魔法の杖についてる宝石の部分を削る仕事をしています。

ケンコーホーシ

第1話

 また発注元から不具合が出たとクレームがあった。

 うちの品質管理部門は何をやってるんだよと思ったが、彼らとて迫りくる納期に追われながらどうにか検証を進めているのだから仕方ない。

 顧客の話をよくよく聞いてみると火炎魔法を出した時の威力が想定より低いって言っている。

 何ってんだよ、これからはエコの時代だって最小限の魔力消費で炎を放てるようにお願いしてきたのは向こうじゃないか。魔力消費を抑えることによる性能懸念は事前に営業を通して伝えていたはずだ。


「わりぃわりぃ、魔力消費が少なくてもいけるってことは魔力を今まで通り使えばでかい炎が出せると思ってたんだけどさ」


 そう片手をついて謝る同期の首を僕は締めた。

 ふざけるなよ、そんな魔法石の加工は単純じゃないんだ。それぞれに複雑な回路を組む必要があって、でかい魔力消費でも良いならその場合の回路を術式として送って上げる必要があるんだ。もちろん事前の仕様にはそんな話は聞いてない。


「えーでも先方はこれじゃあ火力が足りない。うちの杖の部品としては採用できないって言ってるぜ」

「知ったことか。お前の言ってるお客さんは調理用の炎魔法を出すための杖だろ。そもそも爆炎みたいなものは必要ないはずだ」

「東の国にある火力の強い料理を作りたいんだってさ。えーっとなんっつたかな。炒飯か」

「炒飯に爆炎は必要ない! お前またどこかではき違えているだろ!」


 製造と営業は仲が悪い。

 これは僕らの会社に限ったことではないようで、鎧につける金具メーカーに行ったポールも、ダガーの持ち手用の布を作ってるサリーも、氷耐性のネックレスに魔力付与をする仕事についてるスティーブンも皆似たようなことを言っていた。


 やれ最近の冒険者は槍使いばかりでダガーが売れないとか、

 夏場は氷属性のモンスターが現れないから売上が途端に落ちるとか、

 そもそも鎧は重いから若い人がつけたがらないとか、

 僕らは学校を卒業してからも月に一度くらいのペースで会っていて、お互いの不遇や仕事の愚痴を言い合って慰め合ったり、ときに励まし合ったりしていた。

 

「ユーリのとこは魔法石だからまだいいだろ。俺は鎧だぜ。毎日毎日工場で油まみれになるし、客は軍とか傭兵の筋骨隆々のおっちゃんばかりだ。豪快で良い人たちなんだが酒飲みでよ。週に三度は二日酔いで仕事してるぜ」

「確かにポールお酒強くなったよね。私は革製品だからそんなことないけど、逆に女性関係がね……結構お昼とか付き合わなきゃいけないときもあるし」

「……」

「大丈夫か、スティーブン?」

「……すまない、魔力付与のし過ぎで目まいがして」


 そう言ってスティーブンは酒場のテーブルに突っ伏した。

 

「ちゃんと健康診断はいけよ。仕事なんて頑張りすぎないくらいが丁度いいんだからな」

「でも私がいないと来月の納品が……」

「ねぇよそんなん」

「気負うなスティーブン。できなければ営業がなんとか誤魔化すさ。スケジュール引いてるのはアイツらなんだ、頑張って終わるって線で期日を引いてる時点で無能なのはお前じゃなくて向こうなのさ」

「うぅぅ……」


 スティーブンは実家が由緒正しい魔法使いの家系で言われたことはなんでもこなす生真面目さと、苦労を知らないお坊ちゃん気質なところがあった。

 だから言われた仕事はちゃんと期日通りに終わらすし、失敗したらそれが全部自分の責任だと思ってしまうきらいがある。

 ……それが理不尽なタスクだとしてもだ。

 僕なんかは今の営業が自分の同期で、入社した後の懇親会帰りに二人で飲み明かして朝に軍警察に保護されるような体験をしているからお互いに好き勝手なことも言い合ってたりする。

 だが、スティーブンは違う。

 

「でもこの仲じゃスティーブンが一番お金もらってるのよね」

「……」

「……」

「…………ふふ、そうさ。金ならある」

 

 まあ減らず口を叩けるなら当分は平気だろう。

 僕とポールはスティーブンの頭を同時に小突いた。

 

