第7話

僕はパイプの中のゆるくオレンジ色に点滅する道を歩いている。

たくさんの人々が、それぞれに決められた道を歩いたり、カプセルに乗って運ばれたりしている。事故は起こりえない。しかし人々はすれ違う他人には、一欠片の興味も抱かない。

だから、僕くらいのものなのだ。


こんなふうに道でうずくまっている少年に気付くのは。


僕の五つ下ぐらいだろうか。僕が少年の細く痩せ衰えた背中を見つめ、どう声をかけようか立ち尽くしていると、少年がピクリと顔を上げた。

そして辺りを見回し、僕と目が合うとピタリと動きを止めた。

僕はその目に吸い込まれるようにじっと見つめた。

深い青の瞳の中には暗い闇が潜んでいるようだった。


僕は無意識のうちに口を開いていた。

『友達にならないか』



◆◆◆


僕は少年を家に連れ帰った。

今夜は息子夫婦が出かけているので食事がテーブルに用意してあった。

食事の時も少年は終始無言だったので、僕も何も聞かなかった。

僕の部屋で少年と僕は本を読んでいた。

ふと少年を見ると、少年の右肩には薄らと血が滲んでいた。


『怪我してるの?』

少年は本から顔を上げた。

『服脱いで、手当するから。』

少年は驚いたように僕を見て、黙ってシャツを脱いだ。

止血してあった薄汚れた布の端キレでを解くと傷跡は深く、不衛生な状態だったせいか膿んで晴れていた。

『ずっとこのままほっといたの?化膿して腫れてるから病院いった方が』

『だめっ』

少年は小刻みに震えて目を瞑っていた。初めて聞いた少年の声はまだ高く、それでいて深く重く響いた。

『どうして?お金なら出すよ』

少年は首を振った。

『僕は病院には行けないから、ここで手当出来ないならこのままでいい。』

少年は左腕で右肩を押えた。

『分かった。ここでできるだけ手当する。』

それを聞くと少年は安心した様に左腕を下ろした。


僕はどうして病院に行けないのか知りたいとも思ったが、これ以上少年に聞くのはいけないことのような気がした。


『あの』

手当が終わると少年は言った。

『ありがとうございました。あの、今夜泊めて貰えませんか。あしたになったら必ず出ていきます。』

『いいよ、ずっと泊まってて。帰るとこないんだろ?』

『っ、あ、いやでも』

少年は俯いてぶつぶつと呟いた。

『いいから。遠慮するなよ。でも代わりに君のこと、色々聞きたいんだけど。』

『あ、お、お願いします』

少年は耳まで真っ赤にして、小さな声で言った。

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久しぶりに地球に帰ったらクロワッサンが神になってた。 梨の次に愛してる。 @nashinotsuginiaisiteru

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