第90話 今、全ての戦いが終わる時!

 ビシッとポーズを決めて満足したジューシーエンジェルズが詠唱に入る。



『天より使わされし無垢な光』

『死の影振り払う癒しの天使』

『数多の術持ちし技の天使』

『悪なる者を打ち砕く力の天使』

『3つの光集いし時』

『彼の者を楽園へと誘わん』

『シエル‼︎』



 ジューシーエンジェルズの放った極大魔法が、ベリルの魔法にぶち当たる。

 そこからしばらくの間、魔法はお互いの間で拮抗していた。


「おお、おのれえええ‼︎」

「やあああああ‼︎」

「はあああああ‼︎」

「ぐぎぎぎぎぎ‼︎」


「な、何故だ⁉︎ いくら神であるイースの血を取り入れたからといって、たかが人間の魔力がこんなに保つ筈が無い!」

「これがユーキのエターナルマジックニャ」

「エターナルマジックニャ⁉︎」

「いやだから、ニャは付けなくていいニャア‼︎」


「ユーキさんは周りの者はおろか、自分自身が放った魔力さえもまた取り込んで循環させられるのです」

「しかも、その魔力を周りの者に分け与える事も出来るニャ」

「そして周りの者が放った魔力をまたユーキが取り込むって寸法よ」

「厄介だぜこの能力は。実際戦った俺が1番よく知ってるからな」


「そ、それでは、永遠に魔力切れを起こす事が無いというのか⁉︎ だ、だがそんな能力はイースは持っていなかった筈!」

「そりゃそうニャ。エターナルマジックはイース姉様では無く、お前が散々見下して来た人間である、マナの能力ニャ!」


「バ、バカな、人間ごときが……そんな神でさえ持ち得ない能力を持っているなど、あ、あり得ない……」

「確かに魔族である私の血がキッカケかもしれませんが、人間はそれ程の可能性を持っているのです。だから私は人間が愛おしいのです。まあ、神であるシャル様は憎たらしいだけですが」

「ひとこと多いニャアア‼︎」


(マナと言うのは確かあの時、イースを守る為にただひとり我等神に向かって来た娘か……ではイースはそんな人間の才能を見て命を? いや、違うな……イースは損得勘定で動くような方ではない。純粋に娘を助けたかったんだろう)


 どこか哀しげな表情になるベリル。


(私も……もっと素直にイースと接していれば、あの輪の中に入れたんだろうか……)


 急に力が抜けたように魔法の威力が弱まるベリル。


「チャーンス! ネム! パル! 行くよ!」

「ハイ! 行ってらっしゃいませ、ユーキ姉様!」

「ビシッと決めて来るのよ!」


 ベリルが怯んだ隙に、ネム達の魔力を背に受け黄金色に輝いたユーキが、ベリルに向かって飛翔する。


「べ〜リ〜ルううう‼︎」


 自分に向かって飛んで来るユーキを、愛おしそうな目で見つめながら手を伸ばすベリル。


「イース……」


 クルリと前方に回転しながらロッドを巨大ベリルの頭に振り下ろすユーキ。


「真っ向! 唐竹割いい‼︎」


 ロッドにより巨大ベリルの体は頭から真っ二つに割れて行き、胸の辺りに差し掛かった時、見事ベリル本体の頭にぶち当たる。

 

「いったああああっ‼︎」


 その勢いにより巨大ベリルから本体ベリルが弾き飛ばされる。

 そして本体ベリルが抜けて空になった巨大ベリルが元の天使達に戻った直後、遅れて押し寄せて来たシエルの波動により全滅する天使達。


「ぐはああああっ‼︎」

「我等天使が敗れるなどお‼︎」

「こんなバカな事がああっ‼︎」

「名前すら無いままぁ‼︎」


 ユーキのロッドにぶっ飛ばされ地上に落下したベリル。

 その近くに着地して、ジッとベリルを見つめるユーキ。


「ユーキ、今だ‼︎ トドメをさせ‼︎」

「う、うん……」


 カオスの声に歯切れの悪い返事をするユーキ。

 未だボロボロになったベリルを見つめたまま、動こうとしないユーキ。


「どうしたユーキ⁉︎ そいつが全ての元凶なんだぞ⁉︎ お前をこの世界から追放したのも、マナを撃ったのも、全てはそいつなんだぞ⁉︎」


「うん、それは分かってるんだけどね? でも僕、そのおかげで向こうの世界でいっぱい楽しい事見つけられたし、色んな体験もさせてもらった。そりゃ、結果的にはマナの周りの人達に凄く心配かけたのは申し訳なかったなって思ってるけど」


