幸福の目 4日目 交わる誰かと誰か。

 朝6時45分、6分になりそうな所で暁烏が二階建ての家を飛び出し、ローファーの先をコンクリートの地面に軽い力で叩きつける。

「朝っぱらから何の用やんけ!!?」

と言いながら、携帯を耳元に置く。

«早寝早起き、良いじゃねーか。»

携帯からは斑鳩の声が微かに聞こえる。

「もっと、大きく喋れーや!聞こえへんやん!!」

«お? 言うようになったな、暁烏才神。»

少しだけ声を大きくし出した斑鳩は、どうやらネイルと一緒にいるらしく。小さく後でからあげさん買いに行くかと言っていた。

それを聞いていた暁烏は、叫ぶようにこう言った。

「俺にも奢れやぁぁぁぁぁ!!!!」

そんな叫びが朝の箕一市(みのいちし)に響く。


 その後、暁烏の手には肉まんがネイルの手にはからあげさんが握られながら、コンビニから出てきた。斑鳩の手には、財布と缶珈琲と煙草の三つが握られていた。

コンビニの扉の右側で3人は立ち話をする事にした。

「斑鳩さんは、何か食わんの?」

と、問いかけた。だがその問いを無視して、斑鳩はまずは状況を話すと煙草の箱を開けながら話し出した。

そして、煙草を咥えるとその先にライターで火をつける。

「…威能者、この前も話したよな?…極稀に居るってな。」

「あ、愛さんと喋ってた時やろ?俺でも分かるよーに、まとめてもろたの見たわ。」

あちちっと言いながら、肉まんに齧り付く。それを見た斑鳩は、自分の左で立っているからあげさんを食べているネイルに話しかけた。

「ネイル、美味いか?」

斑鳩の声に反応したネイルは、静かにからあげを頬張りながら頷いた。

「…また買ってやるか。で、話はこっからだ。」

「まだ、始まってもないんやけどな。」

「そこに触れるのは駄目だろ。

で、今、俺ともう一人比較的野蛮な奴が確認した所。威能者増えてんだ、確実に一人一人。」

「それは、どういう事なんや?」

と言うと斑鳩は煙草を口から離し、暁烏と目を合わせた。

「お前、俺より背ぇ高ぇな。……自分の力に溺れたらこえぇなって話だ。」

「斑鳩さん、何cm?溺れたらどうなるん?」

「163cmだ。…俺の方がつえぇ、とか何とか言い出したら争いが起こんだろぉが。それと、力の無駄遣い人とか。」

「5cm差や。って、…待ってや!つまり、…!」

暁烏は、その言葉を言おうとした口に肉まんを詰めた。何を言おうとしたかを察した斑鳩は、いつも通りの冷静な顔で言った。

「そーだな、まぁ…〝殺し合い〟に近いな。」

「わーっ?!!言わんといたのにっ!!言わんといたのにっ!!!斑鳩さん、酷いやん!!!!ありえへんわっ!!!お肉食ってる子も居るんよ?!」

「運び屋兼殺し屋の仕事、舐めんなよ。」

そう言って過去の過激な仕事内容を話そうとする。

「あ、許してーなぁぁぁぁぁっ!!!」

すると、ネイルが静かに歩いて斑鳩の前に来た。

「どうした、ネイル。」

相変わらずの無言。「ああ、くれんのか。」

ネイルが暁烏の前でこういう行動出たのは初めてで暁烏は怒るのを休止した。

スッとネイルの手にある爪楊枝は、からあげさんの箱の中のからあげを刺し斑鳩へと差し出す。斑鳩は、受け取ると思いきやそのまま食べた。

それに少しだけ驚いたネイルは、そこで一時的に止まっていた。

「…美味かった、ありがとな。」

と、ネイルの頭をぽんぽんと撫でると暁烏の方へ向き。

「新聞か、ニュース…どっちか見たか?」

「見とるわけない!6時ちょうどに起こされて、支度しってって…何なんや…まぁ、肉まん奢ってくれたから許したるけど。で、ニュースとか見なきゃあかんかった?」

「ああまあな、威能者の事件が発生してるんだよ。1、2回程な。」

と、煙草を口から離すとポケットから携帯を取り出しLINEを開く。

 すると、暁烏の携帯が鳴る。斑鳩がURLを送ってきたのだ。

「何や、これ」

「威能者のニュースだ。」

【女子中学生大量惨殺事件】

「……?!ざ、惨殺ってなんやッ!?!」

携帯から斑鳩へと目線を移す暁烏。

「…事件の詳細は、そこで読め。裏側の話はしてやる。」

