最終話 さらばユーキ! さらば魔法世界!

 BL隊VSサーティーンナンバーズの戦いが終わって約2週間。

 グレールやトゥマール等で捕虜になっていたナンバーズは、全員パラス国へと返された。

 ネムとロロ、パル&チル、ベールのシェーレ国出身者は、パラス国も含めた統一国の支援により、着々と復興が進んでいるシェーレに戻って来ていた。

 そして、パラス軍により虐殺されたシェーレ国の国民達は……。


「ネム! 着替えもせずにいつまでゲームで遊んでるのですか⁉︎ もうじき式典が始まるのです! 早く準備するのです!」

「めんどくさいからいい」

「何言ってるのです⁉︎ 私達があれ程望んでいたシェーレ国の復活祭なのです! その式典にこの国の王女が参加しない訳にはいかないのです!」

「パルとチルが居るんだからいいじゃない」


「確かにパルとチルもシェーレの王族ですが、ネムが1番お姉さんなのです! この国の次期王位継承者なのです!」

「ネムはユーキ姉様と結婚してリーゼルで暮らすから関係無いも〜ん」


「そんなのは許さないのよ!」

「だんごの串なの〜」

「断固阻止なのよ!」

「そうですよ。いくらユーキさんが世界の王になったとはいえ、結局ユーキさんの意向でそれぞれの国はそのまま残す事になったんですからね」


 ネム達の元に現れるパルとチル、そしてベール。


「ネムはこのシェーレの次期女王としての自覚を持ってもらわないと困ります。ねえ、プラム姉様?」

「そうですね〜。何と言っても今やネム達はこの国を救った英雄ですからね〜。今すぐ王位を譲ってもいいぐらいです。ねえあなた?」

「うむ! 父として誇らしいぞ! ネムよ!」

「ロロもネムを守ってくれてありがとうね〜」

「そ、そのお言葉だけで充分なのです!」


 現れたのは、生き返ったシェーレ国国王ファルコと、王妃のプラムであった。


「いや〜、しかしちょっとワシらが死んでる間にこんなにも立派になって、パパ嬉しい!」

「ママも嬉しい!」


「さあ! 国民がみな待っているぞ‼︎ この国を救った英雄達の顔を見せてやるのだ‼︎」

「恥ずかしいからヤダああっ‼︎」

「見せしめなの〜」

「使い所が違うのよ!」


 パラス軍に殺されたシェーレ国の国民は、ユーキとカオスを主とした神々により、全員無事に生き返ったのだった。

 そして、自分達が殺してしまった者を全員生き返らせた後カオスは、ネム達召喚シスターズ全員からケジメとして、しっかりビンタを食らうのだった。


「ぶほうおえああっ‼︎ ちゃんと全員生き返らせたじゃねぇかああっ‼︎」


「そういえば、ロロだって元の人間に戻れたのに、何でこのままでいいなんて言ったの?」

「う〜ん。召喚獣とは言っても、普通に美味しくご飯も食べられるし、歳をとらないし、驚異の身体能力はあるしでいい事ずくめなのです。それに……ネムがひとりで獣魔装を使いこなせるようになるまでは、心配で人間になんて戻ってられないのです」


「ロロ……まあ確かに、ロロが人間に戻っちゃったら、ただの無能なメイドだもんね」

「はうあっ⁉︎ ロロのいい話はどこ行ったのです⁉︎」



 シェーレの復活祭が行われた3日後、リーゼルではいよいよユーキの統一王就任式が行われようとしていた。

 リーゼル城の中や城の周囲には、もの凄い数の兵士が配置されていた。


「確かにユーキ王が誕生する大事な日とはいえ、パラス軍の脅威も無くなった今、この警備はちょっと大袈裟じゃありませんか、アイバーン様?」

「違うぞメルク。これはユーキ君を敵から守る為の警備ではない。ユーキ君の逃亡を防ぐ為の警備なのだ」

「ああ〜、ユーキさん前科ありますもんね」


「今のユーキ王が本気で暴れたら、俺達では抑えきれないからな! ハッハッハッ‼︎」

「何でブレン様は嬉しそうなんですか」


 そこへ、ユーキを探しながらパティがやって来た。


「ユーキ‼︎ ユーキはどこ⁉︎」

「早いなパティ君」

「あたしが居ないと可愛い妹のユーキが寂しがるでしょ⁉︎」

「いや、君はゲートが出来てから毎日のようにユーキ君に会いに来ているだろう⁉︎」


 続いてやって来るセラとレノ。


「パティちゃんやネムちゃんがぁ、ユウちゃんと離れたくないと駄々をこねるからぁ、ユウちゃん達神様がこの世界の主要都市をゲートで繋いで自由に行き来出来るようにしてくれたんでしょぉ?」

