幸福の目 運び屋の零した言葉一致
夕方4時39分、バー・マルガリータの暗い裏路地にてバーテンダーの服を着た暁烏、向かい側に猫耳グレーのニット帽を頭に被った黒のタンクトップ1枚の13歳位の少女、両手にはリアルに爪も毛も再現された猫の手袋。その隣には壁にもたれかかりながら少し俯き煙草を吸う髭の生えた黒い革ジャンの男。
「…暁烏才神、だったよな?お前。」
革ジャンの男が目だけを暁烏に向けながら、手に持っていたライターを革ジャンのポケットにしまう。
「そうやけど、何?」
「やっぱか、…ヤだなぁ。餓鬼かよ〜、しかも、バーテンダー?っぽいの!!」
頭を搔くと、少女の方へ顔を向け何か小さな声で言い出した。少女はじっと暁烏に目を向けているだけで、一切揺れないし動かない。
「……で、良いのか?」
「…………」
少女は喋らない、にも関わらず。
「そうか〜、」
と、男は話を続ける。
「ちょっ、何独り言、言ってん?」
「あ、あ〜、これ俺ら流の話し方。」
男は自分の左手の親指で、少女を指差す。暁烏は、少女を見つめると
「…変なやっちゃ…で、俺に何か用なんやろ?初バイトの初日やっちゅーのに、こんなに初めて休み時間とれんの。奇跡ちゅーの奇跡ちゅーもんや。」
すると、男が姿勢をよくし出した。暁烏も、それに気付いた様で男を見つめ出した。
「…け、喧嘩とかは勘弁してな?」
両手の平を前に出しながら、後ずさり男達と距離を取ろうもするも後ろは壁。よく見ると、男の目が暁烏をずっと捕らえている。
(…!!やばい!)
大通りの方へ走り出す暁烏、すかさず男が首根っこの服を掴み、それを阻止する。
「こっちも逃げてもらっちゃ困るの。」
こめかみを人差し指で掻きながら、呆れた顔をした。
「…俺に何の用や。」
「…俺さ、運び屋なんだよね〜。……この意味、分かる?」
「運び屋、宅配便と少し違うだけやないんか?」
そう言うと、男が暁烏の首根っこを掴むのを止め、コンクリートの地面に落とす。その時、暁烏の頬が地面に当たる。
「……いって、痛いやん!」
すぐさま両手を使い、顔を上げると暁烏は男を睨んだ。睨んだは睨んだが、威圧もその気持ちも伝わってこない目。男は、そのまま睨んでいても変わらないと判断したのか隣の女の子の背中をそっと叩くと口を開いた。
「ちょっと話すだけだ。落ち着けよ、全校集会嫌なのは分かるけど。」
「どっからその発想になるんや!!確かに全校集会は嫌や!この際言ってまうけど、特に最後の校長の長々とした話が嫌いやな!!」
男はタバコを手に持ったまま、暁烏を見た。その目は少し驚いているようだ。
「……お前、本当はコミニュケーション能力高いんじゃないか?そうやってサラッと嫌いな物、初対面に言えんの。漫画で初対面で嫌味言われてあんたなんて嫌いよって声出す裏ヒロインか?」
「あんたも、高いとちゃう?そんなになっがながとペラペラとよー喋れんな!?」
「こっちも言わせてもらうが、校長の身にもなれ。一々、全校集会の度、話す話題考えて、校長っぷりを見せなければならねっーつのもあんだよ。もしかしたら、学校を時々見回ってる校長は話題作りをしているかもしんねーし…」
「それもうざいんや!回るなちゅーの!!お前の足元にルンバ付けてやろうかって位!!!」
男は、何それつけてと言って近寄ってきたので、きもいと暁烏は全力の声と顔で返した。
「まっ、そーゆー感じに話せればやっぱコミニュケーション能力たけぇわお前。ひょろひょろな癖にな。」
そう言いながら、男はタバコをコンクリートの地面に落とし捨てると右足で踏み潰した。
「…で、まぁ、今から話させてもらうのは…あ、聞いてくれるよな?」
「聞きますよ聞かないと返してくれへんのやろ?」
「聞かなくて返さないとは言っていない」
「この卑怯者。」
男は気を取り直して話すぞと話を切り替えた。
「まぁ、此処で働いてるっー事はだ。お前、もう、自分が威能者だって気づいてんだろ?コミュ力高度青年。」
「…あの、もしかして、……」
と暁烏は立ち上がり、男を真っ直ぐ見た。
