第7話 旅の支度

旅には防具を持っておくと便利ということで、街に出た。

人の賑やかな街は、あちらこちらから商品をアピールする声が上がっている。

なぜか私は、私が住んでいた街を思い出していた。

もっとも、ここは車の代わりに馬車(竜車?)が走り、商品を売っているのはトカゲだとか犬だとかもいるけれど。


…えっ、なにこれめっちゃファンタジー…!?


「どうしたの、ミュー?」

「いや!なんでもないよ!ただちょっと厨二魂が疼いただけさ!」

「厨二魂…?」

首をかしげるオウガを放って、私は足を進めながらスマホを見られないようにいじる。

『みう:めっちゃファンタジイ!』

『かい:街が?』

『みう:おうよ!』

どうやら写真を送っても読み込めないらしく、諦めて街の様子を説明する。顔文字とかで驚いている様子を表現するかいくんが面白くてたまらなかった。

「あ、ミュー、あそこだよ。俺のオススメの防具屋!」

オウガに手を引かれ、連れて行かれたのは人間のおじさんが店番をしている、鉄と鉄がぶつかり合う匂いが立ち込めるお店だった。

「お、オウガじゃねえか。なんだオメェ、生きてたのか?」

「ひどいなおじさん。俺は簡単には死なないよ」

「そうかぁ?なんでも、竜に踏まれたっつー話じゃねえか」

どんな話だそれ。

「違うよ、飲まれたんだよ」

「よく生きてたな!?」

思わず声を上げてしまった私におじさんの視線が刺さる。

「…そうか、ついにオメェにも女が…」

「「違うよ!!」」

思わず二人で反論をしてしまう。

なんてことを言うんだこのおじさんは!確かにオウガは顔も性格もいいしイケメンだけど!

どっちかって言うと、恋愛対象より崇拝対象な見た目な気がするんだ。

悪い悪い、と薄くなり始めている頭を掻くおじさん。

私たちは二人で旅に出ること、そのために防具を買いに来たことなどを説明する。

おじさんは少し悩んだ末、いくつか私に見繕ってくれた。


防具といっても、鎧を買うわけではない。魔法耐性のある服や、魔道具、私でも扱えそうな短い、軽い剣を買ってくれるらしい。

実はリリィさんと別れる前に、少しだが剣術を教えてもらった。

ゲームやアニメの剣術を真似たりしていると、意外と評価は良かった。飲み込みが早い、筋がいいと褒められたのだ。

痴漢程度ならば素手で撃退していた私が、喧嘩で、相手が素手なら多分勝てるだろうと思えるぐらいには上達したと思う。リリィさんの教え方がものすごく上手なこともあるだろうけれど。

さて。

まずは茶色の生地で、赤い布と合わせて可愛らしい服だ。金糸で刺繍までされており、どストライクな感じで可愛いのだ。

下は赤いスカートに黒のタイツ、腰には軽い短剣と、邪魔にならない程度にポーチが二個下がっており、中には薬が入っていて、空きもある。

そして、肩には腰あたりまでしかないけれど、黒地で内側に少しだけ金糸で刺繍が入っていて、夜空を思い浮かばせてくれる、なんとも厨二感満載のマントを着る。

左腕には銀色で赤い宝石のついた腕輪を数個。

右腕には鎖に赤、青、黄、緑の石がついているブレスレットを装備する。

このおじさんがここまで可愛い服を見繕えるのかが不思議でならなかった。


装備を終えて、出ていった時、おじさんは嬉しそうにしていて、オウガは「可愛いね」といってくれたのが、なんとも嬉しかった。


「じゃ、行こうかミュー。」

「おう、いってらっしゃい」

おじさんに発破をもらい、こうして私たちの旅は始まったのである。

楽しみで胸を踊らせながら。

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異世界でもネットは通じるようです ソルティ @Pastel

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