第89話 再び参上! ジューシーエンジェルズ!

 長かったベリルとの戦いも、遂に終わりの時を迎えようとしていた。

 ユーキ達に、巨大化ベリルの攻略法を教えるガイゼル。


「今のベリル殿は、我等天使100人が集まって巨大になった姿。しかし、あくまで核となるのはベリル殿です。核であるベリル殿さえ倒せば……」

「自ずと瓦解する、という訳か」

「そうです」


「でも、あんな大きな体の中から人ひとりを見つけ出すのって、結構大変じゃないですか⁉︎」

「普通に考えれば頭部か胸の辺りに居そうですけどねぇ」

「呼んだら返事してくれるかも……」

「ネムは呼んでも無視するのです」

「それはロロにだけ」

「はうっ⁉︎」


「パティの魔力探知で探せない?」

「無理ね。一応さっきからやってるけど、完全に一体化して見分けがつかないわ」

「良い案があります。シャル様を奴の口に放り込むというのはどうでしょうか?」

「ニャッ⁉︎ つまりあたしが奴の中に入り、ベリルの本体を探し出す作戦ニャ⁉︎」

「いいえ。ただシャル様が捕食される様子が見たかったので」

「ただの餌付けニャアッ‼︎」


 そしてユーキが決断を下す。


「うん、もうこれだけ人数が揃ってて力も拮抗してるなら、変に小細工をするより力押しでいいと思う」

「ふむ……確かにね。ならば各々が各部位を攻撃しつつ探し出す、でいいかね?」

「そうね。それが分かりやすくていいわ」


「よし! じゃあやろう‼︎ これが最後の戦いだ‼︎」

「銭湯大使なの〜!」

「戦闘開始なのよ!」


「ではまず私が奴の動きを止める! 皆はその後に続いてくれ!」

「分かった!」

「アイちゃん! あたしも手伝うわ〜!」


 アイバーンの元にやって来たのは、アイバーンと激闘を繰り広げたナンバージャックのヘクトルだった。


「ヘクトル⁉︎ いいのか⁉︎」

「カオス様があなた達に手を貸すと言うなら、あたしもそれに従うだけよ〜!」

「そうか……ではよろしく頼む」

「お任せ〜!」

 

「みんなはアイ君を守って!」


 ユーキ達の援護を受けながら、詠唱に入るアイバーン。



『空と海と大地から成る世界を凍てつかせ』

『体と心と魂から成る存在を凍てつかせ』

『過去と未来を紡ぐ時を凍てつかせよ』

『極寒の世界にてその身を引き裂かれ』

『極寒の息吹きにてその心を引き裂かれ』

『極寒の運命にてその魂を引き裂かれ』

『終には根の国で、ただ一輪の真紅の花となれ』

『クリムゾンロータス‼︎』



 ヘクトルの魔力補助を受けながら、奥義を放つアイバーン。

 アイバーンの奥義により両腕を凍らされるベリル。


「ぐあっ! う、動けん⁉︎」

「今の内に足を封じるんだ‼︎」

「了解ですアイバーン様‼︎」

「では俺様から行かせてもらう‼︎」


 刀を鞘に納め、ベリルの下半身の馬の前足の所に立ち、居合斬りの構えを取るブレン。



『熱き炎よ……無限に燃えさかれ‼︎ ニュークリアスフュージョン‼︎』


 ブレンが激しい炎をまとった刀を一閃すると、ベリルの右前足が膝の辺りで切断される。


「何いっ⁉︎」


 すると、切断された足が光に包まれ、元の数体の天使に戻って行く。


「天使に戻った⁉︎」


 それを見たガイゼルがユーキ達にアドバイスをする。


「放置しておけばまた復元するぞ! 今の内に倒すんだ!」

「分かった! みんな‼︎」

「僕に任せてよ!」


 いち早く反応したウーノがあっという間に天使達を倒す。


「ぐわあっ‼︎」

「バカなっ⁉︎ 人間にやられるなど⁉︎」

「あんたらの大将にはやられっぱなしだったからね。これで少しは借りを返せたよ!」


 続いて反対側の左前足の前に立ち弓を構えるメルク。


「次は僕が行きます‼︎」


 