「俺達のヴェルンはリーゼルとは結構遠いからな。だからこうやっていつでも会えるのは有難い事だ」


「誰に説明してるのよ⁉︎ あたしは常にユーキの側に居たいのよ! それなのにウチのバカ師匠が無理矢理グレールに連れ戻すもんだから!」

「バカ師匠ゆ〜ニャ‼︎」


 今度は猫師匠とフィーが現れる。


「お前はバカでも一応グレールの次期国王候補ニャ! だから今の内から政務を覚えて行ってもらうニャ!」

「あたしは王位なんか継がないって言ってるでしょ! 大体師匠は神様だから歳は取らないんでしょ⁉︎ だったらずっと師匠が王様やればいいじゃないのよ!」

「あ、あたしはその……色々と問題がニャ……」


 ハッキリしない猫師匠に変わって応えるフィー。


「パティ。シャル様はいつまでもこの世界の女王では居られないのです」

「え⁉︎ それってどういう……ま、まさかユーキと神様の世界に帰るとか言うんじゃないでしょうねっ⁉︎」

「いいえ。近いうちに私がシャル様の息の根を止めるからです」


「フィー‼︎ 何サラッと怖い事言ってるニャア⁉︎」

「やめてよね、フィー! そんな事したら本当にあたしが王様やらなきゃいけなくなるでしょ⁉︎」

「いや、あたしが死ぬ事については別にいいのかニャ⁉︎」


 更にそこへ、ナンバーズを引き連れたカオスがやって来る。


「心配するなパティ。相手が猫だろうと、俺がちゃんと生き返らせてやる。猫がお前に王位を譲りたいのは、単に自分が遊びたいだけだからな」

「バラすニャア‼︎」


「余計な事をしないでください兄さん! せっかく私が優しくシャル様を仕留めようとしているのに」

「別に猫が死のうが生きようが俺にはどうでもいい事だが……」

「どうでも良くないニャア‼︎」


「死人を出したらユーキが悲しむからな。俺はもうあいつの泣き顔は見たくないんだ」

「だ、だれもあたしに対しての忖度は無いのかニャ……」

「そんな事はありませんぞ、テト殿!」


 何とそこへ現れたのは、ベリルとガイゼルだった。

 そんなベリルを威嚇するカオス。


「オイ! 何で敵だったテメェがこんなとこにいやがる⁉︎」

「いや、貴様にだけは言われたくないわっ‼︎ イース……いや、ユーキはBL隊は参加自由だと言った。いつでも待ってると言った。だからこうやってやって来た。こんな単純な事が分からないのか? バカな悪魔め!」

「テメェ‼︎ ぶっ殺す‼︎」

「望むところだっ‼︎」


 魔力を高めるカオスとベリル。

 そしてお互いパンチを繰り出した時、一瞬にして描かれた魔方陣により2人の魔力が消し飛び、普通のただの弱いパンチがお互いの頬に当たる。


「やめええっ‼︎」


 あっという間に2人のケンカを止めたのはユーキであった。


「こんな大勢居る中でケンカしないのっ‼︎」

「だがよぉ、ユーキ⁉︎ ベリルの野郎がこんなとこに居やがるからよぉ!」

「ベリルもガイゼル達も、みんなもう僕達の仲間なんだから居るのは当然でしょっ‼︎」

「だってよぉ〜!」

「ふ〜ん。そんなに僕を怒らせたいんだ?」


 冷ややかな目でカオスを見るユーキ。


「ヒッ‼︎ いいえ‼︎ 滅相もございません‼︎」

「うん、よろしい! ベリル、ガイゼル、来てくれたんだね。ありがと!」

「仲間なら当然ですぞ! ユーキ殿!」

「あ、あなたが……いつでも……来ていいって……言ったから……」


 恥ずかしそうに応えるベリルに何だかムッと来たパティが2人の間に割って入る。


「ユーキ! お姉ちゃん寂しかったわぁ! 今までどこ行ってたのよぉ⁉︎」

「ああ、うん。一足先にネム達が来たもんだから、さっきまで部屋で一緒にゲームで遊んでたんだよ」

「なら、あたしもユーキと一緒に遊びたいわぁ!」

「あ、うん。じゃあまた式典が終わってからね」

「ええ! 楽しみにしてるわ!」


 しかし、妙に時間を気にし始めるユーキ。

 そんなユーキの様子を見て警戒するアイバーン。


(何だ? ユーキ君、何を気にしているんだ? 式典までにはまだかなり時間があると言うのに?)