 ◇


 うちはカルディラで二番目に大きな魔法石の加工メーカーだ。

 それが凄いか凄くないかで言えば、あまり凄くない。

 何故ならうちより小さいメーカーになってくると、それはもう従業員とは名ばかりの家族経営だったり、クラフトスキルを魔法石の加工に特化した冒険者が法人化したものだったりと、何というか会社というイメージから離れてゆく。

 

「なあユーリ、お風呂に魔法石をつけてお湯を一瞬で温めたいって案件が来てるんだけど……」

「却下。馬鹿かお前、杖以外の組み込み系の仕事なんてリスクでかすぎ。検証にどんだけ時間かかると思ってんだ。それに風呂が燃えたら」

「ビルの解体工事にさーうちの土属性の魔法って使えたりする?」

「爆弾使え馬鹿」

「なーユーリ」

 

 ウザい営業にかき回されながらも僕は淡々と週五のタスクをこなしていく(たまに週六になる)。

 忙しい日々と小さな達成感、そしてまた始まる苦労の日々、

 時には死にたくなることもあるし、酒に溺れて学生時代の仲間に当たり散らすこともある。

 でも、そうこうしながら年月は過ぎていき、気づけば僕も働きはじめて四年が経とうとしていた。

 

 ずっと変わることのない定常的な日々。

 こうして年を取っていくのか。

 いつしか僕もオジサンになってじーさんになるのか。

 僕はデスクの奥で慣れない決済システムに手こずる課長を見ながらそんなことを思った。

 でも、転機は訪れた。

 

 ◇

 

 それはポールが会社の事情でカルディラの街から離れて、ゴーンの街に転勤することが決まってその送別会をした帰り道だった。

 

「ゴーンって言えば、大麦を発酵した酒と芋料理がうまいとこだろ、食ってばっかでブクブク太るなよ」

「帰ってきたら連絡ちょうだいね」

「私たちは帰りを待ってる……」

「おう、ありがとな皆。ゴーンで可愛い彼女でも見つけて報告してやるぜ」

 

 飲み会は明け方まで続き、店で最後のハイタッチを交わした僕は、フラフラになりながら道中まで同じスティーブンと一緒に朝ぼらけの道を歩いていた。

 

「しっかしゴーンか。カルディラよりもデカイ都市だし出世だよな」

「私はあまり羨ましいと思わないね。苦労してまで出世したいとは……」

「お前んち金持ちだもんなぁ」


 スティーブンは実家が金持ちだから給与にそこまでの魅力を感じないのだろう。

 そのくせ仲間内で一番給料を貰っているのはコイツだから人生はままならない。

 そんなことを思いながら歩いてると、道路の真ん中にポツンと立っている女性を見つけた。

 女性は修道院の出なのか独特の衣装を身に纏い、どこか達観した面持ちで虚空を眺めていた。

 だが、道路の真ん中にいるのはいただけない。

 

「おーーーい、あぶねーぞ!」

「……ん、どうかしたのかユーリ」

「人がいんだよ。朝だけど、おーーーーい、ここ朝でも運送ドラゴンとか通るって――――」


 と、その時僕の台詞を再現したかのように、向こうから激しい勢いで運送用のドラゴンが走ってきた。

 ……マジか。

 ま、じか。

 流石にドラゴンも止まるだろう。そう思ったが何故か止まる気配はない。

 一方の女性も酔っ払ってるのか道路から逃げようとしない。

 

「あぶっ!」

 

 怖すぎて声が怯んだ。

 だが、急に気づけば身体は動いてた。

 

「ユーリ!?」

 

 自分でも何でそんなことをしたのか分からない。

 アルコールで酩酊していてマトモな判断ができずにいたのだろうか。

 いや、それでも構わない。

 とにかく目の前の女性を救おうと、僕の足は自然に彼女に向かっていた。

 避けられるか分からない。

 計算はできてない。

 ドラゴンの耳についたライトが激しく点滅する。

 動く巨大なそれを左端に掴みながら。

 足は動き。

 依然とした茫然自失の女性を抱きかかえて。

 そのまま逃げようとして衝撃。

 反転。

 視界が回り硬いものが右頭部に当たり暗転。

 僕はドラゴンに引かれた。

 

 ◇

 

 目を覚ますと、そこには真っ白な世界が広がっていた。

 

「ここは……」

 

 驚いて周囲を見渡すと突然ある一点で光が強く輝きだし、そこから見覚えのある女性が現れた。

 

「申し訳ございません……ここはあの世とこの世の間の空間になります」

「……あの世とこの世」

「はい。大変申し上げにくいのですが、貴方は先ほどのドラゴンに引かれて命を落としてしまいました」

「命を……」

 