暁烏は唾を飲む、その事件の裏側には威能者が関わっていたからだ。

「主旨はタイムトラベラーの威能者。未来を変えすぎたが故の末路らしいがな。本当の所、定かではない。ソイツは今、病院に居る。意識不明の重体だがな、」

と、口に咥えていた煙草をコンクリートの地面に落とし、踏み付ける。

「タイムトラベラー、俺よりか凄いのじゃないんか?」

「さぁな、威能者の事は威能者に任せる。もう一つは、金が関わった話だからな。金が必要だ。四百円寄越せ。」

斑鳩は手を暁烏に向かって伸ばす。

「からあげさん目当てやろ。良かったらでええけど、買ってこよか?」

「二つな」

「少しも遠慮とかはせんのやな。まぁ、ええけど。」

そう言って暁烏はからあげさんを買う為に店に入ると、男の店員が大きな声で「いらっしゃませ」と出迎えてくれた。

暁烏は、その大きな声で出迎えてくれた男のレジに言った。

「からあげさん3つくれへんか?」

「はい!378円でーすっ!少々お待ちをォォーッ!!」

「元気ええなぁ、凄い朝から元気出るわー。」

「そー言ってもらえるとこっちも嬉しいさかいにぃーなぁー。」

からあげさん三つを専用の加熱器から取り出すと、袋をレジ下から取り出し中に入れる。

「勉強頑張れよ!あっ、お詫びに肉まん追加しといたから、内緒な?」

「か、金は……」

「俺の奢り、な?受け取らねば。」

「何で波立ちぬ的に言ったん。ま、貰えるもんは貰っとくわ。あんがとなぁー」

からあげさん三つだけの金を置いてレジを去る。去り際に暁烏は、店員の名札を見た。

【若山 Wakayama】

(若山さんかぁ、覚えとこ。)と、思いつつ店の出入口の扉を開ける。

「おっ、買ってきたか。」

新たな煙草を吸い始めていた斑鳩は袋の膨らみを見た瞬間、暁烏の目を見る。

「……自分の分も買ったな?」

「食いたかったんや!…ほら、ええやんか。」

と、袋からからあげさんを二つ出すと斑鳩に渡す。暁烏は、先ずさっきの店員さんから貰った肉まんを取り出し包み紙の糊をはがすと肉まんの顔を紙から4分の1出すと大きく一口齧り付く。

「…美味しそうに食うな。お前。」

からあげさんを1個口に入れた斑鳩が暁烏の表情型食レポをまじまじと見ていた。

「美味しいで?からあげさんも美味しいやろ?」

二口、三口と齧り付く。

「おい、堪能してる所悪いけど。話すぞ?」

斑鳩はからあげさんを二つだけ食べ、ネイルにあげた。

「少食なんやな?」

「よくいるだろ、給食はそんな食わねーのに。家では本当によく食べる系な奴。」

「あるあるやな。」

モグモグとネイルがからあげさんを頬張っているのを確認すると斑鳩は真正面を向き、暁烏に目だけを向け問いかけた。

「そいやぁ、学校何時だ?」

「9時15分や。」

「…遅いな、何でだ?」

「電車とかバスがこっち来るのに時間かかるんよ。」

すると、斑鳩が「もっと遅れろ」と小声で言ってきた。

「それなんよ〜っ!!遅れて欲しいんや!!!」

「授業も楽になるよな。ざっくりとしか喋らねーぞ。」

「もっと減れば授業遅れるんや!!耳の穴かっぽじって聞いた方がええか?」

「ま、授業サボったけどな俺は。汚ねーから止めろ。」

凄く嫌な顔で暁烏を睨む斑鳩は、ネイルにタバコを近付けないように遠ざけていた。

「ええトコ、あるやん。…で、どんな話なん?」

「暗殺者(アサシン)の話だ。」

「…暗殺者って、あんま実感湧かんのやけど本当に居るん?」

「威能者が居るんならいんだろ、フツー。ちょっと考えろ、あ、赤点4つだったな。」

と、無表情のまま煙草を吸う。言い返そうとした暁烏だが、そこで遮る様に斑鳩が話し出す。

「今では行方不明だが、恐らく二人仲良く生きてる。機械の人間と暗殺者の人間がな。」

「機械の人間て、アンドロイドやん。居るん?」

「威能者居れば全ているって思ってろ。」

「何とか良ければ全て良しみたいな感じに留めたなぁ、ま、そー思っとく。」

肉まんを食い終わった暁烏は、ゴミを後ろのゴミ箱に丁寧に入れながら時間を見るため携帯を開いた。そこにロック画面が映し出されて、【8:59 6月24日】と表示していた。