「あちら側関係なんすね。」
「…そうだな、威能者ではねーがな。あ、コイツも威能者じゃねーぞ?」
男の手は、隣の少女の頭に乗せられる。それを嫌がらずも動じない。
「……この中だとこの子、教頭やんな。」
「あ、まぁ、そーだなー。似てるもんな。はい、皆が静かになるまで何分何十秒かかりました…って時計見ながら言うんだろ?俺でも、あれはウザイと思うからな。やられたら、殴りたい。つか、殴った。」
「勇者キター。てか、やっぱすよね?!まぁ、そういうの後半、無視られるのがオチやんな〜。」
「5発。後半、全部寝て過ごした。」
男と暁烏は、学校生活での不満を零し始めた。「話が長い先生」「トイレに居座る女子達」「無駄にぶりっ子系のキモイ女子」など、細々と愚痴を零した。それは、まるで放課後の教室に残ったJK達の陰口を表沙汰にした様な感じ。
零した後、暁烏が何の話をしていたかと話を戻した。すると、男が申し訳なさそうな顔をして、少し真っ直ぐな目になる。
「ああ、すまん。…一言だけ、お前、ぜってーいい友達出来るぞ。これだけは断言や、肯定して言える。」
「……言い切れるのも、すっげー何か、…うん。……褒められてんよな?」
「ああ、褒めてるぞ。それ以外に何がある、」
「……分かった……。この頃なー、何かと友達作れーって言われるんよー。」
頭を搔く暁烏、それに対する男は済ました顔で違う話を盛り付けた。
「それよりか、他ん話だ。威能者、聞きたいんだろ?暁烏才神。」
「…そーなんやそーなんや!あんなぁ、俺が威能者っつっても余りその力みたいなんじゃなそうなんよ。どー思う?」
「……暁烏才神、その力はお前が思っている以上に価値がある。……俺が〝この仕事〟を承ったっー事はな?」
「あ、お仕事何やの?」
男は、また1本タバコを箱から取り出すと口に加え火をつけながら言った。
「運び屋だ、名前は斑鳩 丑寅(いかるが うしとら)。で、隣のコイツがネイル。ちゃん付けの方が可愛いぞ。」
「斑鳩さん、ネイルちゃんさんやな。」
「……本当に居るよな、ちゃんが言いにくくてちゃんの後にさんつける奴……」
「目の前にな。」
暁烏は、斑鳩に目を向けると少し不自然な事を言った。
「あれ?今、斑鳩さん、運び屋やんな?つまり、俺を運ぶとか?」
「…正式には、…お前のその目だ。威能者に深く関わった奴には分かるんだろうな、その目…力は、強いとかな。」
その瞬間、朝霧の言葉が思い浮かぶ。
〝「…先ずは、お前のその目。ゾワッてしたんだよ…お前の目を見つめた瞬間、……」〟
それを思い出した瞬間、暁烏が俯いた。
「……つまりっすよ?俺の目は、異形って言いたいんやな?」
「だったら、威能者は異形か?お前、ちゃんと異形の意味分かってるか?」
「うっ、それを言われんと…分かってへんわ。」
「辞書引けよ。」
と、斑鳩にスパンと音が出るような感覚の言葉を放たれた。
「安心しろ。運ぶ気は無い。ましてや、人の目なんてな。」
「まぁ、どーやって持ってくーちゅー話やからな。」
「持っては行けるぞ?」
「…もっとマシ……嫌、威能者とかそーいうんのおるんやったら出来そうやな。」
と、暁烏の目はネイルに向く。そして、右手の人差し指でネイルを指差すと汗をかきながら言った。
「その子やろ?出来んの。」
「……よく分かったな。……なんで分かった」
「何となくや、何か可笑しい所でも合ったんか?」
「ネイル」
と、斑鳩がネイルの名前を呼んだ瞬間。ダンッと裸足で地面を蹴る大きな音。目を見開く間もなく、ネイルは暁烏の頭上へ行く。
「いつの間に…っ!!?」
咄嗟に大通りへ走る暁烏、大通りへ繋がる道の前に誰かの影が立った。
「?!」
朝霧だ。朝霧は仁王立ちをしたまま、暁烏を軽く抱き寄せ、ネイルが目の前に来る前に指を鳴らし〝空間〟を作った。
「無重力、それはおいちゃんも知ってるよな?」
「おじちゃんの事言ってる?」
ネイル、斑鳩、暁烏、朝霧の4人だけの無重力空間。ネイルはもがいて、斑鳩の所へ行こうとする。
