第6話
「こい小童!!その身を獣に変えてくれるわ!!」
「タオ〜〜〜ッ!!!」
ゴリアテが口上を述べると、力太郎がタオの名を叫びながら金棒を振り下ろし、ゴリアテは自身の獲物である大斧でそれを迎え撃つ。激しい火花が散り、かたや金棒はくの字に折れ曲り、かたや大斧は刃がボロボロに砕け散った。即座に二人は迷いなく獲物を投げ捨てた。
さらにゴリアテは左腕に装着していた盾を放り捨て、全身を包む鎧を残らず脱ぎ捨てた。
「フン!後々あいつは鎧を着込んでいたなどと言われてはたまらんからな!五分の状態で貴様をねじ伏せてやるわ!!」
ゴリアテが叫ぶと、むき出しになったその胸に力太郎が全力の拳を打ち込んできた。ドゴンというすごい音が鳴り、ゴリアテの巨体が揺らぐ。が、倒れない。
呼応するように今度はゴリアテがその拳で力太郎の胸板を撃ち抜く。力太郎がよろめくが、やはり倒れない。
お互いに一歩も引かず、殴り、殴られる。何度も何度も、殴り、殴られる。いつ終わるかも分からない、根性くらべのような攻防をエクス達はただただ固唾を呑んで見守るしかなかった。
どれだけの時間殴り合ったのだろうか。すでに両者のダメージは相当なものになっているはずだが、それでも二人は殴り合いを止める気配がない。
「・・・ブツカリアイ・・・タノシイ・・・!」
「我も昂りが止まらぬわ!!」
殴り合う二人はいつの間には笑顔を浮かべていた。
永遠に続くかとも思われた殴り合いであったが、遂に力太郎に限界が訪れた。
「アリガトウ・・・ゼンブダシキッテ、モウナニモノコッチャイナイ・・・」
そう言うと力太郎はゆっくりと前のめりに倒れ、ゴリアテの胸に受け止められた。
「礼なら我の主に言うのだな・・・我ももはや限界よ・・・」
ゴリアテの体がまぶしい光に包まれ、そしてその光が収まるとゴリアテはタオへと戻っていた。
「きっとこいつはよ、ただただ全力で誰かとぶつかりあいたかったんだと思うぜ」
ボロボロになった体をレイナに治療してもらいながら、タオは呟いた。
「ここで出てきたヴィランどもはあいつがその欲求を満たそうと無意識に呼んでたんじゃあねえかな」
「だからあんなにメガヴィランがぞろぞろ出てきたし、彼が酔いつぶれて戦えない時には雑魚ヴィランしか出なかったのね」
「けど結局それは自分が作ったもんだから一人相撲みたいなもんさ。じゃあどうしたらいいかって考えたらよ、やっぱ気持ちをぶつけんのがいいんじゃねえかって、あの時はそう思ったんだよ」
「だからってタオ兄が一対一で殴り合ったって言うんですか。ナンセンスにも程があります」
「悪ぃなシェイン、心配させちまったな」
そう言ってタオはポンポンとシェインの頭を手のひらで軽く叩いた。
「それで、タオとのぶつかりあいで心が満たされたから大人しくなったってこと?そんなことってあるのね・・・」
レイナがやや納得しきれていない感じで、大人しく眠っている力太郎を見下ろす。姿形こそはカオステラーに侵されたままだが、顔つきは人間だったときのように穏やかである。
「それじゃあ、そろそろ調律を始めるわよ、いいかしら?」
エクス達三人は、レイナの言葉にコクリと頷いた。それを確認すると、レイナは運命の書を開き、調律の儀式を開始した。
『混沌の渦に飲まれし語り部よ、
我の言の葉によりて、
ここに調律を開始せし…』
調律が完了し、あるべき姿に戻った力太郎の想区で、エクス達は街道を歩いている。
「これでこの想区の運命も正しい形に戻ったんだね」
「でも力太郎さん、また欲求不満でカオステラーに取り憑かれちゃいませんかね?」
「なあに、俺とぶん殴りあったことを心のほんの片隅にでも残してりゃあ、そんなことにはもうならねえよ」
シェインの疑問にタオが自信満々に答える。
「さあ、名残惜しいけど次の想区に行きましょう」
レイナの音頭で一行は歩き始める。が、しばらく歩いたところでタオが急に大声を上げた。
「あ〜〜〜!!そういやぁ、結局あいつがなんで怪力なのかを聞きそびれた!確かじーさんとばーさんの垢から生まれたからどうのこうのってとこまでは聞いたのによ!」
「あ、確かちょうどその話の最中にゴーレムヴィランが現れたからうやむやになっちゃってましたね」
「くっそ〜、聞きそびれたと思うと余計に気になるぜ・・・」
「あはは・・・またいつか出会った時に聞くしかないね」
疑問の答えに未練タラタラなタオをなだめすかしながら、一行は新たなる想区へと向かうのだった。
なお、余談ではあるが、この想区で正しい運命に則り、御堂こ太郎に石こ太郎を引き連れた力太郎。件の大入道に立ち向かう際にはこんな啖呵を切ったようである。
「力太郎一家、喧嘩祭りの始まりじゃい!!」
グリムノーツ
『力太郎』の想区 完
グリムノーツ『力太郎の想区』 えふけい @0819
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