「斑鳩さん!俺もう行かなあかん!」

斑鳩の背中に向かって叫ぶと、至って冷静にこう返してきた。

「そーか、じゃ、またな。」

後ろ手に手を振ってくる斑鳩は暁烏が去るのを確認すると、ネイルと一緒にバイクに乗った。その時、斑鳩のズボンのポケットに入っていた携帯が鳴る。それは電話の様で、静かに出る。

「…ったく。めんどくせー奴らばっかだな。」


 9時14分、暁烏は行き良いよく自分の教室の隣の扉を開ける。皆の目が暁烏に集中する。

「……あれ?違うかったわ!!」

そう言って、また行き良いよく閉めて方向転換した時に女子生徒とぶつかりそうになる。

「…あぶなっ、大丈夫か?……って、萩原さんやないか。どうしたんや?」

「…い、嫌、その……」

「とりあえず、あと1分や!教室にAre You Ready?go!!」

そう言いつつ、萩原の背中を押し、教室に向かわせる。

「本当に、その…っ……!」

「具合悪いん?」

「そういう訳じゃないけど、…保健室に……」

萩原の様子が可笑しい事に気付いた暁烏は深入りはしない様にこう言った。

「何かあったら、言いや?相手は変化に気づいてるけど、口に出せない時や何て言えばいいか分からない…でも、助けにはなってくれる筈や。それにな?口に出さん事がどんなに…心を壊していくかを萩原さんはまだ分からんやろーけど、考えている以上に怖いで。」

きょとんとした顔で暁烏の顔を見つめる萩原。

「…な、何か、可笑しい事言ったか?」

「ううん、暁烏くんがそんな事言うなんて思わなくてね?何だが…不思議なの、だっていっつも寝てるのに。」

「赤点は4つや。」

指を4つに曲げて萩原の顔の前に出す。

「…そうには見えないな。」

「…人は見かけによらないちゅーのはこういう事やんな。」

そう言いながら頭を搔いた瞬間、朝学のチャイムが鳴る。

「うわ?!萩原さん、保健室行くんやろ!?なら、先生に言っとくから行ってき!!」

「教室にする。」

「…ええんか?」

「ここで惑わせないで? 私はもう大丈夫。」

萩原が笑う。

(何だ…自分の幸福の力を使わずに幸福(えがお)に出来るやん。)

ふとそう思いながら一緒に教室に入ると、暁烏が先生に「自分のせいで遅れました」と頭を下げる。そんな律儀な暁烏に先生は優しく「二人共、席に座りなさい」そう言ってくれた。

2人で席に着くと、萩原がチラチラと後ろの席の暁烏の方を振り向く。

「先生も全員、同じ人やないんや。ちぃと、相談してみたらどや?ほら、国総の先生とか。あの先生いっちやん好きなんよ〜。」

「…暁烏くんって、…何か、変わっちょる。あ、良い意味でね?」

「口調変わっとるってよく言われてるもん。親とか兄も普通なんやけどな〜。生まれつきで、何とかやねん!っていっつも付けてたんよ。」

「そうなんだ、個性的で良いと思うよ。私は、それで暁烏くんって認識するね。」

暁烏は、それに対して「声色も覚えてや」と付け加えた。

 1時間目の授業が始まる。国総で先生が予定時間一分前に教室に出席簿と教科書を持って、入ってくる。

「よーし、始めるか……お?暁烏、今日は起きてるな。」

手を擦り合わせ、教卓の両端にその手を大きく広げて置く。

「名前出さんといてーな、先生。寝るよ?」

「授業点ないぞ?」

「ちぃと苦しいかもしれへん。」

 その日は、萩原は頻繁に寝ている暁烏に話しかけていた。

「…宿題した?」

「……次なんやー」

「数1」

「え、待ってや。宿題て、成績入るヤツ?」

暁烏は後ろの小さめの黒板に書いてある日課を見ながら立ち上がる。萩原は静かに頷く。

「見せてもろても……」

「良いよ。その代わり、次からこの問題、出来るようにしといてね?」

と、プリントを渡してくる。

(数1とか、赤点中の赤点。出来るかどうか、不安やけど……)

そう思いながら萩原に「善処するわ」と答えながら、筆箱からシャーペンと消しゴムを取り出す。カチカチと音を鳴らし芯を出すと、自分の数1のプリントを溜まりに溜まったクリアファイルの中から掘り出そうと捲り始める。

