栗本薫 全著作レビュー
浜名湖うなぎ
はじめに ―栗本薫という作家―
これは二○○九年に逝去した栗本薫という作家の全著作をレビューしようという試みである。
では栗本薫とはどんな作家か、その説明からはじめねばなるまいが、本当に知りたい人間はグーグルで検索しているはずである。グーグル先生はいつだってぼくたち無知に優しいのだから。それに、どんな作家であるかは、今後のレビュー内容によって嫌でもわかっていくことだろうし、そもそも栗本薫という名前を聞いてピンとこない人間がレビューを読むはずもない。
よって、ここでは彼女(女性作家である)の作家としての稀有な特徴を五つ挙げるのみに留める。もしなにも知らない人間が手違いで迷いこみ、これらの特徴を聞いて興味を持ったら読んでみていただけると幸いである。
一つ。彼女は非常な多作であり、その著作数は400冊近くにものぼる。
二つ。『グイン・サーガ』というファンタジー作品で知られるベストセラー作家である。
三つ。BL小説の開祖的存在である。
四つ。中島梓という別名義で評論・エッセイでの著作も多数残している。
もっとも有名なのは『グイン・サーガ』の作者としてであろう。
『グイン・サーガ』は全百巻を掲げて開始された国産ファンタジー・ライトノベルの先駆けである。そして結果として正伝130冊、外伝21冊が刊行された挙句、まったく物語の終焉にたどり着く気配を見せぬまま作者の逝去により中絶。現在は他の作家に引き継がれ続刊が刊行中である。
ではこのレビューが『グイン・サーガ』を中心に書かれるのかというと、そういうわけではない。むしろ後回しになる。
そもそもこの企画は十年近く前から自サイトやブログでこつこつと続け、ある程度の量がまとまって同人誌にして頒布したりもしている。それも四冊だ。それでもまだ全著作の半分にも達することが出来ず、ここ五年は多忙及び無気力により放置し続けていた。それを一念発起してどうにかしようと、立て直しを兼ねて整理し直すついでに、カクヨムやなろうにも投稿してみようと思いつきではじめたのが現状である。
さて、挙げていなかった最後の五つ目の特徴だ。
五つ。晩年の作品クオリティの低下が激しく、愛憎渦巻くファンを多数抱えた。
要するに、自分がこのレビューをはじめた理由がこれである。私こそがもっとも愛憎うずまきまくっている面倒くさいファンなのだ。この愛や恨み節に一人でも付き合ってもらいたいという、気持ち悪さに満ちたレビュー企画なのだ。
栗本薫・中島梓 (作家) 1953.02.13 ~ 2009.05.26
略歴
1953 東京都葛飾区青戸に生まれる。
1975 早稲田大学文学部文芸科卒業。就職はせず執筆活動に専念、グインサーガのプロト作とも言える「トワイライト・サーガ」等を執筆する。久世光彦演出・沢田研二主演の連続ドラマ「悪魔のようなあいつ」に衝撃を受け、「真夜中の天使」「翼あるもの」「キャバレー」のプロト作「真夜中の鎮魂歌」を執筆する。
1976 「都筑道夫の生活と推理」で幻影城新人賞評論部門佳作を受賞。
1977 中島梓名義の「文学の輪郭」で群像新人文学賞評論部門を受賞。翌年、自身初の著書として単行本化。若手評論家として脚光を浴び、見延典子・中沢けいとともに「文壇キャンディーズ」と呼ばれる。以後結婚・出産までのしばらくは執筆業の他に、テレビのワイドショー司会、ラジオのDJ、クイズ番組回答者など、テレビ文化人としても活躍する。
1978 栗本薫名義の「ぼくらの時代」が江戸川乱歩賞受賞。後ベストセラーに。小説家としても脚光を浴びるようになる。「Comic JUN」創刊(後「JUNE」に改名)。創刊号から休刊に到るまで同誌において中島梓・栗本薫の筆名の他に、あかぎはるな、ジュスティーヌ・セリエ、神谷敬里、沙羅、滝沢美女夜などの別名で様々な作品を残す。
1979 「グイン・サーガ」第一巻「豹頭の仮面」刊行。
1980 伊集院大介シリーズ第一巻「絃の聖域」刊行。翌年、吉川英治文学新人賞受賞。
1981 「魔界水滸伝」第一巻刊行。「SFマガジン」編集長・今岡清との不倫交際が発覚。女性誌・ワイドショーで話題に。年末には今岡清と結婚。
1982 「グインサーガ」第一巻「豹頭の仮面」の「癩伯爵」の記述に関して、全国ハンセン氏病患者協議会が抗議。後に改訂版が出されることになる。
1983 長男、出産。
1984 「JUNE」において「小説道場」スタート(~95年)。江森備、石原郁子、秋月こお、尾鮭あさみ、柏枝真郷らを輩出。
1986 「キャバレー」映画化。主演・野村宏伸、監督・角川春樹。
1987 初めて自ら演出・脚本を務めた舞台「ミスター・ミスター」上演。以降、演劇にのめりこんでいくことに。「小説JUNE」の栗本薫特集において、「終わりのないラブソング」の第一回が掲載される。
1990 乳癌発覚、手術成功。自身初の同人誌「FULL HOUSE」発刊。
1991 「コミュニケーション不全症候群」刊行。はじめて「オタク文化」を読みといた評論として話題になる。今岡清「SFマガジン」の編集長を退任。早川書房退社。
1994 演劇活動を本格化するために「天狼プロダクション」設立。代表取締役は今岡清。
1995 パソコン通信ニフティ・サーブ内にて「天狼パティオ」開設。
2000 ウェブサイト「神楽坂倶楽部」開設。
2002 「文章表現・ワークショップ」開催(~07年)。鳩かなこ、橘涼香を輩出。また「小説JUNE」にて「小説道場」復活(~04年)。
2005 「グインサーガ」第100巻「豹頭王の試練」刊行。
2007 膵臓癌、発覚。
2009 「グインサーガ」アニメ化(NHK)。膵臓癌のため死去、56歳。
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