第88話 みんなが並んでると、並びたくなるものだ

 ユーキを振り切って猫師匠の元にやって来たパティ。


「師匠‼︎ あたしにもユーキカプセルをっ‼︎」


 遅れて到着したユーキ。


「だから違う目的で使うのはダメだって、パティ‼︎」

「ち、違うわよ! あたしも更に強くなってユーキを助けたいだけよ!」

「うん。だったら僕の目を見て言ってね?」


「フニャ⁉︎ 残念だったニャ! たった今最後の1個を配り終えた所ニャ!」

「何ですってえええ⁉︎」

「ハハ、残念だったねパティ」

「ま、まだよ! まだ終わらないわ! 今さっき渡したとこならまだ飲んでない筈。最後のカプセルを持ってるのは誰⁉︎」

「あいつニャ!」


 猫師匠が指差した先に居たのは何と、散々ユーキに盾代わりにされた人質天使だった。


「いや誰よっ⁉︎」

「え⁉︎ 君って天使のひとりの……」

「あ、ガイゼルっス! 先程はど〜も!」

「軽いな⁉︎」


「何で敵である天使がカプセルもらってんのよ⁉︎ いやそれ以前に、天使達はみんなあいつと合体したんじゃなかったの⁉︎ 何であんたはこんなとこに居るのよ⁉︎」

「いや〜、我もそう思ったっスけどね? 何故かベリル殿の招集に集まれなくて置いてきぼりを食らったんス」


 その疑問を猫師匠が考察する。


「それはおそらくユーキの魔力のせいニャ」

「え⁉︎ 僕の?」

「そいつは盾にされてボロボロになる度にユーキに治療されてたニャ。ユーキの魔力を何度も受ける内に、ベリルの力の影響を受けなくなったと思われるニャ。そして何より、そいつ自身の心に何らかの迷いが生まれた可能性があるニャ」


「た、確かに我はイースに盾にされ治療されてを繰り返す内に、徐々にそれが快感へと……」

「あんたもドMかっ‼︎ いや、それはまあいいとしても、その変態が何でカプセルをもらってるのかって事よ⁉︎」


「いや〜、何かみんなが並んでたから我も並んでみようかな〜って」

「意味も分からずに並んでんじゃないわよっ‼︎ だったら別にあんたはいらないでしょ⁉︎ あたしはもっと強くなってユーキを守らなきゃいけないんだから、あたしによこしなさい‼︎」

