鬼才へ贈る、愛憎に満ちた葬送歌。

このレビューを通して描かれる栗本薫=中島梓=山田純代という女性の「自分は何者かになりたい」「自分はここにいる」「自分を見ろ」という無言の叫びは、少なくとも突き刺さる読者もいるはずだ。

読書が好きで、臆病者で自意識が強くて、その癖控え目で、他人から否定されるのが嫌いで、その他にもコンプレックスを山のように抱えた、多分どこにでもいるオタク少女。

こんな栗本薫だからこそ筆者は天才に憧れた凡人であり、新人賞以外の賞とは無縁の、永遠の若書き作家だったという。またこのような作家であったからこそ、(商業的にはともかく)正道だったとは決して言い難い作家人生を送ったのもまた必然だったのかも知れないという気がする。

筆者がこのレビューを行なったのは、長年に渡る栗本薫への愛憎の為せる業だろう。だが愛は間違いなくあったのだ。