8
リオはぎゅっと目を瞑った。集中――する。
パウェルは精神統一とイメージするのが鍵だ。熟練したパウェラ―なら、難なく言霊だけで使いこなすことができると聞いたことがあるが、リオはその段階には程遠い。
焦ってはいけない。焦るな。集中しろ。
空気全てを左手に掻き集めてしまうような、イメージ。それをひたすら想像する。想像を、形にする――
「……火よ」
リオの一声でたいまつの火が一気に勢いを増した。
パウェルの行使に、成功したのだ。
「それっ」
間髪を入れず、前方の方にたいまつを投げ入れる。パウェルにより力を増した炎は一気に燃え広がった。
辺りが急に昼間のように明るくなる。
後方にいた敵は三体。すべて白い狼のような容姿――一般に、ウルフと呼ばれる魔物だろう。
前方のウルフたちは火が大きすぎてすぐには近づけない。多少の、時間稼ぎだ。退路を開くなら今しかない。
剣を両手で握りなおし、リオは先手を仕掛けた。三体のうち一体に斬りかかる。
「どけ!」
鮮血がぱっと散った。確かな、手ごたえ。
傷を負いながらも、ウルフは俊敏な動きで転がり臨戦態勢を取った。
「うわっ」
低く唸る声がして、リオの足に噛みつこうとまた別の一体が飛びかかってくる。間一髪、リオは飛びのいた。
ウルフは素早く俊敏だ。三体ともばらばらに動く。読めない動きだ。最初に剣で斬りつけることに成功したものの、それは不意を突いたからであって、本来動きを追うことでさえ難しい魔物であることを、リオは知っている。
低い獣特有の唸り声を発しながら、魔物は間合いを詰めてくる。
(このまま切り抜けるか?)
追いすがる獣を剣で払いながら、果たしていけるだろうか。ウルフは速い。すぐ追い着かれるのは目に見えている。
思考する間にも、攻撃の手はやまない。
「くそっ」
その攻撃を避けながら、剣を振り下ろす。
キャンッと犬を思わせるような高い声が上がり、飛びかかってきた勢いのまま地面に転がった。幸いにも、急所に当たったようだった。
(まずひとつ)
半身をひねり、後ろから飛びかかってきたウルフも続けざまに叩き斬る。
こちらは急所を外したようで、すぐに跳ね起き、反撃してきた。
――同時に、もう一体のウルフが飛びかかってくるのが、視界の隅に見えた。
(まずい)
一瞬、動揺した。それが、よくなかった。
負傷したウルフが隙ありとばかりに右腕に噛みついてくる。
「……っ……!」
痛みに耐えつつ、素早く剣を切り返す。
高い声がして、ウルフが後ろに跳んだ。腕に噛みついたウルフも同時に一旦退いた。
ちらりと右腕に目をやる。くっきりと刻まれた牙の痕から、大量の血が溢れ出していた。
(傷が、深い)
思った以上の怪我だ。このまま血を流せば危ない状態になるのは目に見えている。
(引き返さないと)
右腕の痛みなど気にしていられない。
すぐさま残りのウルフたちに斬りかかる。二体ともリオの太刀を受けた後とあって、動きが鈍っていたので捉えるのは簡単だった。
「……はぁっ、はぁっ」
息があがる。たったこれだけの動きで。
ともかく、敵は始末した。ここは一旦、引き返す。そう思い、踵を返して歩き始めた――その時。
低い、地を這うような、音がした。
否――声だ。
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