「いや、今の我はもうイース殿に心奪われている! イース殿の為ならば、例え相手がベリル殿であろうとぶっ飛ばす所存!」


「キャラ、ブレまくりじゃないのよ‼︎ そんな簡単に寝返る奴信用できるかああっ‼︎ 渡しなさいい‼︎」

「断るうう‼︎」


 パティと醜い掴み合いをしていたガイゼルが、一瞬の隙を突いてカプセルを飲み込む」

「ああ〜っ‼︎ あたしとユーキの子供がああっ‼︎」

「やっぱりかっ‼︎」


 パティがカプセルの入手に失敗したのを見届けたユーキが、安心して戦闘に復帰する。


「じゃ、じゃあ僕は先に戻るから、パティも諦めて戻って来てね!」

「こ、心の傷が癒えたら戻るわ……」

「まったく! それと、ガイゼル! 僕達に力を貸してくれるって言うなら凄く嬉しいけど⁉︎」

「お任せあれ! 今の我は生まれ変わった気分でごわす! これからはユーキ殿の為に働くばってん!」

「キャラを探り探りやらないっ!」


 パティの既成事実捏造計画が失敗に終わった頃、ユーキの血液カプセルを飲んだ者達が、ベリルを相手に互角の戦いを繰り広げていた。


「ダイヤモンドダスト‼︎」

「ボルケーノ‼︎」

「サウザンドアロー‼︎」


 アイバーン達の放った魔法は、ことごとくベリルにダメージを与えていた。


「ぐおっ‼︎ バ、バカな⁉︎ ただの人間が何だその魔力は⁉︎」

「私達はユーキ君の血によって神にも匹敵する力を手に入れたのだ!」

「何だと⁉︎ 人間ごときが偉大な神の血を受けたと言うのか⁉︎ 汚らわしい‼︎ 貴様等全員皆殺しだああっ‼︎」

「そんな事は僕がさせない‼︎」


 戻って来たユーキが、ベリルの前に立ち塞がる。


「イース‼︎ あなたは神でありながら、下等な人間共に血を分け与えたと言うのか⁉︎」

「ん〜、やったのは僕じゃなくてテトだけどね。まあ僕の血でみんなが強くなったのは本当だよ」


「な、何という事だ……あなたと言う人は、かつては己の身を犠牲にして人間の小娘を助け、ようやく戻って来たかと思えば今度は人間共に己の血を分け与える……何と嘆かわしい」


「な、何だよ⁉︎ 僕がそうしたいと思ったからやっただけでしょ⁉︎ ほっといてよ! ああそれとさっきも言ったけど、今回僕の血をみんなに分けたのはテトだからね! 怒るなら僕じゃなくてテトにしてよね!」


「姉様! 可愛い妹分を売らないでほしいニャ!」


 遅れて戻って来た猫師匠がユーキに文句を言う。


「だってホントの事だも〜ん! それに、危うくこの歳で子持ちになるとこだったんだからね!」

「そ、それはパティが勝手に暴走しただけニャ。あたしの知ったこっちゃ無いニャ!」


「テトはパティの保護者でしょ⁉︎」

「あんな師匠を師匠とも思わないバカ弟子は知らないニャ!」

「誰がバカ弟子よっ‼︎」


 何とか立ち直ったパティも戻って来た。


「大体、あんなカプセル持ってたならさっさと出しなさいよね!」

「あたし達神だけで充分だと思ったニャ!」

「何が充分よ⁉︎ 師匠なんかやられてばかりじゃないの⁉︎」

「あ、あたしだって傷を負わせたニャ!」

「あんなのツバ付けときゃ治る程度のかすり傷じゃないの!」

「ニャにおうっ! 例えかすり傷でもそこからばい菌が入って死に至る事だってあるニャ‼︎」

「ああ、確かに師匠は不潔だからタチの悪い菌をいっぱい持ってそうだもんね⁉︎」

「お前ぇ‼︎ 言うに事欠いて師匠に何たる口の利き方ニャアッ‼︎」

「あたしの口が悪いのは師匠の教育の賜物よ‼︎」


「貴様等ぁ……私を無視してじゃれ合うなああっ‼︎」


 ベリルから放たれた魔法弾がユーキ達に襲いかかる。


「危ないっ‼︎ イース殿‼︎」


 咄嗟にユーキの前に立ち魔法弾を弾き飛ばしたのは、みんなと同じようにユーキの血液カプセルを飲み力の増したガイゼルだった。


「ガイゼル!」

「お怪我はありませぬか、イース殿?」

「うん、僕は平気。ありがとね」

「何の何の!」


「貴様はガイゼル⁉︎ 何故貴様は私と融合していない⁉︎ いや、それより何故貴様がイースを庇う⁉︎ 私達を裏切るつもりか⁉︎」

「裏切る、というのは少し違いますな。我はベリル殿以上にイース殿に魅了された。だからイース殿を守る事にしたのでござる」

「まだキャラが定まってないんだ?」


「それを裏切ると言うのだ‼︎ おのれイース……あなたはまたしても……やはりあなたは私の手でっ‼︎」


 全方位攻撃を放つベリル。

 しかし、最早誰一人としてダメージを受ける者は居なかった。

 ただユーキだけを除いて。


「あ、あの……イース殿? な、何故また我を盾に?」

「わあっ! ゴメン‼︎ 目の前に居たもんだからつい反射的に‼︎」

「だが、それが良い‼︎」

「良いんかいっ‼︎」






 

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