敬具

 何も変わらない。

 全く変わらない。

 

 新学期、クリーニングで綺麗に整えられた清潔感のあるYシャツの着心地が悪くて、雑に着崩し、いつもの屋上に寝ころんだ。

 地上からは、生徒たちの声がざわざわと聞こえてきているが、屋上は、隔離された上界のように静かだ。

 今日は、9月1日――歴史的な出来事の次の日だ。それで、ジャンプの発売日でもある。

 僕は、登校前に買ったジャンプのページをペラペラとめくりながら、彼女を待っていた。

 空は、快晴だった。水に溶かしたような澄んだ青は、雲の白と混ざることなくキャンバスを染め上げていて、そこに太陽のアクセントが加わる。

 その時、夏風が、彼女を運んできた。ぎぃぃぃ、と不快感のある音と共に屋上の扉が開かれる。

 扉は、僕の後ろにあるから誰が来たのかはわからない。

 だから、ジャンプの適当なページを開いて顔に被せた。インクとわら半紙の独特な匂いが鼻をくすぐる。


「世界の終わりって意外とあっさりしてるでしょ? これって、みんなが望んでいるからなんだよ」


 僕は、昨日の5分前を思い出した。

 鼻をくすぐっているインクとわら半紙の匂いが、僕の脳内で、世界の終わりを描いていく。でも、どれもハッピーエンドで終わるから、最後は、インクを壮大に溢してゴミ箱へ投げ入れた。

 今日も、また、来るはずもない世界の終末を遠くで思いながら、僕は、授業をサボる。

 1時間目の開始、5分前のチャイムが世界に鳴り響いた。

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拝啓、世界の終わり【完結】 成瀬なる @naruse

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