みじかい おはなし

@Leithy_Caledonian

第1話 月光姫

 昔々ある国に、プリンセス・ムーンライトと名付けられたお姫様がおりました。お姫様はかわいい方ではありませんでしたが、想像力豊かで、眠りにつけば楽しい夢をたくさんみました。そのため、お姫様はたのしいお話をたくさん知っていました。それを生き生きと語るので、学者や吟遊詩人から羊飼いの少年、花売りの女の子もがそのお話に聞き入るほどでした。

 ある日、南の国から商人がやってきて、漆黒の液薬を売っていました。なんでも学者が飲めば素晴らしい発明が日々できるようになるとか。その上、この世のものとは思えないほど良い香りがすると評判でした。好奇心旺盛なプリンセス・ムーンライトがこれに興味を持たないはずがありません。早速従士にこの薬を買ってこさせました。お姫様が真っ黒な小瓶の蓋を開けると、極上の絹と荘厳な音楽とおひさまの下の果樹園のような香りがしました。


 「まあ、すてき!」


そういうと、お姫様はその液薬を一気に飲み干してしまいました。するとどうでしょう!プリンセス・ムーンライトは眠らないお姫様になってしまいました。もっと大変なのは、夢をみることができなくなったことでした。お姫様はもう楽しいお話をつくることができません。

 こうして、お姫様は来る日も来る日も宴を開くことに、学者は新しい論文を書くことに、詩人は韻を踏むことにすべての時間を捧げるようになりました。もう誰も、お姫様の楽しいお話のことを覚えている者はいなくなりました。

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