たいまつの炎がゆらゆら、頼りなさげに揺れる。

 リオは左手でたいまつを高く掲げつつ、右手で剣を持って移動しなければならなかった。いつ魔物がきてもおかしくはない。神経を集中させて、ゆっくり歩く。もちろん、足音はなるだけたてないように細心の注意を払って。

(……こっちだ)

 より、パウェルの気が強い方に歩みを進めていく。

 パウェルは目には見えないけれど、ある種の圧迫感がある。肌をちくちくと刺すような、そんな感覚だとリオ自身は思っている。その感覚が、リオを確実に蝕んでいく。

 こっちに、何かがある。そんな予感がする。

 ――と、その時、音がした。

 複数の軽い足音。低いうなり声。

 ぴたりと足を止める。

 ――敵が、近い。

 軽い足音。軽すぎる。明らかに、人のそれではない。

(……来た)

 剣を握る手に、ぐっと力を込める。さっと周囲に目を走らせた。

 奥に広がる濃い闇の中に、黄色い、つぶらな光を見つける。複数の光――否、目。

 光の数は八つ。つまり、標的は四体だ。

 一対四。少々、分が悪い。

 ――引き下がるべきか?

 数歩うしろへ下がったところへ、やっと気が付いた。

 後ろにも、複数の魔物の気配がする。

(しまった……!)

 パウェルの気を追うのに夢中で、注意力が散漫になっていた。

 囲まれてしまった、のだ。

 状況としてはかなり最悪だった。今、リオは一人だ。しかもそれほど戦闘に慣れているわけでもない。

 敵は複数。しかも、退路は断たれている。逃げ道はない。

 これでは依頼の魔物討伐をこなすどころか、此方が大怪我を負ってしまう可能性が高い。

 ――それでも、やらなければならない。

(まずは退路)

 最悪の状況の回避のために、退路の確保は絶対条件である。

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