「だから許すと言うのか⁉︎ 相変わらず甘い奴だなお前は⁉︎ 人間と融合して更に甘くなったんじゃねぇのか⁉︎ 何ならもう一度戦って目を覚まさせてやろうか⁉︎」

「そうニャ! そうやって簡単に敵を許してたら読者は離れて行くニャ! 悪はちゃんとぶっ飛ばさないとみんな納得行かないニャ!」


「そんな奴はさっさとぶっ殺しゃいいんだよ‼︎ 生かしといたってまた俺達にちょっかいかけて来るだけだぜ‼︎」

「まったくニャ! これ以上厄介ごとが増える前に、息の根を止めておくに限るニャ!」


 過激な発言をするカオスと猫師匠を一喝するユーキ。


「黙らっしゃい‼︎」

「うぐっ!」

「フニャッ⁉︎」


「大人しく聞いてれば好き勝手言ってくれちゃってえ‼︎ 僕を甘いって言った⁉︎ 悪はぶっ飛ばさないとって言った⁉︎ じゃあ言わせてもらうけどね! ハッキリ言って人を殺した数ならベリルよりもカオスの方がずっと多いんだからねっ⁉︎」

「ぐっ!」


「ベリルはマナとチルの2人しか殺してないけど、カオスはシェーレの国民殆ど殺してるんだからねっ⁉︎」

「そそ、それは〜だから……ああ、後でちゃんと全員生き返らせるって言ってるじゃねぇか……」

「テトだってそう!」

「あ、あたしは人殺しなんてしてないニャ!」


「だけど僕がこっちに戻って来てから、僕の記憶が無いのをいい事に、散々僕を小馬鹿にしてくれたよねっ⁉︎」

「そ、それはそうだけど、カオスに比べたら可愛いもんニャ!」

「ふ〜ん。2人共、僕を怒らせたらどうなるか、よく知ってるよね?」

「ドキッ‼︎」

「ビクッ‼︎」


「悪は必ずぶっ飛ばさなきゃいけないって言うなら、今までの2人の悪行の分、今まとめてぶっ飛ばしてあげようか〜⁉︎」

「ヒィッ‼︎ すみません‼︎ わたくし、調子に乗っておりましたあっ‼︎」

「イース姉様が本気で怒るとこの世界が滅んじゃうニャア‼︎ 井戸より深く反省しますニャア‼︎」


「そいつらの言う通りだ。今の内にトドメを刺しておけ」


 倒れていたベリルが、体を起こしながらユーキに警告する。


「ベリルニャ⁉︎」

「それ忘れてなかったのねっ⁉︎ ……今私を仕留めておかないと、またあなたを殺しに来るぞ!」

「お⁉︎ アニメとかでよく言うセリフだね⁉︎ じゃあ僕も定番のセリフで返してあげるよ。いいよ! いつでもかかって来なよ! その時はまた僕が……いや、僕達が倒してあげるから!」


「フッ、我等の負けだな……今日の所は大人しく引き上げるとしよう」


 去ろうとするベリルがふと立ち止まる。


「も、もしも叶うならば、私も……」


 振り返りジッとユーキを見つめるベリル。


「ん?」


 だが、何かを言いかけて口をつぐむベリル。


「いや……何でも無い……」


 再び前を向くベリルにユーキが声をかける。


「コラッ! 何でも無いって言う時は絶対何かあるんだから、言ってみ?」

「……本当に……何も無いんだ……じゃあ」

「そなの?」


(今更、私もあなたと共に居たいなどと……言える訳がない……)


 イースへの密かな想いを胸に秘め、去ろうとするベリル。

 だがそんなベリルの想いを感じたのか、再びベリルに声をかけるユーキ。


「う〜ん。まあ、僕は名称に納得してる訳じゃないけど……BL隊は参加自由だから! 戦争なんかするより、みんなでワイワイ遊んでる方が絶対楽しいんだから! いつでも待ってるよ⁉︎」


 その言葉に想いが溢れて来て、目に大量の涙を浮かべるベリル。


「わ、私がそんな物に……さ、参加する訳ないだろう⁉︎」

「そっか……ああそれと、イースって言うと知らない周りの人が混乱しちゃうから、これからは僕の事はユーキって呼んでね⁉︎」


 ユーキの言葉に肩を震わせながら応えるベリル。


「き、気が、向いたらな」

「うん。じゃあまたね! ベリル」

「ま……また……」


 殆ど聞こえない程の小さな声で返事をしたベリルが、そのまま振り返る事無く去って行く。


「あっ‼︎ 忘れてたっ‼︎ ベリル‼︎」


 去ろうとしたベリルの肩に手をかけるユーキ。


「やっぱケジメは付けとかないと、君も気持ち悪いでしょ⁉︎」

「え⁉︎」


 そして、今までで1番激しい渾身のビンタをベリルの頬に炸裂させるユーキ。


「ぶふうおえあああっ‼︎‼︎ 意地でもオチは付けるんか〜いっ‼︎」




 




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