転生者徳河家康~人生詰んだ俺が、神君に転生したようです~(パイロット版)
筑前助広
転生者徳河家康~人生詰んだ俺が、神君に転生したようです~
この物語には、史実の江戸時代とはなんか違う筑前筑後の作品の答えがあります。
なお、当初は連載小説として書いていましたが、データーが消えてしまったので、プロットに毛が生えた文章にしました。申し訳ありません。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
三十四歳。独身。彼女いない歴=年齢の童貞。デブ。
F県出身。藩校が前身の名門校から旧帝大の人文歴史学コースに進学したのはいいが、就職に失敗。コミュ障だった世良田には、地場大手企業は難易度が高く、長時間労働と罵詈雑言の叱責を前に、半年で退職。その後は職を転々としながら、スーパーの品出しアルバイトに落ち着く。なお、実家は追い出され、安アパートに独り暮らしである。
この世良田。ある日、〔神君立志伝Ⅴ〕をプレイしていた。世良田を歴史好きにしたゲーム会社の最新作である。
徳川家康の人生をなぞるゲームで、家康以外の武将プレイも可能。世良田はQ大で家康を研究していた手前、プレイキャラは当然家康。
モニターには、一五六〇年の表示。今川義元の上洛戦が開始され、大高城へ兵糧を運び込むよう命じられるイベントに差し掛かった所だった。
(ここからが、本番だな。しかし……)
空腹を覚えた世良田は、立ち上がり冷蔵庫を開けた。中はマヨネーズとカピカピのケチャップ。そして一度しか使わなかった蜂蜜しかなく、仕方なく近所のコンビニまで出掛ける事にした。
二階に住む世良田は、勢いよく階段を駆け下り、道路に出た。深夜二時。平素、車など通らない道。そのはずだった。
眩い光。衝撃を受け、視界が暗転した。
世良田、現世での死亡である。
目が覚めると、世良田は松平元康になっていた。
望郷の念はあるが、性悪だが美人の
史実ルート。
兎にも角にも、史実通り行動すれば天下人になれる。世良田こと家康は、忍従の日々を過ごした。
桶狭間の戦い、清州同盟、三河一向一揆などのイベントを忠実に無難にこなしていたが、そこで家康は一つのミスを犯してしまう。
松平から徳川の改姓の際、長老格の鳥居忠吉が、
「徳川もよろしゅうございますが、これから飛躍する為に、〔川〕よりも大きな〔河〕とすべきでござる」
と、進言。家臣団も忠吉案に賛成し、それに気圧された家康は同意してしまったのだ。
徳河家康の誕生だった。
史実ルート順守。
しかし、それに反する存在が現れる。
嫡男、信康である。
世良田こと家康は、信康を疎んじてた。それは、この精悍な青年に我が子という感情は無かったからだ。家康に転生した時には生まれていて、他の実子とは違って、他人のガキにしか思えないのだ。
その信康が、何かにつけ家康に進言した。信長を殺せ。秀吉を殺せ。武田や北条と同盟しろ云々。
最初は、適当に相手をしていた。どうせ、信長の命令で腹を切るのである。しかし信康は、自らの派閥を構築し始めた。しかも、関係が冷めきった築山が協力しているのである。
それでも家康は耐えた。出来るなら、汚名を被りたくない。それに史実ルートは順守だ。だが待てど暮らせど、信長からの切腹命令は来ない。仕方なく、家康は信長の下に、それとなく情報を流した。信康と築山に、武田への内通の疑いがあると。
すぐに切腹命令は届いた。そら来たと、家康は膝を打った。築山は野中重政に命じて小藪村で殺害し、信康は二俣城に幽閉した。
切腹前夜、家康はお忍びで信康に会った。陽も入らぬ座敷牢である。精悍な信康はやつれ、家康の目を見ようともしなかった。
そこで、信康はこう言った。
「結局、史実通りにしかならないのか。面白くない……」
家康は発言の真意を訊いたが、顔を上げた信康は冷笑を浮かべただけで何も応えず、翌日腹を切った。
幾多の月日が流れ、関ケ原の戦いを迎えた。
史実ルートに沿えば、勝てると信じて準備を進めた。秀忠に上田城に構わずに来いとも命じれたが、本戦に間に合わせた場合、どう歴史が変わるのか判らないので何も言わなかった。
そして、家康は勝利した。
この頃、家康には〔ある想い〕に捉われていた。
それは、徳河家そして江戸幕府を永遠のものにしたいという想いだ。長年共に暮らし、家族や家臣への愛着は、史実ルート順守よりも強くなったのだ。
現世では感じれなかった、絆。愛情。その事への感謝は大きく、家康は史実を変える決断をした。
石田三成は当然斬首。三成は某ドラマの影響で好きになった男で、是非とも家臣に加えたかったが、ここで殺さねば大坂の陣でえらい事になりそうだと心を鬼にした。なお、真田昌幸は井伊家に預け、真田信繁は旗本として取り立てた。ダメ元で誘ったら、あっさりと承諾。これには家康も驚いた。
次に、いずれ江戸幕府を倒す存在になる、薩長土肥の解体。
下手をすると大坂の陣の難易度が上がるが、このタイミングを逃してはメスを入れる事は出来ないのだ。
まず毛利輝元は隠居させて、改易した。吉川家は岩国、小早川家は筑前に残し、毛利秀就は旗本、毛利秀元は大内家の支流である山口重政に、大内姓を名乗らた上に長門で再興させ、その家臣とした。
山内一豊は東北に転封。鍋島直茂は、龍造寺高房を村中藩として再興させ、その家臣に戻した。
そして、一番の問題の島津。これは攻め滅ぼすしかなかった。
加藤清正・立花宗茂・鍋島直茂・黒田長政に命じて、島津討伐を実行。泥沼の戦いを制して、これに勝利。島津の残党は国外に逃亡したが、さしあたり薩摩から消えてくれればそれでいい。
薩摩・大隅を加藤清正に任せ、薩長土肥の解体は終了した。
残るは豊臣。だが、人生の黄昏は近付いていた。
世良田こと家康は、秀忠に向けて今後どうするべきか書き残していた。
朝廷の力を弱める事。その手始めに、令制国の改定。そして、江戸への遷都。田沼時代を迎える一六〇年後に開国。幕藩体制を廃止し、幕府主導の近代化を図る事。どこまで、理解できるか判らないが、家康は今後の指針を命の限りに書いた。
そして、一六一六年。病に倒れた家康の枕元に、ある男が訪ねて来た。
「お前は……」
松平忠輝である。この六男は、あの信康に瓜二つで、嫌でも思い出すので冷遇していたのだ。
「父上」
「お前の顔など見とうない」
すると、忠輝は冷笑を浮かべた。あの時の信康の顔が、脳裏に浮かんだ。
「一言、父上にお伝えしたく」
「なんじゃ」
「よくぞここまで、歴史をお変えなさりましたな。お見事です」
そう言うと、忠輝は平伏し辞去した。
残された家康は呆然とし、間もなく世良田は徳河家康として息を引き取った。
転生者徳河家康~人生詰んだ俺が、神君に転生したようです~(パイロット版) 筑前助広 @chikuzen
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