第2部

EP:1「始まりの序曲《プレリュード》」

ぼくこと榊原七緒さかきばらなお(本当の字は『なお』と書くのだけど、妹の優が漢字を変えたほうが良いと提案したので、女性の字に近い『七緒』とすることになった。)は、その日、一人の天使の少女と出会った。


その女性の名前は愛紗アイシャ・ユースティア・インヴィディアと言い、僕は『愛紗』さんと呼んだ。

最初の出会いは本当に偶然だった。

僕がその日(日曜日)に、たった一人の僕の家族(両親は僕らを捨てて愛人の相手と共に消えたので知らない。興味もないし今後関わらないでほしいと思っている。)である妹の『ゆう』の御願いを聞き入れ買い物に出掛けていた。

妹の優はかなりの引き籠り気味で普段は家から出る事がない。仕方なしに通う学院(と言っても殆ど通学していないけど)や必要時のみしか出たがらない。

だから買い物なんかも優は殆ど外には出掛けないで、通販を主に利用している。

ただその日は通販では手に入らずお店限定と言う事だった。

だから僕が優の代わりに買い物に出掛ける事になった。

僕は別に嫌々と言う訳は無く、、単純に買い物とかは好きだし、優の引き籠りがちなのは少し気にしているけど、嫌な事を無理やり押し付けても良い事はない、と思っているので快く買い物も受け入れた。


そして頼まれ物を無事購入しお店を出てあとは家に帰るのみ。

家までの帰路の途中で僕は不思議な少女(愛紗さんの事)の姿が目に入った。

一目見た感想は『綺麗でどこか人間離れした雰囲気を持った人だな』だった。

日本人では殆ど見られないロングストレートの銀色の髪に、真紅の色の瞳、少なくともコスプレを趣味とする人以外ではまず日常において着る人はいないであろうドレスを着ていた。

そして不思議だったのはそんな風変わりな彼女の姿に周囲の人は驚きと言うか興味を向けていなかった。普通なら可笑しいと思う。でも彼女を気にする人はいなかった。

まあそれは彼女が人とは異なる者で、一般の人には認識する事は出来ないからだったけど。


そしてなぜか僕は彼女の姿を知覚することが出来た。

どうしてかは僕にも解らない。彼女…愛紗さんにもどうしてかは解らなかった様で驚いていたな。


僕には愛紗さんの姿が目に入っており、あとで知ったのだけど、『天使』である彼女は存在するモノに自分の意思を持つ事で触れる事が出来るらしい。だから『天使』である彼女は走って来る車があっても自分が触れると意思を持たなければ当たる事もないのだと言う。しかも彼女の存在は一般の、普通の人間には認識出来ないので相手の驚愕させる事もない。