「ネイル、この無に身体を委ねろ。」
斑鳩がそういうともがくのを止めるネイル、大人しく丸々。こうして見ると、猫みたいな少女。
「……才神に何してた?」
朝霧が低いトーンで口を開いた。
「学校で言うと、避難訓練的なあれだ。」
「避難訓練っ?!斑鳩さん、そんな危ない避難訓練初めてや!!当たり前やけどな!?」
「…ははっ、マジちょっと…お前等の会話って学校中心かよ。はははっ!!さっきから、聞いてたけどもうっ……はははははは!!!」
「聞いてたんか、あの話。」
大声で笑いながら朝霧はごめんごめんと2回程、繰り返した。
「あ、俺は朝霧愛染。おいちゃんは?」
「……お前に教える事じゃない。」
「才神には、教えた癖にぃぃ!!!」
と、喚き立てる。それに驚いた斑鳩は、仕方なく名前を名乗った。
「……斑鳩丑寅……。」
「いーちゃんな!OK!!」
手の親指と人差し指の先を合わせ、丸をつくる朝霧は、満点の営業スマイルを見せる。
「…どうだっていいが、早くこの空間を解いてくんねーか?何も出来ねぇし、…お前みたいな威能者、初めてだ。」
「これは、本気。本気じゃない時は、そこの空間の雰囲気だけを変える。」
「だから、あそこ一瞬にして変わったんやな。」
「マルガリータん中は、いっつもあれ。華やかさ、合ってのマルガリータだからな。」
そう言いながら、朝霧は指を鳴らし空間を元の細道に戻した。
「…よし、才神!お前、今日上がれ。」
笑顔で暁烏の肩を叩きながら言う朝霧。暁烏は、何でやと大きな声を出す。
「だって、今日初日やん。可笑しいんちゃう?」
「俺がまとめてから話すし、早く帰れ。その代わり、明日ガツガツ働かせるからさ!」
「それもそれで何か嫌なんやけど。」
ほら早く帰れと急かされながら細道を去って、荷物をバー下の隠しロッカーから取り出して今日のバイトを上がった暁烏。
(本当に何なんだよ、愛さんも過保護って奴か?…今度、ズバッて言うか。過保護過ぎなんだ!!って。)
そして、箕駅に出る道を出た瞬間。盛大にセーラー服の女子中学生とぶつかった暁烏。
「あ、ごめんな!!大丈夫か?」
そう言いながら手を差し伸べる。
「大丈夫!私、体は丈夫なの!!」
と、手をとる女子中学生の頬を見ると擦り傷を負っていた。女子中学生の後ろをよく見ると、メガネをかけた三つ編みの女の子が居た。
「丈夫でも、傷付く時は傷つくんや。こんな時間にウロウロするのも危ないなぁ、ほら送ってやんから立てみ?」
「立てるよ!!大丈夫だよ!走って帰りゃなくちゃいけないから、じゃあね!!ありがとうございます!!早く行こ!」
そう言って女子中学生2人は暁烏にお礼を言って去ってしまった。その際、手を振ってきたので暁烏も振る。
「…最近の中学生、悪い子ばっーかりやと思ってたわ。当たり前だけどちゃうよな。いつも挨拶ちゃんとする人おるし、そこらへん見とかなあかんな。」
その時、ズボンのポケットに入れてあった暁烏の携帯が鳴る。咄嗟に取り出し、落としそうになるもちゃんと握る。
「……愛さんか。」
【才神、君、身の回りで不自然な事起こってない?】と顔文字もスタンプもない簡潔な文が送られてきた。
(不自然な事って、威能の事か…)
そんな事を考えていると、また朝霧からメールが来た【言い方が悪かった(´・ω・`) あのな、人に何かされそうになったりとかした•́ω•̀)?】
「愛さんって、女の子っぽいメールやなぁ。」
そう微笑みながら、キーボードをタップして出し、文字を打つ。
(…友達……、男友達欲しい……。)
と、家路を急ぎ、全ての用事を済ませ寝る事にしようとする暁烏。
やはり、だれも知らぬ誰かとの交差を求めだした者は少しずつ変わってゆく。それは、良い事でも悪いことでもない。
只、学べ。その関わりから。
既に未来へと扉は開かれている。私も知らない誰かよ、どうか悔いがないように生活をしてくれ。どうか、その1歩を踏み出しておくれ。
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