第6話 騎士団団長リリィ

「じゃ、君は異世界の住人ってこと?」

「まあ、信じるかどうかは任せますけどね。」


あれから私は、騎士団長に全て話した。

嘘は通じない魔道具をつけているらしく、誤魔化しようがなかったのはある。

しかしまあ、オウガがずっと不思議そうな顔をしているのがおかしかった。


このことを話すことによってペナルティ的なものはなさげだった。もしかしたら、異世界から来たことを話すことで何か失う、あるいは死んでしまうとかだったらどうしようかとか考えていたが、依然変わることはなさそうで安心した。

あったらあったでブチ切れてただろうけど。

なんで人生フイにして異世界に飛ばされたのにペナルティがあるんだ!って。

しかしまあ、この人は信用できると信じる。

他の人に打ち明けることは今後ないだろう。それが弱みとなるかもしれないし。

だからもう、このことは誰にも話さないだろう。たとえ元の世界に帰れないことをはっきりと知ってしまった、その時も、きっと。


「大丈夫だよ、あたしは君を悪く扱う気は無い。オウガの友人ということもあるし、右も左も分からないような女の子を使って何かしようと企んだりはしない。」

「…」

「だから、そんな心配そうな顔をしないで」


リリィさんとこうして話していることで、わかったことがある。

この人は、裏とか表とかそういう次元じゃなく、ただただまっすぐ、平等に接してくれる。

こういう人が、国のトップに立つような世界で嬉しい。優しい厳しさを兼ね備えているのだから、騎士も幸せだろうな。

日本ではこういう人を「いいお嫁さんになりそうな人」というのだろう。

そんな人に心配しないでと言われ、心配することなど、きっと私にはできない。

肩の力が抜けた気がした。

「じゃあ、今後どうするかだよねえ。オウガ、どうする?」

「えっ?」

突然話題を振られたオウガは素っ頓狂な声をあげ、私が持っていた荷物を落としそうになる。

「ど、どうするって」

「オウガとみゆちゃんさえ良ければオウガの旅にみゆちゃんが同行すればいいんじゃ無いかなって」

「あ、ああ…」

おお、その発想はなかった。

私はこれから、どこに家を持ってどうやって生活しようかとか、どうやって生計を立てようかなとか、そういうことを考えていた。でも良く考えればそうか、旅をすれば家に困って路地でまるまる必要はなさそうだな。

旅をするとなれば、旅費として、わずかな額だが国からお金が出されると聞いた。

この世界に旅人が多いのはそんなことでもあるそうだ。

「あたしが王様に言って、オウガの旅費を少しあげるってこともできるけど、どうかな」

「俺はどうでもいいけど…旅費をあげるのは遠慮するよ。他の人に羨ましがられるだろうからさ」

「そっか」

あれ、あっさりオーケーをもらえちゃったよ。というより上乗せができるのかよ。

確かにそれは卑怯だと言われても仕方ないな、うん。

「ミューは?」

「へっ?」

「ミューは、俺と二人で、旅をすること。…嫌だったら違う方法を考えよう」

暖かな眼差しで問われ、私は少し考えてみた。


この世界のことは何も知らず、戦闘もできず、かと言ってトラブルを解決できるほどの頭脳もない。

断言できる。必ず、オウガに迷惑をかける。それでもいいのならば。


「行きたい」

「じゃ、決まりだね」

リリィさんが明るく告げる

オウガも少し、笑っていた。



こうして始まった旅が、まさか波乱万丈になるなんて誰が予想しただろう。

この本を手に取ったあなたが、もし読めるのならば。

君も日本から、いや、地球から飛ばされた人だろう。

同胞であることを、私は祈る。

そして、伝わることを。


この世界は、悪くもなく良くもなく。

しかし、とても危険であり、甘く見ていては最悪死ぬということを、君は知っておくべきだ。

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