「メルク、ブレン、何だかユーキ君の様子がおかしい。くれぐれも目を離すんじゃないぞ!」

「ハ、ハイ! 分かりました!」

「了解した!」


 アイバーン達が警戒していると、ユーキが自分の部屋に戻ろうとする。


「ああ、えっと……僕、そろそろネム達を呼んで来るね。まだ部屋で遊んでると思うから」

「あ、ならあたしも護衛として一緒に行くわ!」

「いや、ひ、ひとりで大丈夫だよ! もう僕は誰が相手だって絶対負けないから、ね⁉︎」

「そう? なら、ここで待ってるわ」


 ユーキが動き出すと同時に、ユーキに気取られないように一斉に後をついて行くBL隊の面々。

 ユーキが自分の部屋に入って少し経った後、部屋から出て来たのはネム、ロロ、パル、チルの4人だけだった。


「ネム! こっち!」


 隠れながら小声でネム達を呼ぶパティ。


「ユーキは?」

「もうじき式典が始まるからってネム達を呼びに来たの」

「式典までにはまだ時間があるって言ったのです。でも色々準備があるからって言われたのです」

「ユーキ姉様は着替えてから行くから、先に行っててって言われたのよ」

「分割払いなの〜」

「厄介払いなのよ!」

「やっぱり怪しいわね」


 それからしばらく様子を見ていたが、一向にユーキが部屋から出て来る気配は無かった。


「窓から逃げたんじゃないでしょうか?」

「いいえ。この城のあちこちにはあたしが毎日通いながらせっせと魔力センサーを設置してるのよ。もしユーキが窓から出たのならあたしにはすぐ分かるわ」


 しかしそれから30分程経過しても、まだ出て来ないユーキ。


「さすがに遅くないですか?」

「とっくに部屋から出てるんじゃねぇのか?」

「だ、だってあたしのセンサーには何の反応も無いのよ⁉︎」

「ユーキは今や最強の女神ニャ。パティ如きをあざむくのは造作も無いニャ」

「ぐうううう……ユーキいいっ‼︎」


 不安に襲われたパティが、耐え切れなくなって部屋に突撃する。


「ユーキ‼︎」

「ど、どうかねパティ君! ユーキ君は居るかね⁉︎」


 万が一の状況を考え、一応部屋の中を見ないようにしている男性陣。


「い、居ない……わ……ユーキがどこにも居ない‼︎」

「何だと⁉︎」


 慌てて部屋の中を見るアイバーンだったが、パティの言葉通りユーキの姿はどこにも無かった。


「しまった‼︎ 女性陣はこの部屋の中を捜索! 怪しい所が無いか徹底的に調べるんだ‼︎」

「分かったわ!」

「男性陣は全兵士を使ってリーゼル城の中を捜索!」

「分かりました!」

「みなさん、連絡はこの羽でお願いしますねぇ!」


 セラより通信用の羽を渡されたBL隊。

 それぞれがユーキの捜索に向かってしばらくした頃、ユーキの部屋のとある壁に違和感を感じるパティ。


「この壁、何か変……セラ! この壁に結界を仕掛けて!」

「それはいいんですがぁ、その壁がもしユウちゃんの魔法により作られた物ならぁ、私の魔力だけでは太刀打ちできませんよぉ⁉︎」

「なら、散って行った男性陣もみんな呼び戻して!」

「イエスマムぅ」


 そして集合したBL隊全員の魔力を使った魔法無効化の結界により、偽装された壁が消滅する。

 そしてその奥の小部屋の中には、何かの魔方陣が起動していた。


「これって……」

「ゲートニャ‼︎」

「これがゲートニャですか……」

「だからニャはいらないって……いやもういいニャ!」


 そこにあったのは、ユーキの提案により作られた、各国の主要都市間を一瞬で移動する事が出来るゲートだった。


「だが、俺はこんな所にゲートを作った覚えは無いぞ⁉︎」

「あたしもニャ」

「という事は、ユーキ君が秘密裏に作った物か?」

「でも、わざわざこんな所に隠すなんて、一体どこに繋がってるんでしょうか?」

「そんなのは入ってみれば分かるわよ‼︎ ユーキいい‼︎」


 何の躊躇もなくゲートに飛び込むパティ。


