旅の楽しみ方は人それぞれだ。私も本作の主人公と同じように、知らない町でランドマークに目もくれず、さも地元の人間です、といった顔をして歩くことがある。これが、思いのほか楽しいのだ。観光客が見向きもしないであろう、その地に住む人々の暮らしを眺めるのは単なる観光とは違った趣がある。だが、わからない人にはわからないだろう、とも思うのだ。それもまた、自分だけの旅の醍醐味である。
ってなるのですごい分かります(そこ!?)。手宮線のなんていうか街に埋没するあり方はいいですよねぇ。つい見に行ってしまいます。実は小樽はさんざ歩いてたんですが、文学館はこの間はじめて足を踏み入れて(だいたい「あまとう」で足止めを食らう)、なかなか良い空間であるなと思ったので、すごいなんか追体験がありました。運河とガラスだけの街ではないことが再認識され、大変いい空気の作品でした。
地元ではないが、行きつけの場所に対する郷土愛の擬き物には、僕も覚えがある。文字の端々に己れが地元民でないことを主張しながら、しかし、文章から感じられるのは、行きつけの場所を誇り、そこを愛する己れを誇る深い思いだ。郷土愛より穏やかで慎ましやかで、柔らかく包み込むような感情。あぁ、此れが恋というものだ。僕は、小樽に恋をしてしまったのか。ならば、僕も祈ろうか。【彼女】の恋が届くようにと。