不思議の今治のアリス

にゃべ♪

迷い込んだアリス

「うわぁぁぁぁ~っ!」


 私の名前はアリス。うさぎを追いかけていたら次元の穴に落っこちちゃった。この穴はどこに繋がっているか分からないの。

 どうか変な場所に落ちませんように。


「ここ……は?」


 気がついたら私、どこか知らない場所にいた。周りを見渡すと豊かな自然の景色が目に入る。ハッキリ言って田舎ね。視界に映るのは空と山と海、そして無数の島々と島を繋ぐ大きな橋……あれ?この風景、前に何処かで見たような?


「ここは今治だよアリス」


「いま……ばり……?」


 急に声がしたと思ったら、そこにいたのは私をここに追い込んだうさぎだった。彼は悪びれもせずに私に現在地の説明をする。そんなピンポイントで言われても分からないよ。


「ほら、あそこに大きな橋が見えるだろ?あれは来島海峡大橋と言って世界初の3連吊り橋なんだ。日本の技術の集大成だよ」


「へぇぇ~」


 うさぎの橋の説明に私は感心する。言われてみればその橋はとても大きくて立派だった。彼の説明は続く。


「後、この橋は瀬戸内海の島と島を複数の橋で繋いでいて、一連の道をしまなみ海道って名前で呼んでいるんだ」


 そうだ、しまなみ海道!前にニュースか何かで聞いた事があったよ。知っている事柄が出て来た私はつい口に出していた。


「あ、聞いた事ある!確か橋の上を自転車で渡れるんだよね」


「そう、自転車乗りにはちょっと名前が知られている場所でもあるんだ」


 この話を聞いて私は自転車で橋の上を走る様子を想像する。


「海の上を自転車で走るって気持ちいいんだろうね~」


「自転車で走れるので分かる通り、徒歩でも渡れるんだけどね」


 うさぎはどこで得た知識なのかドヤ顔で説明を続けていた。きっと話したくて仕方ないんだろうな。

 あれ?でも何か肝心な事を忘れているような……?今一番知りたい事は……あっ!


「って言うか!なんで私達がその今治って場所にいるの?」


「次元が繋がっちゃったんだ。よくある事だようん」


 私の質問にうさぎはケロッとそう答える。よくある事って……。


「私、帰りたいんだけど」


「まぁまぁ、折角来たんだから楽しもうよ。いいところだよここは」


 すぐに帰りたい私に対して、うさぎはそう言っていたずらっぽく笑う。そうだ、こいつはこう言う性格だった。私は頭を手で抑えてため息を漏らす。

 多分私ひとりで元の世界に戻る事は出来ない。仕方なく私はこの彼の脳天気に付き合ってやる事にした。


 うさぎは早速ここから近いからと言う事で、私をもっと橋がよく見える景色のいい場所へと連れて行く。


「と、言う訳でここが糸山公園なんだけど見て、この景色!」


「うわ~橋と小さな島がいっぱい!あ、灯台もある。灯台も小さくて可愛いね」


「この海と島にはそれぞれ歴史があってね、昔は村上水軍って言う海賊が大活躍してたんだよ」


「海賊って悪者なんじゃないの?」


「海賊って言うけど傭兵集団みたいなところもあるんだ。色んな武勇伝が残っていて、地元にはその末裔が多く住んでいるんだよ。それとこの海は潮の流れが激しくて普通の船はまともに渡れない。その水先案内をするのも彼らの仕事のひとつだったんだ」


「ふーん、何だか私の思ってる海賊のイメージと違うな」


 私の海賊のイメージって普通の船を襲う盗賊の海版って感じだったけれど、瀬戸内の海賊は組織化されていて色んな事をしていたんだ。面白いな。


「そう言う組織が生まれたのもこの海が特殊な海域だからだったのかもね。来島海峡は鳴門海峡、関門海峡と並んで日本三大急潮流のひとつなんだ。それだけ船の航行が難しいんだよ」


「そう言うのって、上から眺めているだけじゃ分からないね」


 私は糸山公園から瀬戸内の景色を見下ろしながら感想を述べた。公園から見えるこの海の景色はどこかのんびりしていて平和そのものだ。

 そんなのんびりとした風景なのに海の上では激しい潮流が船を翻弄していたなんて……。私が感慨にふけっていると、うさぎはまだ話し足りないのか更に解説を続けていた。


「この海域は潮の流れの向きによって航行する海域を変更しなくちゃいけないんだけど、そう言う海域は世界でも来島海峡だけなんだよ」


「やけに詳しいじゃないの」


「ま、まぁそのくらい……常識だから……」


「本当にぃ~?」


 私の突っ込みにうさぎは目を泳がせる。こいつ、絶対カンペ的なものを見ながら話をしているよ。正直に話せばいいのに。見栄っ張りなんだから。

 場が持たなくなったうさぎは話題を変えようと焦りながら私に話しかける。


「つ、次行くよ!」


 その後、私達はタオル美術館を見物して昼ご飯には焼豚玉子飯を食べ、その後は今治城を堪能してとすっかり今治を満喫したのだった。

 折角今治に来たのだからと私は何か買って帰ろうとお店を物色する。


「ぬいぐるみ、おみやげに買って帰ろうっと……はッ!」


「どうしたの?」


 バリィさんぬいぐるみを買って浮かれていた私だったけど、ここで重大な事を思い出した。うさぎは相変わらずの態度で危機感すら持っていない。

 脳天気な彼に私はちょっとイラッとしながら強い口調で言い放った。


「帰り方だよ!どうやったら帰れるの!うさぎは何か知ってるの?」


「ふふ……知りたかったら僕を捕まえてごらん~!」


「あーっ!待てーッ!」


 うさぎはやっと気付いたかと言う顔をしてピューッと逃げていく。無我夢中で追いかけると、やがて彼の周りに次元の穴が広がり始めた。その穴はいつの間にか私を包み込んで――そして――。


「あれ……何だ夢か」


 気がつくと私は自分の部屋のベッドの上にいた。どうやら長い夢を見ていたような……そんな気がする。寝起きでぼやけた意識のまま、私はさっきまでの体験を反芻した。


「でも今治かぁ~。結構魅力的な街だったな。いつか行ってみたいな」


 そう言った私の側にはバリィさんぬいぐるみが転がっているのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不思議の今治のアリス にゃべ♪ @nyabech2016

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