの路地裏の古ぼけた鏡で異世界から帰った私は、すぐにある一本のオーディションを受けさせて貰えた。
“新・魔法少女エクセレント☆ガール追加ヒロインオーディション”
そう銘打たれたオーディションに、私は見事合格。
某国のお姫様っていう設定の追加ヒロインは、その外見も見事に私が経験してきた影役であるシャルフィーナ皇女にうりふたつだった。私は全く何の違和感もなく、自然にその役になりきることが出来たのだ。
無論それだけではない。
マエガの追加ヒロイン役を勝ち取ってから、他にも劇的にメインどころの役を貰える事が増えた。今まで私をあまり評価していなかった音響監督さん達も、「化けたね佐藤さん」と一様に私の演技を評価してくれるようになった。
「これが、お婆さんの言ってた事なのかな」
私はそう呟いて、異世界屋のお婆さんが私をあの世界に送り込んだ時の言葉と一緒に、あの時の事を思い出していた。
∬
「待たせたな、リオナ、フェルティ」
上空から、辺り一帯の空気すべてを震わせるようにして、そんな言葉が聞こえる。
そして、上空を覆っていたドラゴンの内の数十匹が虹色の光を発して消えた。
それから、私たちの前に一人の女性が空から降ってきた。
銀色の長髪をたなびかせて降り立った女は、白銀の甲冑を着ていて、腰に携えていた長剣を抜いた。
「シャルフィーナ・ファラギオン皇女殿下の騎士! カレンデュールである!! ラントン・トンスラーン! そなたの所業、見させて貰ったぞ!」
「カレンデュールさん!?」
私が驚いて声をあげると、他にも男女入り混じったの騎士が上空から次々と降りてくる。
「な、なんか今、ドラゴンから変身して!」
私が口をパクパクさせながらそう言うと、カレンデュールさんがあきれるような表情をする。
「なんだ急に、秘儀を行っていると言っていただろう? リオナ」
「いや! ドラゴンを連れてすぐにでも駆けつけるとは聞いてたけど、まさかカレンデュールさん自身がドラゴンに変身してるだなんて、思うわけないじゃないですか!」
「そうだったか……? 我ら《ヒュラドラゴ族》の皇族のみならず、竜化できる素養を持つ者は、共に秘儀を用いてドラゴン化する儀式なのだが……まぁそれはいい、それよりもラントン王子だ」
初めて聞いたよ! ていうかヒュラドラゴ族ってなに!? 私、普通に姫様やカレンデュールさんもヒュラ族だと思ってたから!!
私の困惑をよそに、カレンデュールさんは向き直ると、剣の切っ先をラントン王子へと向けた。
「観念しろ、ラントン・トンスラーン。
そなた達の所業、上空からしっかりと見させて貰った。まさかこのように直接的な罪を犯しに来るとはな……我がファラギオンの竜騎士たちにこうも囲まれて、もはや逃げられるとは思うなよ! さぁ罪人達を引っ捕らえろ! 監獄へ出荷だ!」
「(´・ω・`)そんなー」
ラントン王子を始め、従っていた騎士やメイド、冒険者達が次々とカレンデュールさんの連れてきた騎士達に捕らえられて連れて行かれる。
上空を覆うドラゴン達に威圧されてか、誰一人、抵抗する気力も湧かないようだった。
∬
ラントン王子達を王都の外れにある監獄へ引き渡し、城へと帰ってきた私たち一行は、久しぶりにシャルフィーナ姫様に謁見した。
「皆ご苦労であった。特にリオナ、フェルティ……そなたらには感謝してもしきれん」
私たちに感謝するシャルフィーナ皇女は、本当にとても嬉しそうで、同時にほっとしたような表情をしている。
「いえ! こんなことになってしまいましたが、皇女様の依頼を達成できて良かったです!」
酒場で着ていた服に着替えたフェルティちゃんが元気よく答える。
「私もです。その……お姫様になるなんて大変でしたし、影になりきれてたのかも分かりませんけど、皇女様が笑って暮らせるようになりそうで、私もとっても嬉しいです!」
フェルティちゃんと姫様の笑顔を見ていると、私もつい嬉しくなってしまう。
「有り難うリオナ。私もカレンデュールから聞いただけではあるが、とても良く私の影を演じられていたと言っていたぞ。そうだろう、カレンデュール?」
シャルフィーナ皇女が、隣に控えるカレンデュールさんに話を振る。
「はっ! リオナはとてもよく姫様の影になりきっていました! それに、我々にラントン達の愚行を知らせてくれたのも、リオナなのです! その連絡を受けた我々は、儀式を中座して即座にリオナ達の元へと向かいました。おかげでラントンを捕らえることが出来た。
彼らはファラギオンで罪を犯したのです。今後一生、日の光を浴びることはないでしょう」
そう、カレンデュールさんに危険信号を送ったのは私だ。
ラントン王子に鏡の指輪の使用を看破されたそのとき。
私はすぐに〝右手の薬指に付けた指輪〟へ触れた。
あの指輪は事前にカレンデュールさんに渡されていた物で、触れるともう片方の指輪が点滅して、離れていてもなんらかの連絡を取れる魔法具なのだ。
鏡の指輪とは違う、このもう一つの指輪を使うことで、私はカレンデュールさんに危機を知らせた。
「そうか……リオナの素早い対処あっての事だったのか。重ね重ね感謝するぞリオナ」
うんうんと頷いてシャルフィーナ様が頷く。そして姫様が何度か手を叩くと、次々と部屋にご馳走が運び込まれる。
「さぁ、宴の用意をさせている! 無論これだけではないぞ! 他の部屋にも、酒と食事を用意させている! 今宵は無礼講だ! みな存分に楽しむが良い!」
シャルフィーナ皇女の一声で、一斉に宴が始まった。
売れない声優の私が、演技力向上のために異世界に行った経緯について 成葉弐なる @NaruyouniNaru
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