私たちの長野 -post apocalypse-

@tadano35

私たちの長野

 私が住んでいる長野県は、みなさんご存知の通り、日本の首都です。

 今回は長野の特徴や施設についてみなさんにご紹介したいと思います。


 長野県民を一発で見分ける方法をご存知でしょうか? それは県歌「信濃の国」を歌ってもらうことです。

 「信濃の国」は長野県民なら全員歌える歌で、たとえ自分の誕生日を忘れても「信濃の国」を忘れることはありません。

 大袈裟だと思いますか? しかしこれは私の実体験でして、捕虜になった時に過剰投与された自白剤のために重篤な記憶障害に陥った時に唯一覚えていたのが「信濃の国」だったのです。


 いちいち歌ってもらうのは面倒、という場合は別の方法もあります。相手が女性の場合は難しいですが、右の太ももの内側を見てください。長野県民であれば全員、その場所に長野の特産品である林檎の焼印があるはずです。室町時代から伝わる邪神避けの印ですね。


 長野県は「東洋のスイス」と呼ばれることもあります。地形が山がちであること、精密機械工業が発展していること、そして全県民に軍事訓練が課せられていることが理由でしょう。たとえ冗談であっても長野県民に喧嘩をふっかけるのはオススメしません。半分の確率で殺害され、半分の確率で視力か聴力を永久に失います。長野の軍隊格闘はそういうものです。


 長野県といえば海に接していない「海無し県」の一つです。

 子供の頃は気軽に海にいけないことを悔しがったこともありました。まあ今の私は別の意味で気軽に海にいけませんけれど(笑)。

 今となってはむしろ素晴らしい立地ではないかと思うようになりました。

 なにしろ海に接していないということは、津波や高波などの海から来る災害から遠いということを意味します。

 現に三十年前に東京湾に巨大隕石が落下した際、津波によって沿岸の諸都市は大きな被害を受けました。

 押し寄せる壁のような巨大な波によって東京の高層ビル群が次々と倒れていく様は、皆さんも一度は映像で見たことがあるでしょう。

 長野は自然災害が少なく、たとえ大きな災害に見舞われたとしても、軌道降下兵の襲撃をも撃退した松代の地下シェルターは強固です。


 次に季節柄、長野の紅葉の名所を紹介しましょう。戸隠高原や上高地、それに懐古園が有名ですね。

 秋になると辺り一面が黄色、赤、オレンジ、青、ビビッドピンク、蛍光グリーン、レインボー柄と様々な色彩の葉っぱによって彩られ、しばらく見ているとそれだけでトリップ感が味わえると評判です。西日本共和国が投下した増強型中性子爆弾については業腹ですが、その放射線の影響で色彩感がぐっとサイケデリックになったのですから内戦も悪いことばかりではありません。


 秋といえば十五夜。昼は紅葉狩り、夜になれば月見というのも乙なものです。千曲市長楽寺は月見の名所として有名で、松尾芭蕉をはじめとして多くの歌人・俳人がここで月を見て詩情を湧かせたといいます。昔の月見は風流ですね。今となっては自己増殖ナノマシンの漏出と暴走によって月がのっぺりとした灰色のナノマシン塊になってしまったのが残念です。長楽寺には姥捨て山の別名もありますが、さすがにこれは昔の話。現在の長野県は死体のリサイクル率百パーセントです。


 観光地以外の長野にも触れておきましょう。長野総合病院は最先端の医療機関で、臓器移植や義肢の開発、ゾンビ治療薬の研究でトップを走ります。

 長野県民の平均寿命が日本の平均を大きく上回る四十六歳であるのも、先進医療地域の証拠といえます。かくいう私も狂化動物実験中の事故によって肉体の八割を喪失し、脳機能の四割を機械によって補っている状態です。二十年前ならあの世へ旅だっていた私を救ったのが、この長野総合病院でした。今はまだ脳と脊髄の一部がガラス容器の中で保存液に浸かって浮いているだけの私ですが、この先技術が進歩すれば、機械の体を得て海に遊びに行くこともできるようになるとのことです。


 松本市の外れには長野県唯一の空港がありますが、残念ながらほとんど離発着はありません。

 せっかく空港があるのだからもっと活用するべきだ、国内便の需要が無いなら国際便を復活させるべきではないか、という意見もあるそうですが、私は政府と同様この手の鎖国廃止論には同意できません。

 ユーラシア大陸を闊歩する推定二十二億体のゾンビのことを考えれば、安易に海外との交流を再開させるべきではないでしょう。

 南北アメリカ大陸がエイリアンの攻撃によって消滅し、アフリカが死霊と邪神が跳梁する人外魔境になり、オーストラリアでは殺人カンガルーと殺人コアラが人間狩りをしている今、日本列島に住まう三千人は人類の最後の希望なのですから。


 中には政府の発表を疑い、海外の惨状は全てデタラメだ、枢密院は大衆を情報的に隔離して支配しようとしている、などという悪辣なデマを流布する者もいます。そういう風説を聞いたら即通報、それが市民の義務ですね。


 海外は●●●●●●●●●●●●●●。●●●●●●●ということを考えれば、●●●●●●●のは明白であり、暗黒大僧正様のお導きを疑うのはナンセンスです。


 以上で終わりますが、この文章によって日本の首都、長野県についてより詳しく伝わればと思います。



                       文化統御庁 検閲済み

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