「ネムも行く〜‼︎」

「ネムが行くなら当然ロロも行くのです!」

「金魚のフンなの〜」

「間違ってはいないけど、例えが汚いのよ!」


 次々にゲートに飛び込んで行くBL隊。

 そのゲートが繋がっていた先は何と、魔法世界から見た異世界。

 かつて、ユーキが35年ものおっさん時代を過ごした世界だった。


「いや〜、さすがに35年も居たら凄く帰って来た感があるな〜。まんまと脱走に成功したけど、式典前に抜け出して来て今頃みんな怒ってるかな〜。でも、今日のイベントだけはどうしても逃す訳にはいかないんだ!」


 ユーキがやって来たのは、とある巨大なイベント会場だった。


「今日から一般公開されるゲームショー‼︎ 事前の情報では次世代機の発表があるって話だし! めっちゃ楽しみ〜‼︎」


 会場の前でテンションが上がりまくりのユーキを見た周りの男達が、次々ユーキに魅了されて行く。


「あ、あのピンク髪の娘、超可愛い‼︎」

「高校生? いや、中学生ぐらいかな?」

「ちっちゃくて可愛い〜‼︎」

「彼女にしてええ‼︎」


「ユーキ‼︎」

「ビクッ!」


 いきなり呼ばれてビクッとなるユーキだったが、それは他の者を呼ぶ声だった。


「待ってよユーキ! 置いてかないで〜!」

「ほら! 早く来いよ!」

「な、何だ、人違いか……ビックリした〜」


「ユーキ!」

「ギクッ!」

「……を出して声かけてみろよ〜!」


 今度はユーキをナンパしようかどうか悩んでいる他の参加者だった。


「紛らわしいわっ‼︎」

「ユーキいい‼︎」

「ビクビクッ! い、いやいや、さすがに3回も言われたら慣れるって」


 だが、立て続けにユーキの名を呼ぶ声が聞こえる。


「ユーキ‼︎」

「ユーキ君‼︎」

「ユーキさん‼︎」


「な、何だか知り合いの声に似てるな〜」


 自分の耳を疑い、振り返ろうとしないユーキ。


「ユウちゃん‼︎」

「ユーキ姉様‼︎」

「マスターユーキ‼︎」


「何だか呼び方までよく似てるな〜」


「マナ‼︎」

「アイリス様‼︎」


「ほら、やっぱり人違いだ。僕の名前はユーキなんだ! マナやアイリスじゃ……」


 遂に観念して逃げ出すユーキ。


「あっ! 逃げたニャ! やっぱりあれはユーキニャ‼︎」

「コラテメェ、ユーキ‼︎ 逃げんじゃねぇ‼︎」


 逃げるユーキを追いかけるBL隊。

 現世にそぐわないBL隊の格好を見て驚く、周りの人々。


「な、何だあいつら⁉︎」

「凄い格好!」

「ゲームのコスプレだろ⁉︎」

「めっちゃクオリティ高くない?」

「確かに。だけどあんな格好のキャラが出て来るゲームなんてあったかな〜?」

「完全新作のゲームじゃね? おそらく事前にどっかから情報仕入れたんだよ」

「ああ〜、多分そうだな」


 ユーキを先頭に、異様な集団が駆け抜けて行った。


「お願いだから見逃してええ‼︎」

「ダメよユーキ‼︎ 逃がさないわ‼︎」


「今日のイベントが終わるまででいいからああ‼︎」

「もうこれ以上は待てない‼︎」


「今日を逃したら僕、ずっと後悔するからああ‼︎」

「絶対に後悔なんてさせません‼︎」


「だから私と!」

「僕と!」

「俺と!」

 

「「「「「結婚してええ‼︎‼︎」 」」」」

「話変わってるだろ‼︎」



 こうして現世に戻って来たユーキ。

 そのユーキを追いかけて来た仲間達。

 次回より舞台を現世に移し、ユーキと愉快な仲間達の、新たな物語が始まる。


「いや、始まんないからああ‼︎」





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ひめてん〜姫と天使と悪魔と猫〜 こーちゃ @kocha

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