時間を忘れた岬の家に住む、名も無く孤独な女。その不可思議な数日。

 不思議に引き込まれる作品。世界観がしっかりとしているからだろう。この、ほんの少しの不思議さがアクセントになった世界に浸っていたいと思わせるものがあった。

 外界の描写はあれども、建物内部や人物の細やかな外見などは省かれ、そのことが全体の透明感を高めているようだ。文意明瞭にしっかりした文を書けないと、こういう描き方ではスカスカで空疎なものになってしまうが、本作ではそんなことはなかった。

 色彩を取り戻した世界に映える曼珠沙華が、印象に残る。


 段落頭の一字下げがあったりなかったりなのは、ご愛敬。