おしゃれな街『三軒茶屋』
駅員3
『サンチャ』古いものと新しいものが同居する街
三軒茶屋は、『サンチャ』の愛称で親しまれるおしゃれな街として定着している。東急世田谷線三軒茶屋駅を降りると、地上27階建てのキャロットタワーがあり、『世田谷パブリックシアター』もあって、活気に満ち溢れている。
ある日、地下にある田園都市線の三軒茶屋駅から地上に上がると、古い石製の道標があることに気が付いてた。今まで数限りなく三軒茶屋を訪問していたにもかかわらず、全く気がついていなかったのは何故だろう。
その道標は、渋谷から国道246号線を下っていくと、三軒茶屋で玉川通りと世田谷通りに分岐する二股の付け根にある。
四角い石製の台座の上に幅40cm、高さ1.5m位の四角柱が乗っていて、正面には『大山道』と記されている。その上に屋根状の石が乗って、さらにその上に舟形背光を背負った不動明王が、胡坐をかいて睨みを効かせいてる。不動明王をよく見ると、ちょっと柔和なというかコミカルなお顔をだ。舟型背光の風化は激しく、コンクリートだろうか、補修した痕が見られる。
玉川通りは非常に歴史のある道だ。律令時代は東海道の本道で、足柄道と呼ばれていたが、江戸時代になると矢倉沢往還と呼ばれ東海道の脇街道となる。
江戸城赤坂門を起点に
渋谷⇒三軒茶屋⇒二子玉川⇒長津田⇒厚木⇒秦野⇒松田⇒足柄峠
などを経て、沼津へと至る街道である。
途中に大山阿夫利神社があり、大山詣での人たちで大変にぎわったことから『大山道』とも呼ばれている。今の国道246号が、ほぼそのルートをトレースしている。
ここ三軒茶屋は、江戸時代に大山道(玉川通り)と登戸道(世田谷通り)の追分に、信楽、角屋、田中屋の三軒の茶屋が並んでいたことから付いた地名だといわれている。そのうちの田中屋が、商売を変えて現代に続いている。三軒茶屋の交差点から北に入るやや細い道の交差点から入って、左手にある陶器やさんがそれだ。
残念ながら角屋は明治時代に廃業、石橋楼は1945年(昭和20年)まで営業が続けられたが、強制疎開の命令が下り閉店した。
古文書を紐解くと、江戸時代の文化文政期には『三軒茶屋』という呼び名が現れる。
その追分に立っている道標を見た時に、非常に違和感を感じたのは私だけでは無いだろう。
普通追分に道標を設置するとすれば、何処を正面にすえるだろうか。
東の渋谷から西に下ってきた大山道が、ここ三軒茶屋で左右に分かれるとすれば、正面は東の渋谷に向いているのが自然ではないか?
なんとこの道標は、南側を向いているのである。南を向いている正面には、大きく力強い文字で『大山道』と書かれている。そして、その右肩に『左相州通』と記されている。
正面向かって右側(東側)には、『右富士世田谷、登戸道』と記されている。
正面向かって左側(西側)に回り込むと、田園都市線三軒茶屋駅に降りる階段があるため、背後のガラス越しにしか見えないが、『此方 二子通』と記されている。
左右に書かれた行き先から判断すれば、やはり東の方向の渋谷方面を正面に考えてぴったり合う。
背後に回ると、1749年(寛延2年)に建立され、1812年(文化9年)に再建されたことが印されている。
世田谷区教育委員会の資料によると、昔は渋谷方向を向いていたようであるが、玉川電車(旧東急多摩川線)の開通や、道路の拡幅により数回移転されてきた。
その後1983年(昭和58年)に、地元三軒茶屋町会結成50周年の記念事業の一環として昔からの位置に近い現在地に復されたようだ。
それでは、なぜ復元するとき元の方向を向かせなかったのか? 残念ながら、その答えは見つからなかった。
さらにこの道標によると、右に行くと『富士 世田谷・登戸道』、左に行くと『二子道』とあるが、何故正面に大山道と相州通と刻まれているのか?
ひょっとすると、右に行っても、左に行っても『大山道』だったのではないだろうか!? 経由地の違いから世田谷・登戸道と二子道と名付けられているのではないかと考えた。世田谷・登戸道を下ると、町田を経て海老名付近で国道246号に合流して大山阿夫利神社のある伊勢原へと向かう。
ある時、江戸期の三軒茶屋の地図を見ると、世田谷通りを『旧大山道(本道)』、玉川通りを『新大山道(近道)』と記していることから、やはりどちらに行っても大山道であったことが判明した。
万葉の頃より多くの人がこの道を歩み、歩んだ人たちの数の人生を見守ってきたこの追分は、この先も絶えることの無い人の営みを見守り続けるのだろう。
おしゃれな街『三軒茶屋』 駅員3 @kotarobs
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