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「……まだ、いたか、そういえば」
さっきまで明るかった空間が、徐々に薄闇に包まれ始める。
リオの行使したパウェルによって強化された炎は、先ほどとうってかわって、小さなものになっていた。そして、その奥に、残された四体のウルフ。
(さすがに、この状況で四体は……)
倒せない。
リオが操れるパウェルも微々たるものだ。しかも、先ほど行使したせいですぐには使えない。
まさに、絶体絶命、というべき状況。
その刹那、ウルフが一斉に低く構えをとり――飛びかかってきた。
殺られる。
そう思った、時だった。
「とまれ」
凛とした声が、響き渡り――
ウルフたちが、リオの眼前で、見事に凍り付いていた。
文字通り、氷漬けだった。何の変哲もなかった地面から太い氷が生え伸び、飛びかかろうとしていたウルフのうち二体が凍っていた。
残りの二匹は身の危険を察知したのか、後ろに下がっている。
「危ないところだったな」
かつかつと誰かが歩み寄ってくる。
薄暗くてよく見えないが、声からして女のようだ。しかも、それほど歳ではない。自分と同じくらいかもしれない。
「大丈夫か?少年」
ゴオッと地響きにも似た音がした。
先ほどまで小さかった火が、一瞬で大きく広がった。
「う、わ――」
あわてて炎から逃れようと数歩退く。
その様子を見てか、突然現れた人物は声高く笑った。澄み切った、無邪気な笑い声だった。
「案ずるな。あの炎はわたしたちを焼かない」
そこで、リオは初めて相手の顔をまともに見た。
ゆるくウェーブのかかったショートカット。その耳で揺れるイヤリングも、髪も、瞳も、全てが赤い。息をのむほど、美しい真紅に染まっていた。
少女が目を細めてゆるりと笑う。
「とりあえず、場所を変えよう。君のその傷も手当てしなければな」
下町の少年 せせり @sesenovel
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