第18話

知らない場所、知らない町。

水咲は大地の後ろ姿を眺めながら付いていく。どこに行くのか告げないまま、大地は迷うことなく住宅街を進む。会話は……ない。

辺りは薄暗くなり、人気もまばらで水咲は少し不安になった。

どのくらい歩いたのか分からない。

やがて。大地の足が止まった。

「着いたよ」

そこは、小さな公園だった。

「?」

なぜ、こんな場所に連れてきたのだろう。

公園の奥に向かってさらに歩いて、とあるベンチの前まで来ると、大地がくるりと振り返る。

ベンチはたくさんあるのにわざわざここを選んだ?

「懐かしいな。ここは、ここだけはなにも変わってない」

どういう、意味だろう。

水咲は立ち尽くしたまま大地を見た。

「座って」

大地が促す。従うべきか迷っていると、

「そんな心配しなくても大丈夫だよ。ちょっと、昔話するだけだから」

意味が分からない。話をするためだけにこの公園に来た?

しかし大地は水咲が座るまで話をするつもりはないらしい。仕方なくベンチに腰を掛けた。

大地は虚空を見上げ――目を閉じた。なにかを思い更けているのか、懐かしんでいるのか。

やがて、意を決したように水咲を見る。

「君は、よく似てる」

「?」

「親子なんだから当たり前だけど」

話が、見えない。

弥生やよいさんにそっくりだ」

誰?

弥生?

どこかで、聞いたことが……あるような……

水咲の疑問を見透かしたように大地が微笑む。

「君の大切な人だよ。俺にとっても」

「私の、大切な、人――」

「そう」

記憶を懸命に手繰り寄せる。

弥生。

この名前を、水咲は知っている。

「おか、あさん……?」

「うん。そうだね」

知っているけれど、知らない。水咲の両親は水咲が物心つく前に亡くなったのだから。

なぜ?

大地は水咲の母親の名前を出したのか。

なぜ、知っているのか。

「ここは、始まりの場所だ。俺と、君の」

「なにを――」

話が見えてこない。

けれど、胸が苦しい。

「君は、笑ってた。とても無邪気に笑ってた」

大地から、目が離せない。

「暗闇にいた俺を救いだしてくれた。君と、弥生さんが」

知らない。

そんなこと、知らない。

大地とは水咲が中学の頃が初対面のはずだ。

「俺は、知ってる。君のことを知ってる」


「――水咲」




竜樹編へ続きます。

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哀恋歌(1) ~水咲編 ミヤノ @miyano38

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