そう――驚愕したりする事はないはず、だった。


彼女の事を認識できる僕と言う存在以外は。


人外である彼女には交通ルールはないに等しかった。

当たらないので事故にもならない。だから彼女は気にすることもなく赤信号であろうが、自分に向かて車が迫って来ようが関係ない。

気にすることもなく歩いていた。


でも僕には違った。

一人の恐らく外国出身の女の子が信号を無視し気にした風もなく歩いている場面。

そして彼女に迫るスピードを出した状態の車の存在。

その場面の光景に咄嗟に僕は彼女に向かって「危ない!」と叫んでいた。

彼女もまさか不可視の認識されないはずの自分に僕に声を掛けられ「ありえない、どうして?」とその時は思い驚いていたみたい。

あとで彼女と言う存在を聞いて愛紗さんが驚くのも仕方ないかったんだなと思えた。

あと、何もないはずの場所に向かていきなり切羽詰まった叫びをあげた僕をその時近くにいた人たちから変な子だと思われたようだ。


迫る車。

僕に声を掛けられその場に硬直している彼女。

僕の体は、助けなきゃ、と言う思いで咄嗟に動いた。

そして僕は結果的には「自分から錯乱したかのように車の前に飛び出し車に轢かれた」の様になった。

僕は彼女を安全な場所に突き飛ばして安堵した。

そして僕の体に強烈な衝撃が襲った。

そして薄れ行く意識の中。

周囲の叫びも微かに聴こえていた気がするけど、僕の死の前の意識は『彼女』の髪と同じ人にはない神秘的で思わず美しいと感じさせられた二対の翼が見えた。


そして、そこまでが僕の意識の最後だった。


正直その時は僕は死ぬんだな。

妹を残して死ぬのは嫌だな。

そんな事を考えていた気がする。


まあ結果だけで言えば、僕は死ぬ事はなかった。

彼女の―愛紗さんのお陰で助かる事が出来た。

なんでも『天使』にだけ起こせる『奇跡』と呼ぶ神秘を使い僕を助けてくれたみたいだった。

命を救ってくれた事にはすごく感謝したい。

もっとも、彼女の存在を僕が認識をする事もなければ、僕があんなことに巻き込まれることはなかったわけだけども……。


感謝したい気持ちは本当だよ。

死ぬかもと思ったけどこうして生きているのは良かった。

ただ……一つ困って事が起きた。


それは――


僕を愛紗さんが『奇跡』を使って助ける際に、僕の肉体を修復する際に、僕の体を女の子として修復してしまったのです。

いや、その原因は僕にもあるし、そもそもの原因は妹の困った癖のせいでもあるのだから彼女を強く責められない。

まあ気付いた時には、僕を「似合ってるからいいじゃない」と愛紗さんに言われ思わず子供みたいに「馬鹿!」と言い合った。


妹の趣味。それが僕が女の子になるそもそもの原因と言うか要因でした。

妹の趣味は僕を女装させる事で、僕が困る顔を見たいと言うものでした。

そしてその日の格好も優によって女性服を着ていた。

元々身長も同年代の男子の中では低めで、顔もどちらかと言えば女顔で、優曰く「可愛いです」だと。髪も僕は切って短くしたかったけど優がどうしても駄目と強く言い出したので断念した。『兄さんが髪を切るのでしたら私も丸坊主にします!』とまじで言われた。

だから今の僕の髪は男子しては長い。腰くらいの長さの男性はそんなに見ないと思うな。

身体つきも細身であまり脂肪の付かない体質らしかった。見た目はヒョロイと自分でも思う。

女性化した際に優が用意したパッドが『奇跡』によってそのまま僕の胸の大きさとして宛がわれたみたいだ。


ある程度の事情を愛紗さんから説明を受けた後、彼女を連れて家に戻った。

その時に聞いたけど少し時間にも影響したらしく、僕はあの時間に事故にはあっていない事になったらしい。

そして家に戻ったら既に優は把握していたらしく開口一番に『姉さん』と呼んだ。

また盗聴器でも仕込んでいたのかな?困った妹ですね、まったく…

困った妹ですけど、僕は優を嫌っていないよ。

だってたった一人の家族ですから。

大切な家族の御願いだから少しくらいの無茶は聞いてあげたいなと思っている。

ただ女装は……と思っていたけど、僕は。


優と愛紗さんとの対話は揉める事なく終わった。

僕が元の男に戻るには最低でも1年掛かるとの事。

だから今後は女性として生活する事になる。

学園も変わる事になる。いままで通っていたのは男子校だったからそのままは流石に無理だ。

今後は優の提案により名前の読みはそのままに漢字を変え、優の現在通っている女子校に転入と言う形で入る事になる。

とりあえず優が明日編入試験を受けられるように整えてくれた。そして一緒に付いて来てくれるとの事。

…あと、僕は兄妹として好意を持っていたけど、優は違い僕を異性として見ていると告白されもした。



そして対話を終えた後、愛紗さんは『誰か』に呼ばれて故郷に戻っていった。

何となく僕はまた彼女に逢う気がした。

因みに優には『天使』を認識出来ないみたいでした。愛紗さんが認識出来るようにしていたからです。愛紗さんを呼んだ声は優には聴こえず、僕は聴くことが出来た。


どうしてかは分からない。

僕はただの普通の人間のはず。

家事が得意なだけのはずなのに。




色んな事が起きた濃い一日。

この先も色んな出来事に会う気がする。

一先ずは明日の編入試験だ。

学力は問題ないと思うのだけど兎に角頑張ろー!




……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕と天使の彼女~どうしてぇ僕が女の子にィ!? 光山都 @kouyamato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