第6話
スイートは倒れた怪人を蹴って仰向けにすると、ポケットから白地カードを取り出す。
「あなたの能力、封印させていただきます。『塔』のカードマスター。香駆マイに変わって命じます。悪しきアンゴルモアを封じなさい」
白いカードから光が発せられ、太郎の額のカードに描かれていた絵が消える。
それと同時に、太郎の体は元に戻っていった。
「『魔術師』封印。あなたの可能性 摘み取りました」
そういってスイートは決めポーズをとる。秋葉原はオタクたちの歓声に沸きあがった。
「さて。これでアンゴルモアは封印したけど……一応タレントカードももらっておこうかな?」
オフィススイートは、絵柄が消えたカードを太郎から引き剥がそうとする。
そのとき、黒ジャージの男だちがいっせいに彼女を取り囲んだ。
「ニート!ニーター!二ーテストォ!」
わけのわからない掛け声を叫びながら、オアィススイートをはやし立てる。
立ちすくむピンクの前に、びん底メガネの黒パジャマの女が立ちはだかった。
「フジョーシさん……」
「スイート。下がりな。そいつは私たちが保護する」
フジョーシは気絶している太郎を指差す。
しかしスイートはわらって言い放った。
「そんなゴミ、どうするんですか?もう才能(アンゴルモア)は吸い尽くしましたよ」
先ほどのカードを見せて高笑いする。そのカードには、檻に入れられたランプを持った老人が描かれていた。
「いいから、そいつをよこしな。お前たちからみたらゴミでも。私たちから見れば仲間なんだよ」
フジョーシは複雑な顔で言い放つ。そんな彼女をピンクは軽蔑の目で見つめた。
「ふん。物好きですね」
「いいから、ここは黙って引き下がれ。さもないと……こいつらをけしかけるよ」
フジョーシは黒ジャージたちに目配せする。彼らはうなずくと、いきなり下半身のタイツを脱ぎだした。
「ニートのシンボルぞうさんマーク。ここだけは毎日お手入れぴっかひか」
いきなり腰を振りながら、リンボーダンスを踊り始める。
股間をみせつろるように強調され、スイートの顔は真っ赤になった。
「ふ、ふん。まあ、どうせ白地のタレントカードはたくさんあるし、私たちの仲間になりそうな人の目星もつけています。私たち「ソーサリー」の世界征服はとめられませんよ?」
そういって、オフィススイートは空を飛んで去っていった。
「あんなエリート気取りのバカたちの野望なんて、あたしが、全力でとめてやるよ。みんな、いくよ!」
「ニートぉ!」
黒ジャージたちは声を張り上げ、気絶した太郎を担ぎ上げる。
そのまま救急車に乗って、どこかに去っていった。
郊外の人目がつかない処にある潰れた病院に、黒ジャージの女が運転する救急車はやってきた。
「お前たち、こいつを治療室に運びな」
「ニートぉ!」
忠実な黒ジャージたちによって、気絶したままの太郎は治療室に運ばれる。
そこは手術室を改造したと見られる怪しい部屋で、壁一面に乾いた血が飛び散っていた。
「くそっ!ここはどこだ!」
意識が戻った太郎は、自分の状況を確認して驚く。
ハダカのまま診察台の上に縛り付けられていた。
「くそ……俺はどうなったんだ。たしか、変な怪人になって、変な女に何かされて……それから」
ぼんやりとした記憶を探ると、自分がした異常な体験を思いだすことができた。
「くっ……早く逃げないと」
そう思うが、よく体を動かすことができない体のどこにもいたい場所はなかったが、異常なほどの倦怠感が体を支配していて、指一本も動かす気力がわいてこなかった。
内心であせっていると、黒パジャマの上に汚れた白衣を着ためがねの女が姿を現す。
その女、フジョーシは、診察台の上の太郎を触診した。
「まずいな……魂と一体化していた「アンゴルモア」を無理やり奪われたせいで、精神エネルギーを大幅に失っている。このままじゃ、こいつらと同じになりかねない」
フジョーシは痛ましそうに、自分の手下を見る。彼らは「ニートぉ」「会社……」とつぶやくだけで、具体的な命令を出さなかったら動こうとしなかった。
「仕方ないね。こいつの精神力にかけるしかないか。いいか、今からあんたにある儀式を施す。それに耐えることができたら、新しい力を得ることができるだろう。がんばってくれ」
フジョーシがそういうと同時に、彼女は額に手をあてる。
「アンゴルモア覚醒。リバースタレントカード「悪魔」発動」
フジョーシの額のカードに、頭部に黄金の角と冠、背中にコウモリのような羽をもち、手には鋭い爪を備えた悪魔の姿の絵が浮かぶ。ただし、ほかのカードの絵とはちがい、逆立ちしたように逆向きになっていた。
「よし、この「反魂水(リバースソーマ)を吸って、覚醒するんだ」
黒い水差しから黒い煙が出て、太郎を包み込む。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」
太郎に、マルスに変な水を飲まされた苦痛が襲ってくるが、診察台の上に縛り付けられているので逃げることはできない。
「がんばってくれ。私には味方がいない。だから、君だけが頼りなんだ」
そう太郎を見下ろすフジョーシの顔には、申しわけのなさが浮かんでいた。
そしてしばらくすると、苦痛が治まっていく。同時に、少しずつ気力が戻ってきた。
「……ええと……フジョーシさんでいいんですか?」
太郎はベットのそばに寄り添っていた、メガネの女に話しかけた。
「おおっ?言葉が話せるということは、無事にリバースタレントを発動できたんだな。よかった」
フジョーシは涙を流して喜んだ。
「……とりあえず、縄をはずしてください。逃げたりしませんから」
太郎がそういうと、フジョーシは縄をはずしてあげた。
「とんだことに巻き込んですまなかったな」
「とりあえず、何がなんやら……」
「そうだろうな。では、説明しよう」
フジョーシは太郎を促し、応接室へと場所を移した。
そこは寂れてはいるが、元は豪華な部屋だったらしい。おいてあるソファも古びてはいるが、重厚なものだった。
黒ジャージにエプロンをつけた、不気味なメイドに案内されて、太郎はソファに座る。
コーヒーを飲みながら部屋を見渡していた太郎は、デスクの上にある写真に気づく。それには、三つ編みをしたかわいらしい少女と、白衣を着た博士のような中年男性が写っていた。
太郎の視線に気づいたフジョーシは、辛そうな顔をして説明する。
「私の父だ。この亜熊医院の院長を務めていた」
「お父さんは?」
太郎が聞くと、彼女は悲しそうに首を振った。
「数年前、自殺したよ。あの白鷺一族にすべてを奪われて……地位も、名誉も、私も……」
フジョーシは、自分の今までの人生と、どうしてこんなことをしているかをゆっくり話しはじめた。
悪の組織、立ち上げました 大沢 雅紀 @OOSAWA
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