『万を超え、億を超え』

『遥か彼方まで飛翔せよ』

『吹き荒ぶ風を超え』

『荒れ狂う波を超え 』

『どこまでも飛翔せよ』

『何者にも怯む事無く』

『何者にも臆する事無く』

『ただただその一点だけを貫け』

『那由他‼︎』



 超長距離射撃の那由他を至近距離から放つメルク。

 矢はあっさりとベリルの前足を貫いて行き、貫かれた足の部分がまた光を放ち、元の天使に戻る。


「我にお任せあれ‼︎」


 前に出たガイゼルが、天使達を次々に倒して行く。


「き、貴様はガイゼル⁉︎」

「何故、同じ天使である貴様がああ⁉︎」

「この恥さらしめええ‼︎」

「貴様等とて、同じ天使であるイース殿を抹殺しようとしているではないか! 恥さらしはお互い様だ!」


 両方の前足を破壊された為に、まともに立つ事が出来ず前のめりに倒れるベリル。


「ぐうっ! おのれええ‼︎」


 何とか体を起こそうとするベリルに追い打ちをかけるカオス。


「お疲れだろう? もう少し寝てろよ!」



『神のしもべたる人よ』

『神より与えられし無垢な魂』

『欲、欺瞞、妬み、憎しみ』

『この世のあらゆる誘惑に身を委ね』

『枷より解き放たれし、自由なる魂よ』

『その魂を黒く染め上げ、地獄へ堕ちろ』

『ヘルヘイム‼︎』


 上から叩き付けるように放ったカオスの闇魔法により、再び地面に這いつくばる格好になるベリル。


「お、おのれ悪魔めええ‼︎」


「それじゃあバランス悪いでしょ? あたしが整えてあげるわ!」


 ベリルの馬の胴体辺りの宙に位置し、詠唱を始めるパティ。


『天地を貫く裁きの光よ』

『命育む悠久の風よ』

『女神イースの名の下に』


「改宗してるニャッ⁉︎」


『風の魔道士パトリシア・ウィードが命ず』

『我が刃となりて、彼の者を土へ還せ』

『グレイヴマーカー‼︎』



 パティにより作られた巨大な十字架が、ベリルの胴を真っ二つにする。


「ぐおおおっ‼︎」

「パティお姉様! 後片付けはわたくし達にお任せを!」

「カ、カオス様の敵はあたしにとっても敵だから、手を貸すだけなんだからねっ!」

「なるほど、それがツンデレって奴だね⁉︎」

「そんなんじゃないわよ‼︎」


 切断された後ろ足部分から元に戻った天使達を倒して行くノイン、リマ、カールのナンバーズチーム。


 足の部分を完全に破壊されたベリルが倒れ込む。

 と同時にアイバーンの氷が砕け、ようやく腕が自由になるベリル。


「やっぱり足の方には居なかったわね」

「もしかしたら移動してるのかもしれませんよぉ?」

「だとしても、端から斬り落として行けばいつかは本体に辿り着くニャ」


「ぐうう……お、おのれえええ! 人間の分際でええ! 悪魔の分際でええ! 役立たずな猫神の分際でええ!」

「何であたしだけピンポイントニャアッ‼︎」


「イースの前から消えろおおお‼︎」

「え⁉︎ 今あの人、自分じゃなくてイースの前から消えろって……」

「んふふ〜。どうやら彼の動機が見えてきましたねぇ」


「はああああああ‼︎」


 ベリルが魔力を高め始めると、ベリルの体が宙に浮き、眩い光に包まれる。

 残った体で形を整え、身長10メートル程の人型に姿を変えるベリル。


「これが最後だあああ‼︎ エンジェルヘイロー‼︎」


 ベリルの背後に巨大な光の輪が現れ、その輪からユーキに向かって激しい光が降り注ぐ。


「ユウちゃん‼︎」

「マナ‼︎」


 ベリルの渾身の攻撃は、セラとレノが咄嗟に張った2重の魔法障壁により防がれた。


「何……だと⁉︎ だ、だがまだだ‼︎」


 直撃は免れたものの、ベリルの魔法は未だ威力が衰える事なく放出し続けられていた。


「セラ‼︎ レノ‼︎」

「大丈夫ですぅ‼︎」

「今の内に反撃をっ‼︎」


 ユーキ達の背後から、ベールが操るラケルが叫ぶ。


「ユーキちゃん‼︎ ネムちゃん‼︎ パル‼︎ この子達を使って‼︎」

「ラケル⁉︎」


 ラケルが瞬時に召喚したのは、パラスでウーノと戦った時に出した三大天使だった。


「よ〜っし! それじゃあネム! パル! またあれ、やろっか⁉︎」

「うん、やろう! ロロ!」

「了解なのです! 合体なのです!」


「チル! 行くのよ!」

「了解なの〜! ジュウシマツなの〜!」

「獣魔装なのよ!」


 ユーキが召喚獣ミカエルと。

 ロロと合体したネムが召喚獣ガブリエルと。

 チルと合体したパルが召喚獣ラファエルとそれぞれ獣魔装した後、また名乗りを上げながらおかしな決めポーズを取るユーキ達。


「癒しの天使! パルエンジェル‼︎」

「技の天使! ネムエンジェル‼︎」

「力の天使! ユーキエンジェル‼︎」

「「「召喚天使! ジューシーエンジェルズ‼︎」」」


 その場に居た殆どの者が固まっていたが、ただパティと猫師匠だけはジューシーエンジェルズを羨望の眼差しで見つめていた。


「カ、カッコイイ……」

「やはり名乗りは後世に残さないといけないニャ」


「わ、分かりましたからぁ、早く何とかしてくださいねぇ!」



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