「(´・ω・`)ほーら、やっぱりラントンの思った通りだった。

 (´・ω・`)あやまって?

 (´・ω・`)そうだと思ったんだよね。

 (´・ω・`)ねぇねぇ、ガルフ」


「はい、何でしょう王子」


 ラントン王子に名を呼ばれたガルフが、こちらへ剣を向けながらも返事をする。


「(´・ω・`)この場合ってさ、ラントンどうなるの?

 (´・ω・`)皇女殿下に剣を向けた無礼で捕まったりするの?」


「それはございません王子。相手は偽物だったわけですから、皇女殿下に対する無礼で捕まるようなことはございません。ですが、こうしてファラギオンの国民に剣を向けていることは、やはりどうしようもありませんなぁ。彼らが訴えでれば、我々が罪に問われる事は確実でしょう」


 ガルフはこちらと剣を構えて対峙しながらも、とても弁舌にラントン王子の質問にすらすらと答える。獰猛なみかけによらず、頭も冴えるらしかった。


「(´・ω・`)そんなー。

 (´・ω・`)うーん、ラントンは期限切れでトンスラーンに帰って、

 (´・ω・`)求婚拒否出来なかったシャルフィーナをお嫁さんに貰えれば、

 (´・ω・`)それだけで良かったんだけどなぁ……。

 (´・ω・`)あの普段はふんぞり返ってる強気っ子をさ……ぐふふ」


 ラントン王子は下卑た笑い声を漏らすと、側に控えていた彼のメイドたち、その内の兎耳の子の胸を揉みしだいた。兎耳の子は「もう、ラントン様こんな時に」と恥ずかしそうに囁く。


「(´・ω・`)仕方ないね。

 (´・ω・`)ここにいる人たちには全員……死んで貰うしかないよね」


 ラントン王子がそう言って、私は初めて、ラントン王子の何の表情も感じられない豚面が歪むのを見た。私はゴクリと唾を飲み込んで、再びフェルティちゃんの方を見ると、彼女がぶんぶんと首を縦に振った。私はすぐに動いた――


「――燃やし尽くせ! 《ファイアーボール》!」


 私はラントン王子めがけて左手を掲げると、呪文を発した。


 私の呪文詠唱を聞いたガルフ達がすぐさまラントン王子を守るように間に入る。

 しかし、私の手からは何にも出ない。


「(´・ω・`)びっくりしたぁ。

 (´・ω・`)はったりとか、やめて?」


 ラントン王子がそう言った直後、私の手からは燃えさかる巨大な火炎球が打ち出される。そして、私の視界から、ついさっきまでそこで首を振っていたフェルティちゃんが消えた。


 相変わらず詠唱からのラグが凄いなぁ。でも念のため攻撃魔法をカレンデュールさんから習っておいて良かった。目眩まし程度にはなるんじゃないかな。

 っていうか、フェルティちゃんはっや。

 さすが神速。全然見えなかったよ動いたの。


 私がそんなことを考えていると、火炎球はラントン王子を守るガルフ達護衛の騎士二人に襲いかかる。

 しかし万全の備えをされていたからか、私の撃ちだしたファイアーボールは二人の剣によって阻まれる。けれどそれでも支えきれず、じりじりと二人は押されるように後退していく。


 燃えさかるファイアーボールの大きな火の粉が、護衛騎士達の間からラントン王子へと飛んだ。ラントン王子の腕が火の粉によって焦がされる。


「(´・ω・`)じゅあわくるくる 」


 ラントン王子は火傷を受けて白目になっていたが、すぐに王子の金髪メイドさんのウォーターとヒールによって消火され癒やしを与えられた。


「(´・ω・`)あやうく出荷されるかと思ったよ。

 (´・ω・`)ガルフ、なにやってんの!」


 ラントン王子に叱咤されたガルフが雄叫びを上げる。


「ウォオオオオオオン」


 雄叫びをあげたガルフが、私のファイアーボールを盛大に真上へと弾き飛ばした。

 ファイアーボールは別荘の屋根を穿ち、それでも止まらず空へと上っていく。


「何物だその女……これがファイアーボールだと!? どう見たって初級魔法の威力じゃないぞ……」


 ガルフ達は疲れの見える表情で、またこちらへと剣を構え直す。特に私の動きを警戒しているように見えた。


「リオナさん! こっちはオッケー。行くよ!」


 背後からフェルティちゃんの声がして振り返ると、いつの間にか私の裏に回っていて、下働きの女の子を助けだそうと、爬虫類男たちの首をナイフで斬り飛ばしたところだった。首が二つごろりと床に転がり、噴き出した真っ赤な血がフェルティちゃんのメイド服を染める。


「リオナ殿、フェルティ殿の元へ!」


 女騎士二人が殿を務め、疲れ切ったガルフ達をいなしながら、私達は部屋から逃げ出した。


「フェ、フェルティちゃんさっきの人……し、死んで……?」

「あぁー大丈夫ですよ。彼ら《リィザ族》ですから、首を飛ばされても少ししたらまた生えてきます。その間は動けませんけどね。それにしても、良い判断でしたリオナ。あのファイアーボールには、ガルフ達も目を剥いてましたからね。おかげで私も動くことが出来ました」


 眩しい笑顔をフェルティちゃんが私へと向ける。顔は笑っているが目が笑っていない。

 私がフェルティちゃんの言葉を本当かどうか信じかねている間にも、私たちは別荘の出口を抜けて、中庭へと出た。護衛の女騎士二人も無事にガルフ達を振り切って合流した。


 だが、フェルティちゃんに抱えられていた女の子と武闘派の三人はともかく、私とメイドさんたちの三人はもうヘトヘトだ。


 中庭に抜け出したまでは良かったが、他の下働きたちがまだ別荘の中に残っていると思う。

 それに――私たちは冒険者たちに取り囲まれていた。


「おーおー。神速のフェルティもこうなっちゃ形無しだなぁ」


 私たちを取り囲んだ男の内の一人が嘲るような声をあげる。


「あなたたち……ダックスさんはこの事知ってるんですか!?」


 フェルティちゃんが見たことのない鋭い目つきで男たちを睨み付ける。


「あぁ? ダックス? あいつは関係ねーよ。ラントン王子の臣下から直接依頼を受けたんだ。冒険者酒場を仕切ってるあいつを通さなくて良い分、実入りもいいんだぜ?」


 男達がへらへらとフェルティちゃんに答えると、別荘からラントン王子たちが出てくる。


 四面楚歌だ。

 周りは冒険者達に完全に囲まれている。


「(´・ω・`)はまじ。

 (´・ω・`)どうせ逃げられないんだし、無駄な努力はやめよ?」


 ここまでか……。

 まさか声優としてブレイクする前に、こんな異世界で一生を終えることになるなんて……わたしって本当についてない――。


 ――なーんて思うわけないじゃん。


「本当にそうかな?」


 私はそう言うと、ラントン王子に思わせぶりな笑顔を向ける。

 すると、さっきまで快晴だった空が暗くなった。


「(´・ω・`)なになに。

 (´・ω・`)追い詰められて頭でもおかしくなったの?」


 ラントン王子は再び、おぞましく歪んだ笑顔になった。

 そんな笑顔を向けられても、私は動じない。


「上、見てみなよ」


 仕方ないから、この変態王子に教えてやった。


「(´・ω・`)はぁ? 上?

 (´・ω・`)そういえば、さっきまで晴れてたのに、なんか暗く……」


 ラントン王子達が上空を見上げる。


 彼らの瞳に――何十匹もの巨大な龍、ドラゴン達が上空を覆い、日の光を遮っている姿が映った。

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