京都0番線

@Matu-Kurou

第1話

 京都駅の0番線から湖西線に乗る。0番線とは珍しい。

 1行目から早くも脱線だ。線路の話だからというわけではないが脱線してみたい。

 湖西線に乗ったあとの話はしばらくお預けにする。

 では脱線といこう。0番線の話だ。

 それでは1番線はどこにあるのだろうと思って、京都駅の案内標識を見てみると、1番線のホームは見当たらない。0番線のホームがあって、1番線のホームがない、というのはどういうことだろう。それで調べてみた。


 京都駅の1番線は0番線のとなりにあって、貨物用の線路だ。ホームはないそうだ。何番線というのは駅構内などの線路の並び順のことだった。なるほど。

 京都駅の0番線は日本一長いホームだ。全長558メートルもあり、湖西線は山陰線の30番線と共用している。ホームがふたつ分続いているのである。

 0番線とは珍しい、と思ったが0番線のある駅は全国に40ほどあるそうだ。東京の綾瀬駅や日暮里駅、松本駅などにあるらしい。

 京都駅の0番線は最初からあったわけではなく、やはり最初は1番線があって、路線を増やしていったときに付け足したようだ。

 それなら0番以下のホームもあってよさそうなのだが、マイナス1や01番線というのは見当たらない。

 京都駅の0番線ができたのは2002(平成14)年のダイヤ改正からだそうだ。それまで1番線だった線路をつぶしてホームにしたのだが、新幹線の11〜14番の乗り場は名称の変更ができない、ということから、在来線の中で番号のやりくりが行われた。

 そう、新幹線の方が偉いのだ。

 その結果、湖西線と山陰線を共用する長いホームになったのだ。

 線路を1本つぶしたのでホーム自体も広い。普通のホームの奥行は7〜8メートルといったところだが、0番線は20メートル近くある。ゆったりした感じである。だから京都駅北口の中央口改札から見ると、一番手前の線路でも随分と奥のほうに見える。

 しかし、そのように改札からホームと電車が直接見える平面構造の駅は、京都のような大きなターミナル駅では珍しい。大きな駅のほとんどは改札のフロアとホームのフロアが分かれており、改札からホームや電車が見えない作りになっている。

 この点で、京都駅北口は何やら安心感を与えるデザインになっている。

 これから電車に乗ろうとする者にとってホームと電車が見える、というのは決して精神的にマイナスには作用しない。

 目の前の電車に乗るときの利便性だけでなく、奥の方の電車まで改札口から見えるというのが良い。いかにも駅らしいと感じる。

 もちろん、違うホームに行くには線路の橋を上ったり地下道を下ったりするしかない。それでも人に安心感を与えるのである。

 デザイン上のことや精神上のことを考慮した結果でそうなったのではないのは言うまでもない。駅の構造上あるいは歴史上の必然性から平面式になったのだが、駅長からすれば自分の居場所からすべての列車の運行や乗客の乗り降りの様子が見える、というのは理想的であるはずだ。

 この思想からすれば、京都駅の駅長室は0番線に面した中央改札口の近くにあるはずである。ホームの番号づけの順番は駅長室がある側から1番、2番とつけていくのが慣例になっていることからも、そう思われる。

 駅長室のまわりには改札、待合室、売店、事務室など駅の主要な機能がまとまっており、それで駅舎のことを「駅本屋」(ほんや・ほんおく)と言う。

 駅長さんはえらいのだ。だから京都駅の駅長室は中央改札口の近くにあると思うのだ。

 今度行ったときに確かめてみたい、と考えていたところ、先日、かみさんが京都に行ったときにこの話を思いだして、ホームにいた駅員さんに聞いたそうだ。

「駅長室はどこでしょうか」

「駅長に何かご用ですか」

 と聞かれ、

「いえ別に」

 と言って聞けずじまいで立ち去ったとのこと。

 ただ場所を確かめたいと言えば、なぜ、何のため、と聞かれるにきまっている。その答えを説明するのも面倒だ。こちらは、ただ場所を確かめたいだけで、駅長に用事があるわけではない。

 なぜ場所を聞きたいのか、と言われれば

「実は、京都の0番線というのが面白くて、調べていくと0番線の近くには駅本屋があり、そこに駅長室があるはずだ」

 と、説明はできるが、単なる個人の趣味である。

 個人の楽しみ、興味本位の質問を仕事中の人に向けるのは失礼だ。そういう配慮が働いたのであろう。

 テレビの旅番組なら、こういう会話が行く先々に見られ、「旅のふれあい」というものを醸し出すのだろうが、旅行をする人がことごとく仕事をしている人をつかまえて、興味本位のことを聞きだしていたら、相手は怒ってしまう。

 相手もテレビだから、愛想良く応対してくれる。素人はそこそこでよいのだ。

 テレビの旅番組を自分の旅行と同列にしてはいけない。どうも最近はこのあたりを勘違いしている風がある。自分の権利を過大に主張する向きである。

 駅長室はどこか、と聞いて、すぐに答えが返ってくればそれでよし。返ってこなかったら、歩いて探せばよい。だから、かみさんが聞けずじまいで立ち去ったのは正解であった。

 

 そろそろ脱線現場は復旧ができたようだ。電車に乗ろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

京都0番線 @Matu-Kurou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