Ep:8「フロ風呂~」


着替えを手に僕は脱衣室にやってきた。

先程の下着や衣類に関してのアレコレもあり僕は、「はぁ」と溜息を付く。

一枚、一枚と服を脱いでいく。


「………」


今の僕の姿は下着を纏っただけになった。

僕はジッと脱衣場にある鏡に目を向ける。そこには僕が映っている。

女の身体になった僕の姿が。


「…本当に女の子になったんだ」


しみじみと言った感じに声が出る。

優や僕の友人からは環境適応能力が高いと言われたりした僕だけど、流石にこれは慣れ切るのは難しいと思う。

なにせ性別という壁を超えてしまったのだ。

優に御願いされてしていた女装と訳が違う。


「………意外と僕って…大きいのかな」


鏡に映る自分の胸に目が行く。ブラに包まれた僕の胸。

計ってみないと分からないけど、優の女装装備の用意した胸パットと同じくらいかなと思う。

たしかあれはCカップだったように思う。

一般的に普通くらいかなと思うけど、身近にいる異性は優くらいだ。

数年前くらいまで親しかった女の子が一人いたけど。

今ではほとんど交流もない状態だった。

風の噂でその子は女子高に進学したとか耳にした。

自分も男子校に進学したので会う機会もなかった。


「はぁ……うん、気にしても仕方ない!どうしようもない事なんだ受け入れればいいんだ、そうだ僕!」


そう自分に言い聞かせるように、納得させようとする。

気持ちを切り替えると僕は最後にブラとショーツを脱ぎ洗濯籠に入れると、そのまま風呂場内にいそいそと入った。

うん。気持ちを切り替えても、納得させようとしたけど……やっぱり恥ずかしい気持ちが強かった。

いくら自分の体だからってやはり直ぐは無理だった。

自分では大きいかなと思う二つの胸に、元々筋肉質でも余計な贅肉も付いておらず括れのある腰つき。そして―――女の子の大事な部分に。

仕方ないんだよ!だって今まで男だったんだから!

顔を赤くしながらこの火照りを鎮めるためにと温かいシャワーを頭からザァーと浴びた。

そしてある程度落ち付いた頃に湯船に浸かった。


「はぁあぁ~いい湯だなぁ~♪」


温かい湯に肩まで浸かると、思わずおじさん臭い言葉が出る。

鼻歌を歌うくらい気持ち良い。

何だか先ほどまで葛藤し真っ赤に悶えいたのが嘘の様である。

この辺が適応能力が高いと言われる所以だろうかな、と湯につかりながら思うのだった。


「♪~」


体の芯まで温まりつつ目を閉じフフン♪と鼻歌を歌っていると、脱衣室の方から音がした。

扉の音が開いた音と閉まる音。

どうやら優が来たみたいだ。


風呂場の硝子扉に優の影が見える。

その影は服を脱いでいるのだろう。

少しずつ肌色成分が多くなる。

ん?特に動揺はしてないよ?

だって――いつも一緒に入ってるから。それに妹だから。


「姉さん、入りますね」


そう言って入ってきた産まれた姿の妹優。

入ってきた優は軽く掛け湯をした後僕が入ってる浴槽に入ってくる。

そして2人に増えた事で流れるお湯。


「はぁ~いい湯ですね、姉さん~」


僕の背に預ける様に安心したようにお湯に浸かりまったりとなる優。

この家のお風呂は大き目に出来ており二人くらいなら問題なく入浴できるのだ。

昔の優はその天才的頭脳を活かした事に没頭して自生活において忘れている程だった。

食事とかトイレ、もちろん入浴とかもだ。


流石に心配だった僕は、唯一僕の言葉には耳を傾けてくれるので、根を詰め過ぎない様にと食事を共にし、トイレも付き添った。無論中には入らないよ。外で待っているだけだ。

……だってほっとくとトイレの中で延々と考え事に浸ってしまうんだから。

だからこうしてお風呂も一緒に入っているのだ。


2人仲良く湯に浸かる。

2人仲良くお互いの身体を洗いあう。

…無論前は自分で洗っていたよ!?……僕は…。

最後にもう一度湯に浸かり直し上がる。

そんな感じにいつもを行う。


「ね、ねえ」

「ん?どうしたの優?」


お湯から上がった後身体を拭いているとジーと僕を見詰めながら表情に乏しいとよく言われる優が何やら聞いてきた。

僕は長い髪を拭きながら聞き返す。

長い髪って大変だなって思う。乾くのに時間が掛かるし。


「…一つ姉さんにお願いがあるのですが」

「……なに、かな」


何やら嫌な予感がする。

優に関してはこう言った時に感じた予感は大抵困りごとが多い。

女装然り。

僕は一歩半下がり気味になりつつ警戒しつつ聞く。


「どうして下がるのです?姉さん?」

「どうもしないよ!?…あの、優?…どうして両手をワキワキしながら僕に近付くのかな?」

「それは私の御願いに必要だからです♪」


どこか悪戯っ子のような表情をしながら優は僕のある場所を目指してその両手をワキワキとさせながら両腕で自分の胸を隠す様にしている僕に近付く。

その行動に嫌な予感が確実だと、そして僕は優の御願いを断れない。


「さぁ姉さん…その実っている胸を、私に揉ませて下さい」

「や、やっぱりそうなんだぁ!……って、自分の胸を揉んだらいいじゃないか!」


優の胸は確かに小さいサイズだけど無いわけじゃない。だから自分のをと、そう優に返した。

優の動きがぴくっと止まる。そして顔を下向けにし表情を隠した。

「ふふっ」と背筋が強張る様な寒気を齎す笑い声が優から零れる。

それになんだかユラユラと優の背に何かを恐ろしい何かが背負っている様に見える!?

ああ、どうやら僕は優を怒らせてしまったようだ。

僕は只々震えて動けなくなっていた。


「ゆ、優?」

「ふふふっ、流石は持つ者と言う事でしょうか…持つ者は持たざる者の心意を汲み取れないものです。ふふふっ、まさか姉さんまでもがとは、フフフッ、これは罰が必要ですね…」


ああ、と怯える僕に満面の恐怖のある笑みを向ける優。

どうやら僕は触れてはいけない地雷を踏んでしまったみたいだ。

男の時から一緒に入浴したりと僕に肌を見られても気にしていないと思っていたのだけど、どうやら優なりに気にしていたみたいだ。


「では、姉さん…覚悟はいいですねぇ!」

「あぁああ、ごめんなさぁいっ!!?」


まあそんな感じで僕の叫びの後、優の罰を受ける事になった。

うゥ…たくさん揉まれたぁ…うゥ…

お嫁に行く気はないけど行けないよぉ~


とまあそんな風に慌しく非日常な出来事が盛れ沢山の1日が過ぎて行った。

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