 つまり、僕は死んでしまったということだろうか。

 そんなこと言われても実感がわかない。

 

「本来であればこのまま天国にお連れする予定なのですが、貴方の死因がその……私を助けようとしてのものだったため……」

「あなたは……誰なんですか」

「私はこの世とあの世を繋げる存在。貴方の世界では天使と呼ばれています」

 

 天使……確かに宗教の本とかで読んだことがある。

 死んだ人間はやがて天使に魂を拾われて、天国にいくか、別の世界にいくかを選択できるって。

 

「あなたはどうして地上にいたのですか?」

 

 そう問うと天使は目線を左へとズラした。

 

「申し訳ございません……実は酔っ払って凍死してしまった方々のお迎えをしてました……」

「ああ、なるほど。確かに明け方に死んでる人も中にはいますしね。でも何で謝罪を」

「いえ……実は本来は姿を消して正式な手続きを踏んでからじゃないと魂は救済してはいけないんですが……そのウチの天使部隊はよくそれを現場の判断で救ってしまっていて」

「……」

「今日も姿を消すためのスプレーの検収が間に合わなくて、でも成果は今日中に上げておかないとその四半期の締めに間に合わないので、姿を出したまま魂の回収を」

「……はぁ」

 

 僕がため息みたいな返しをすると天使の女性は「ああ、ゴメンナサイ! こんなの貴方に言っても分からないですよね、ゴメンナサイ! 先輩にもよく『お前は自分の言葉で喋って相手のこと考えないよな』って怒られるんです! ゴメンナサイ! 忘れて下さい!」とまくし立てるように喋った。

 

「……えっと、天使さん働きはじめて何年目?」

「1年と3ヶ月です。初年度はずっと研修だったので現場に入るのは初めてで……」

「まあ苦労してるんだね。新人マジックが切れる頃だ」

 

 なんだか和んだが……それよりは、

 僕が死んでしまった事実はどうにかならないのだろうか。

 

「えっと、ゴメンナサイ。それで僕は結局どうなるの?」

「あっ、はい。そうですね! すみません普通は天国か別の世界行きなのですが、天使側の不注意で人を死なせてしまった場合は……どうなるんでしょう?」

 

 どうなるんでしょう、じゃないよ。

 僕はここで彼女と話してても仕方ないと思ったので、先輩を呼んで貰うことにした。

 

「このたびは私どもの不注意でご迷惑をかけてしまい大変申し訳ございません」

「ございません」

 

 数分後、先輩と呼ばれる少しだけ大人びた天使がやってきた。

 新人天使さんはずっと固い表情でそわそわしていたのだけれど、先輩が現れてからは破顔してそそっと後ろに隠れるように頭を下げていた。

 

「それで僕は結局どうなるんですか?」

「私どもの不注意で人間界の方を傷つけてしまった場合は以下の三つの道がございます」

 

 傷つけてたどころか死んだけどな。

 僕はそう思ったが無視して話を聞く。

 

「一つはそのまま元の世界にお帰りいただく道。私どもの不注意のため肉体は責任を持って再生させ、時間も同じタイミングで復活をさせます」

「おー」

 

 よかった。ひとまずは生き返れるようだ。

 

「それ以外に二つ目はこのまま天国に行く道。私どもの不注意とはいえ一度は死んでしまった身の上、これが運命と受け入れてむしろ死にに行きたい方もいらっしゃるため、こちらも選べるようになっています」

「ふーん」

 

 天国に行けるんだ。ま、天使を助けたとはいえ、もともと自殺志望者の場合もあるってことか。そういう人は無理やり生き返らせられたらクレームとか出されるのだろう。

 

「最後の道は別の世界に転生する道になります。現在ですと魔法の代わりに科学と呼ばれる概念が存在する"地球"という星が選択肢に上げられます」

「……魔法が、ない」

「はい。こちらの世界では冒険者や魔物、魔法といった概念は夢物語だとされており存在していません。代わりに科学といった概念が発展しており、文明レベルはやや上かと思います」

「何だって……」

 

 科学、聞いたことあるぞ。

 炎魔法なしで加熱調理を行い、氷魔法なしで食材を冷やし、光魔法なしで部屋を明るくできると聞く。

 よく学生の頃に読んでいた本に出てきた内容だ。

 

「ちなみにこの世界では蛇口と呼ばれる装置を捻ると自動的に水が流てきます」

「な、何だって! 詠唱はいらないんですか? 水は腐るでしょ!? まさか川から水をひいてきているとか言わないよね!?」

「ひいてます。ただ、ある程度の文明の進んだ国であれば、浄水設備が整っているので飲み水には使えなくてもシャワーを浴びることは可能ですよ」

「……そっか、そうだよな。流石に飲めはしないよな」

「ちなみに日本という国では飲み水に使えます」

「なにそれ怖い」

 

 え、何、あのクソ面倒でいちいち呪文を覚えて、聖霊にお願いして使わなきゃいけなかったり、危険な山岳部から掘り起こした宝石を使わなきゃいけなかったりする炎や水や光が、簡単に使えんの?

