第4話
さらに翌日。朝食を食べて、少し炬燵で暖まってからそろそろ帰ろうと重たくなり始めた腰を上げた。
「もう行くのか」
寂しそうにいうじいちゃんとばあちゃんに、また来ると言って、僕は実家を後にした。父さんが駅まで送ってくれるとのことで、その言葉に甘えた。母さんは学校に行かなければならないとかで朝早くからいなかった。
少し雪の積もった道をスタットレスタイヤが踏みしめていく。
駅に向かう車内で、父さんが口を開いた。
「父さんもな、母さんと一緒だ」
「なに?」
「お前が幸せならそれでいい。息子の幸せが親の幸せだ。だから、なんだ、なんつうがなあ、元気でやれ。それでいい。そりゃちょっとは残念だったげっと、お前の人生はお前の人生だべ。たまには帰ってこい。今度はもっとゆっくりしてげ」
「……ありがと」
「……気持ち悪ぃな」
恥ずかしそうに父さんは笑った。確かに男二人でなんだか気持ち悪い。
「今度はゆっくりできるように帰ってくるよ」
「うん、そん時はもっといろいろ食わせてやっから」
「いいよ、十分。実家ってだけで十分」
「人の好意はちゃんと受け取れ、な」
「はいはい」
他愛もない話をしているうちに駅についた。ロータリーで降りると、助手席の窓を開けて、父さんが「いってらっしゃい」といった。
「いってきます」と返して、駅に入る。改札を抜けてホームにつく。滑るように新幹線が入ってきた。僕と同じようにホームに並んでいるひとたちはまばらで、年の瀬を感じた。ドアが開いて、車内の暖かい空気に包まれた。乗り込んで、指定席に座る。またしても窓際だったので、窓枠に肘をついて外を眺める。
さっきまで止んでいた雪がまた降り出した。きっとこれは積もるだろうなあと思いながら東京に向かう。新幹線は静かに動き出した。
外の景色は変わっていく。田舎から都会へ。来たときとは逆に。枯れ木に白柳——そんな冬の景色から、イルミネーションに飾られた都会の街並みへ景色は変わっていく。
一泊二日の旅は幕を閉じた。終点の東京駅について、僕は新幹線を降りた(当たり前か)。やっぱり田舎と東京の寒さはちょっと違う気がする。けれども、今は少しだけ、その寒さもいいもんだと思った。都会ならではの寒さ、それもまた都会の良さだ。
僕は今はひとりで東京に住んでいる。田舎から出て、少しばかり遅い春が終わりを迎えたけれど、きっとまた春はやってくる。昨日の僕には、きっと明日の僕が少しは気が晴れているなんて思ってもいなかっただろう。そんな風に、今日の僕には、明日の僕がどんなふうに思っているのかなんてわからないから、きっといつか訪れる春をその時はその時でと思いながら待つことにする。
にしても、ここ最近は急に冷え込んだ。年の瀬らしい。まさしく冬。
家路につきながら思う。
今日も冷える、お風呂に入ろう。
P.S.給湯器の件を忘れていたので、早急に連絡しよう。
今日も冷える、お風呂に入ろう 久環紫久 @sozaisanzx
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