#男女心中道行電車100字書き出し のやつ

九月尚

第一話

彼女が、透き通る青い海の中で死にたいと言ったから。

僕達は今電車に揺られている。


困ったなあ、そこらへんの海って言ったって全部漁港だから砂浜じゃないし油とかゴミで汚いんだぜ。田舎に対して自然が豊かとか空気が綺麗みたいなイメージを持ってる奴は今すぐ捨てたほうがいい。

こんなクソ田舎が人生最後の場所なんて、僕はともかく彼女はついてない。せっかく僕の故郷まで着いて来てくれたのに彼女には悪いことになってしまった。

彼女は僕が人生を過ごした場所だと思うと愛しい、だなんて言ってはくれたがぶっちゃけそんな愛を以てしてでも人生最後の場所としてここはない。最悪と言っても過言ではない。ほら今だって電車の窓から映るのは山山山、古びた集落にまた山、営業しているのかどうか分からない商店、寂れた無人ガソリンスタンド、そして山。

この町に生まれてから外の世界へと抜け出すまでずっとうんざりしながら暮らしてきた。やっとのこと抜け出した先で彼女と出会い、二人でここまで生きてきたが、この町で共に人生を終えるだなんて思ってもみなかった。


「ごめんな」


そう僕が言って、飽きることなく窓の外を眺めていた彼女が振り向く。ああもう、乗り物酔いしやすいんだからおとなしく座っておきなよ。


「え?」


「こんなことになっちゃったけどさ、君と出会ってから今まで。ずっと楽しかった」


楽しいことしかなかったよ。

そう力なく呟くと、彼女は目尻を下げて――ああ、その笑顔がどうしようもなく好きなんだ。

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