 夢の国じゃん。

 僕は長年この世界の魔法という概念について研究しているから分かる。

 こいつは人がコントロールするには有り余る代物だ。

 もちろんその言うことの聞かなさが面白いところでもあるのだが、適切な量で適切な強さで調整するというのは非常に難しい。

 その難しさをいとも簡単にクリアしてしまう概念――それが科学だと聞く。

 

「ちなみに死なせてしまったお詫びとして向こうの世界のお好きな国の家系に転生いたします。スキルも多言語に順応できる『バイリンガル』やアンドロイドに似た計算を脳内でできる『カルキュレーター』美しい絵画を描く才能『ダヴィンチ』などお好きなものを一つ選択できます」

「おお……」

 

 何というか意外と願ってもない話な気がする。

 異世界への転生、確かに魔法や魔物のない、冒険者のいない平和な科学文明に守られた世界に行きたくないかと言ったら嘘になる。

 僕だって子供の頃はそういう小説を読んだりして、魔物に襲われることのない生活を過ごしてみたいと思っていた。

 

 それが現実に叶う。

 確かに魅力的な話だった。

 

「個人的にはアラブという国のセキユオーと呼ばれる職業の父親を持つ息子に転生するのがオススメですよ。地球の女性は一度はセキユオーと結婚してみたいと夢見るようなモテモテの職業です」

「そこは世襲制なんですか」

「世襲制ではないところもあるようですが、まあ恩恵は預かれるでしょう。スキル『バイリンガル』などを活かせば貴方の有能さは伝わるでしょうし」

「なるほど。ちなみにお金持ちなのですか。経済動向には左右されない?」

「お金持ちではあります。経済や国の情勢には左右されるとは思いますが、比較的土地のもった王族の直系に近いセキユオーを選ばせていただきます」

「魔王軍の襲来とかはない?」

「あちらの世界には魔王がそもそも存在しないのでそういった危険は無用です……ものすごい聞いてきますね」

「いえ、大事なことなので」

 

 聞き方がガチになってしまった。

 しかし、どうしたものか……。

 転生か。非常に憧れる夢のような話だが。

 

「……あの、当たり前の話ですが、転生したら僕がいま暮らしてる世界には帰れないんですよね」

「はい。もちろん、新しい生を全うすること。それが転生ですから」

「……」

 

 そうか。思わぬところで人生の決断を迫られてしまった。

 しかし……。

 

「その転生には……当たり前だけど、他の人は連れていけないんだよな」

「もちろん」

「……なるほど」

 

 そっか。なるほど。

 僕はこれまで大変だった日々を思い返す。

 うちの家系はドワーフで冒険者の父とハーフエルフの母を持つどちらかというと歴史ある家系ではなく、色んな血が入り混じった家だ。

 ちっちゃい頃は耳が微妙に尖っていたり背が小さいことでいじめられもしたが、その一方で魔法の扱いと武器の加工という奇妙な二つの才能に恵まれもした。

 この能力を活かそうと魔法の杖の宝石を加工する会社に入社。

 もともとの武器の加工スキルの高さと、魔法の細かい調整のできるステータスの高さは、扱うのが難しいとされる本メーカーの求める人材とマッチしていた。

 

 辛くて楽しい日々、いや9割9分は辛くて苦しいが、それでも働いて得たものがゼロかというとそうじゃない。

 僕は僕なりに最善を尽くしてきたし、そのための見返りも……ほんの数パーセントに薄められてだが貰ってきた。

 

 それに営業のアイツ。

 僕が死んだら悲しむだろうか。

 仕事仲間としてではなくそれ以外の関係としてヤツとはそれなりに楽しくやってきたつもりだ。

 きっとアイツのことだろうからまた適当なこと言って他の製造部門の連中から怒られるのだろう。

 僕が相手にしてた分にはいいが、他のヤツだったらどうなったことか……。

 

「どうなさいますか?」

「僕は――」

 

 僕は、ゆっくりとその口を開き――――。

 