「どれだけ溜めてるの……」

流石の萩原も、引き気味の声。

「なーんか、捨てよーにも捨てれんのや。もしかしたら使うかもって思ってな。」

最近のプリントなので手間は余りかからずに掘り出せた。

「……少し分かるかも、…でもそれって片付けようにも片付けられない人が言う言葉だよね?」

「は、初耳やわぁ……。」

そう言いながらプリントを机に置き、シャーペンを持った右手で写しながら、クリアファイルを持った左手でクリアファイルを引き出しの中に直す。


 放課後、HR(ホームルーム)が終わると暁烏は鞄を素早く持ち靴を履き替え、学校を出た。 それを無言で見届けた萩原はヒトリ、何かを呟いていた。


「急がんと、昨日のお詫びに何か買っていきたいんやけど金は朝使ってもぉぉたぁぁっ!!」

叫びながら走っていると、2人の男女の男の方にぶつかる。男は運良くバランスを崩さなかったが、暁烏はバランスを崩す。

「反動的にすっげー痛いかと思たけど、いとーないなー。あ、でも尻が……」

すると、男が手を差し伸べてきてくれた。

「大丈夫か?前見てなかった、ごめん。」

「前見なさいよ!」

「誰のせいで前見てなかったと思ってんだよ!!」

男は暁烏を立ち上がらせながらも、女にいちゃもんを次々と吐く。

「俺、お暇(いとま)させて貰いますわ。」

「待って、お詫びにこれ。」

と、男は財布から五百円を取り出し暁烏に渡す。

「貰えへんでっ!?お金は!」

「お金以外は受け取ってくれんの?」

「……それは物によるなぁ。」

男はそんな正直な暁烏に笑いを堪えていた。

「じゃ、五百円は俺の良心が痛むから受け取って。」

それだけを言ってそそくさと去る男女2人。その背を見届けると手の中にある五百円を見ると、握り締め。

「……買ってこ、」

暁烏はコンビニで五百円と今の持ち金、四百五十一円で買えるものたけ買って走ってマルガリータに向かった。


 バー・マルガリータの扉の前に着いた。

「好いてくれるやろか、」

爪に詰め込まれたコンビニの袋の中の持ち手を両手で持ち、隙間から中身を見る。

「…愛さんやからえっか。」

と、扉を開けるとカウンターで短髪黒髪の男が伏せて寝ていた。

「…誰やろ……」

その人から三個くらい離れた机の上にコンビニ袋を置き、周囲をキョロキョロと確認し、また男を見る。

(愛さん、居らへんし。トイレかんなー?)

 暁烏がそんな事を考えていると、突然起きて欠伸をし出した。

「うぉ…」

驚きで声を上げる暁烏。その声に反応し、目は髪に隠れて見えなかったが顔はこちらに向いている。

「おっ」と言いながら、前髪を右手で乱雑に上げて、顔を出す男。

「才神か、来てんなら起こせよなー」

「?、誰や?」

「……あれ?…あ、あー!ヘアバンド付けてないからか。」

そう言うとカウンターへ入り、奥へと行く。

「………?」

凄い騒々しい音が聞こえると、大きな声で男がこう問いかけてきた。

「声で判別できないのかー?才神は。」

そう言ってヘアバンドをしながら、男────朝霧が困った顔をしながら、奥から出てきた。

「ヘアバンド=愛さんって覚えてもうたんやな。俺。」

暁烏はそう言って頭を抱えて、何で判断をするかを考え出した。

「声は? つか、覚えろよな〜。」

「ごめんて。目、覚える事にするわ。」

手を合わせて頭を下げる暁烏。朝霧は「目だけかよ」と言いながら笑うと続けて。

「…じゃ、早く着替えてくるんだな?今日はみっちり働いてもらうからな。」

カウンターに乱雑に置いてある台拭きに水を含ませると、暁烏に投げる。それを上手くキャッチ出来ず頭に被さる。

「うっ、……!」

「酒臭いだろ?」

ニヤニヤと暁烏を弄ったのであろう笑いを向ける。

「あ、あれやな?態とやな!?」

と、暁烏は半分怒りながらカウンターを拭く。


 夏のある日、俺達はカワる。


 変わりゆく日常は侵食される。それは悪い方でも良い方でも、それは人の見方によって変わる。当たり前のことだ、都合で成り立っている世界なのだから。都合、辻褄は全て合わせるもの。元々合わさっていたものではない。



──────────後、7日。

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どこかの誰か知らない人の為に僕等は、いつも戦っている。 弾丸(373弾) @Dagan373dan

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