ココイコッ!―神戸に纏わるエトセトラ―

綾部 響

北野異人館―南京町―メリケンパーク

 緩やかーな坂に、おおよそ日本らしくない建物が建ち並んでる。

 俺と利伽りか、ビャクとよもぎは兵庫県神戸市の北側にある山の手でひっそりと佇んでる「北野神社」へ、ばあちゃんの用事で来てたんや。

 すぐ近くにある「北野天満神社」と違って、ここは知る人も殆どおらん隠れた神社や。それもその筈、ここはこの地の「霊穴」を封じてる場所。あんましあまり大っぴらに知られらてたらそれこそ問題や。

 

 

 

「タツ、ターツーッ!ここ、ここ入ってみよーやっ!」

 

 帰りがてら立ち寄った「北野異人館」。そこで利伽は、いつもには見せん子供見たいな笑顔でハシャギまくってる。

 

「タッちゃーんっ!はよはやく来ーやーっおいでよーっ!」

 

「……龍彦……置いていきますよ……」

 

 付いてきたビャクと蓬もどこか楽しそうで、あちこち回りたくて仕方ないって感じや。

 異人館ゆーだけというだけあって、なんやオシャレで小綺麗な建物が軒を連ねてる。

 白い洋館建築が目につくなかで、この「風見鶏の館」だけは赤レンガで作られててごっついすごく目立ってる。中は当時の生活様式やら使われてた歴史ある品々やら。基本的に観光ってのに疎い俺でも、雰囲気に当てられたんか興味深く見て回ることが出来た。

 他にも美しい色とりどりのガラス彫刻やらアート作品を展示してる「北野ガラス館」や、その名の通り多数の美術品を展示してる「北野美術館」、至るところにはオシャレなブティックやら土産物屋やら飲食店が建ち並んでる。そのどれもがこの景観を崩さんように作られてる所を見ると、ここも京都に負けず劣らずの古都やなーと感じさせられた。まー、歴史は全然違うけどな。

 雲一つない澄みきった青空に、白い洋館の姿は良く映えてた。

 

「何かお腹空いたなー」

 

 午前中から北野異人館周辺を散策して、気づいたら昼を回ってた。途中でスィーツやら何やら飲み食いしてたからあんましあまり気付かんかったわ。

 

「そしたら昼飯にでもしよーかー」

 

 俺の提案に、3人とも大きく頷いて同意した。

 

「なぁー、ここで食うんたべるの?」

 

 そう溢したビャクには、何やなにやら副案があるみたいやった。

 

「ここまで来たんやったら、南京町行こうや!」

 

 確かにここから南京町まではそう遠くない。俺もどうせやったら、南京町で旨い中華を食いたいと思った。

 利伽と蓬も賛成みたいで異論は出んかった。

 

 

 

 

「ここが南京町の入り口かー……」

 

 中華風の大鳥居を前に、俺達はそれを見上げて感嘆の声を上げてた。ここは日本のはずやのに、その一角だけ見たらまるで映画にでも出てきそうな一昔前の中国や。しかしこの神戸っちゅー街は、至る所に異国情緒が溢れてんのー……。

 

「ささ、何か食べよ!」

 

 ウキウキ顔で鳥居を潜った利伽に、ビャクと蓬もワクワク顔で付いていく。全く、色気より食い気ってのはこの事やな。

 俺達は豪華そうな中華料理屋で、やや奮発したランチセットを注文した。

 流石は中華街にある中華料理店!炒飯一つとっても、おかんおかあさんの作る焼き飯とは似ても似つかんな!

 酢豚や拉麺も微妙にいつもの味付けと違って、十分満足出来た。食後に食べたゴマ団子がまた絶品やったな。

 

「これからどうするー?」

 

 食欲を満たした利伽が、これからの予定を確認してきた。特に用事もないし、このまま帰ってもえーねんけどいいんだが、折角神戸くんだりまで来たんやからもう少し他も見て回りたい気持ちはあった。

 

「じゃーあそこ行こか。メリケンパーク」

 

 定番と言えば定番や。神戸に来たらメリケンパーク、ハーバーランドに行かなあかん!見たいな感じになってるんや。まーもっとも、俺も行ったことは無いけどな。

 

「あー!行ってみたい!」

 

 ことの他乗り気な利伽の賛成もあって、俺らはメリケンパークに行く事にした。

 

 

 

 

 メリケンパーク自体は、一つのショッピングモールみたいなもんや。

 色んな施設が入った建物に、小綺麗で美味しそうな食べ物屋が軒を連ねてる。中には小さいけど遊園地っぽい区画もある。

 けどここの一番売りにしてるのは……夜景や。

 港に面した建物であるハーバーランドは、夜になると他とは少し違う雰囲気を醸し出すんや。

 

「夜のハーバーランドも綺麗やねー……」

 

 利伽が海風を受けながら、既に赤暗くなってる空と海に目を向けて呟いた。

 

「ちゃうでー利伽。ここがハーバーランドの真骨頂やないでー」

 

 俺は利伽の手を引いて、港を隔てたハーバーランドの向かいにやってきた。

 

「う……わぁー……」

 

「綺麗な景色だニャー……」

 

「ええ……本当に綺麗……」

 

 女性陣は3人とも、感嘆の声をあげて魅入ってる。そーゆーそういう俺も、初めて見た夜景に声を失ってた。

 これは雑誌で見知った事やったから俺も半信半疑やったけど、この美しさは間違いなかった。

 

 きらびやかなネオンが、空と海の黒に映えて一層美しい。暗がりから見る華やかな灯りは、よりその存在感を際立たせて闇夜に浮かんでるんや。

 夜景と言えば高いところから見る、それこそ六甲山の夜景が有名やけど、この夜景はそれとは少し違った良さがあった。……まー六甲山の夜景も直に見たことないけどな。

 

 

 

 

「綺麗やったねー……また来ような」

 

 帰り道、利伽がまだ熱に浮かれてるような表情で呟いた。

 今度は二人で……なんて言いたいけど……。

 

うちもっ!わたしもっ!うちも行きたいっ!」

 

「……もう一度見たい……ですね……」

 

 それは当分、無理っぽいな……。

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