第8話




髪と体をロアに洗ってもらい、2人は湯船に浸かっていた。銭湯くらいの大きさはある洋風の風呂だが何故かロアの脚の間にモナが座らせられているという異様な状況だ。


「...手錠、いいのかよ」

先程から気になっていたのかぽつりと呟く。

「いらないよ、モナが僕と二人きりの時はもうこれから付けないつもりでいるんだ」

「さっきあんなことしたから今日こそは殺すぞ」

「はは、怖いなぁ...。でもね、モナは僕を殺せないと思うよ。だってこうして撫でていると嬉しそうにしているから」

確かに昨日も抱き寄せられながら眠ったり、今こうして密着したまま撫でられているのは何故か心地よく、懐かしい気持ちになっている。

「...自分でもわからない、お前のことを恨めば恨むほど悲しくなってくる、...お前は俺の何だ」


少し間が空いてから苦しいくらいに後ろから腕を回され抱きしめられる。

「...モナ、僕は君の飼い主だよ」

「...ペット扱いかよ」

「ペットなんかじゃない、モナは大事な僕の...世界の中心みたいなものかな」

「そんなやつにあんな酷いことするか?」

「さっきまではあんなに素直にオネダリしたのにね」

楽しそうにモナの頬を突いていると煙たそうにモナが手を払う。

「僕はそういう意地張ったとこも好きだよ」

楽しそうにしながらモナを抱き上げると、軽く脱衣場で自分とモナの体を拭いては、そのままモナをベッドに寝かせ、自分も横になる。


「...当たり前のように引っ付くな」

「嫌なら蹴り飛ばすとか、それこそ殺したりとかしないの?」

気が付かない間にモナはロアが抱きしめてくるのを受け入れるように頭をロアの胸元に預けていた。

「こっちの方がよく寝れる...それに、懐かしいんだ」

「...懐かしい?」

「俺はミュータントとして2年前に目覚めたと聞かされてきたがそれまでの記憶が無い...お前は何故俺に拘る」


普段は発言するのに考え込まないロアだが、少しだけ時間を置いてから口を開く。

「モナだからだよ」

「は?」

理由を聞いたモナは答えとしては答えになりきれていないような言葉に不満なのを隠しきれず明らかに表情が変わる。

「...モナだから制御装置なんて機械じみたもの付けないし、モナだからミュータントとしてではなく...君には人間と変わらないような心を持ってほしいから」

「じゃあなんで俺はミュータントにされたんだよ...」

「...モナだから...、思い出してほしいんだ」


そう言ったロアの表情は笑ってはいたが、とても切なそうな儚げな笑だった。

「...なぁんてね、とりあえず僕はモナが大事で大事で仕方ないって事だけわかればいいさ」

また表情を明るくすればモナの背中をポンポンとあやすように叩く。

「今日は疲れただろ、だからよく眠れるはずだよ」

「...誰かさんのせいで疲れた」

「ごめんごめん、...明日はしないからさ.......たぶん」

口では謝ってはいても全く反省していないようなロアに呆れ気味の視線をモナが送る。

「だって実験する時のモナ可愛いしえっちなんだもん、何回見返してもたまらないよ」

うっとりとした表情で発言しているが【見返し】という言葉が引っかかった。

「...見返して?」

「あぁ、実験室には監視カメラ5代あって録画していてね、ちゃーんと撮っておいてあるよ」

「...変態め」

若干引いたような目線を送るがロアは気にせずモナを愛おしそうに見つめる。

「...自分から後ろに入れてって涎垂らしながらおねだりしたの誰だっけ」

「うるさい...! もういい、寝る」

「...ふて寝? やっぱり可愛いなぁ」

とても今すぐに眠れる状態ではなかったがやはりロアに抱き寄せられ、背中をさすられると何故か落ち着いて、すぐにうとうとしてしまい、結局3分くらいでスヤスヤと寝息を立て始めた。


「...おやすみモナ」








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Broken Memory @maaaaple

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