 ◇

 

 また発注元からクレームがあった。

 氷魔法用の宝石を500個頼んだはずが300個しかないと。

 来週までに残りの分を持ってこいという内容だった。

 

「どーーーしてお前は500と300を間違えるーーーー!?」

「いやぁ、ワリィワリィ! それが最初は200で、向こうがやっぱりあと400個増やして欲しいって言われたんだけどさ。こっちはそれだと納期までに間に合わないですよって言ったらやっぱり300でいいですよ、っていうからさぁ。300個でいいじゃんと思うわけじゃん」

「ちゃんと書面でやり取りしとけぇぇぇええぇぇぇぇ!」

 

 営業の首を締めながら僕はあの日の転機を思い出す。

 あの日、異世界に転生することを選ばなかった僕は目覚めたら朝方の道路のど真ん中に突っ立っていた。

 ドラゴンは過ぎ去ってしまったようで、新人の天使の子もいなかった。

 そしてついでと言っては何だが、スティーブンの姿も見えなかった。

 あの後電話してあの時の話を聞こうと思ったのだが、連絡はつかず、雲隠れのようにその後のスティーブンを見たものは仲間内でも誰もいなかった。

 

 あれから3年。

 ゴーンに転勤に行ってたポールは帰ってきた時にはブクブクに太っており、その代わりといっては何だが課長代理の役職と美人の金髪の奥さんをお土産にもってきた。

 

「サリーは今日どうしたんだ?」

「婚活パーティってやつで出会った男と飯を食ってるってさ。あいつもいい歳だから焦ってるんだろう」

「ふーん、アイツ美人なのになー」

「フェアリーの男はこのあたりにゃいないからな。いくら綺麗だからって手のひらサイズの女子と世帯を持つのは難しいだろ」

「ひでーこという。結婚に種族の差は関係ねーぜ。俺だってゴーレムなのに、サキュバスと結婚したんだしな」

「わかってるよ。うちの親父と母親もドワーフとエルフの組み合わせだし」

 

 自分の尖った耳をハネながら、顔面岩だらけの男相手に笑う。

 

「そういやスティーブの行方がわかったよ。前に会った天使に再会できた」

「あーお前が転生するかって言われた夢をみたって話か?」

「夢じゃねーよ」

 

 一言で言ってしまえば、スティーブンは転生していた。

 あの日、僕がドラゴンに向かうのに遅れて、彼も道路に突っ込んだらしい。

 で、死亡し同じように例の三択を選ばされたわけだ。

 

「今じゃインドって国でカレーを食いながらプログラマーって仕事をしてるらしい」

「ふーん。楽しいのか?」

「わからん。最初は向こうの国で一番偉い立場の人間の息子になってたらしいんだが、何か階級制度が崩壊して没落したみたいでね。今はコンピュータってのを相手に土日もかかさず働いてるってさ」

「何だかこっちの世界にいたときと変わってねぇな」

 

 違いない。

 ただ本当に同じなのか、違うのか、その是非はスティーブン自身じゃないと知り得ないだろう。

 結局のところいくら環境が変わろうとも考え行動するのは自分という人間なのだから。

 

「そういやお前サリーから電話で聞いたぜ。営業のあの娘と付き合ってるんだってな」

「…………」

「いやーお前の話だといっつも煩そうな男だなと勘違いしてたが、ダークエルフの超美人さんじゃないの。てっきり俺とスティーブンがいなくなった後、ユーリとサリーがくっつくじゃないかと期待していたんだが、そうはならなかった。あんな綺麗な人が近くにいるんじゃなぁ」

「…………もうすぐ結婚を申し込もうと思ってる」

 

 と僕が呟くと「ひゅう」と口笛を鳴らした。

 

「じゃあ今日のこの場は俺のおごりだな」

「いいよ割り勘で」

「式はあげんのか? 俺はやったけどアレは高いぞ、せめて身内だけにしときな。向こうの要望もあるだろうけどな」

「……」

「なら指輪とか買わねぇとな。っと、お前んとこはそうか」

 

 そうだ。

 僕の仕事は魔法の杖についてる宝石の部分を削る仕事だ。

 良い宝石がまわってくるしソイツを使って自分で最高の指輪を仕上げられる。

 だからこの時ばかりは愛する人のために己の職務に感謝したのだった。

 

 

 (おしまい)



【あとがき】

だいたい3日くらいかけて書きました。

スティーブンは殺してごめんなさい。

単語のブレなどはあるかもしれませんがご了承ください。

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