第二話:連綿なる回廊、孤影曳く燭影。

 現在の学校へと転入し、早一ヶ月が過ぎた。級友も、先輩も、先生も、余所者である私を快く受け入れてくれている。

 今日の学校はどうだったか。今日の部活動はどうだったか。また明日も頑張ろう。色々な事を訊いてくれる、言ってくれる。時にはうざったく思う日もあったが、それでも、悪意はないのだと直感していた。


「結局、山園も部活はいんねーんだな」

「部活は……まあ。家に帰ってからが大変なので」


 昼休み。連休突入直前ということで浮かれている帰宅部と、部活動生の気分の差が激しいが、私は特に普段と変わることも無く、先輩とのくだらない会話を続けていた。


「部活動をしてると帰りが遅くなって、ご飯とか洗濯とか、色々大変なので。それに、バイト関係もありますし」

「あー、バイトか……商品の検品とかあったけど、もうしたくねーな」

「ああ、前言ってたひよこ煎餅の検品のバイトですか」

「それそれ。だってよー、一日千個とか検品すんだぜ? おかしくなるわ!」

「でも検品落ちのやつちょこちょこ食えるって、嬉しそうだったじゃないですか」

「うむ! 確かに言った。特にチーズ味は美味いと言った。しかしそれとこれとは話が違うのだよ山園君!」

「はあ、そうなんですか」

「君の反応はあっさり塩味だな山園君!」


 こんな、くだらなくも、大事な日々だ。

 ――――このままずっと、背景にあることも忘れて、先が見えなければいいのにと願う私は、果たしてわがままなのだろうか。

 私が追い続けたフルダマナセの燭影は、その形を表すことも無く、未だに追いつくことも無く――――先の見えない回廊を、たださまよい続けている。






 いまだ生活感が無く、本当に私の家なのかと思う部屋の中。机の上に置かれたディスプレイに映る、とある検索エンジンのトップページ。特にキーワードを掛け合わせるわけでもなく、ただ『特別密告調査局』とだけ表示された検索欄。そしてその下に映される。該当0件という文字。

 あれから一ヶ月経つが、未だに彼の姿形ははっきりとしていない。警察からの連絡も全くなく、八方ふさがりな状態が続いている。


(しかし、どうしたものかな)


 現状を打開する術も無く、恐らくは重要な鍵であろう『特別密告調査局』も、これといって核心に至るような情報は無く、というよりも、検索結果が全く出てこないというのがほとんどだった。

 かといって、このまま何をしないというわけにもいくまい。それだけは明らかだ。とりあえず何かを見つけはしたい。しかし、何も見つからないということは無いだろうが、それが見つかった結果、核心に至るというわけでもない。


(何一つ見つからないって言うのも、不思議な話だよね)


 通常、こういった検索エンジンというものは、類似したキーワードに関して、自動的に候補を上げてくれたりするものだが、それすらもない。

 裏返せば、調査局に関しての情報が、出されないようになっているということでもあるかもしれないが……しかし、そうだとしてもどうすればよいのかという話だ。

 ネットでこうなのだから、人に聞いたとしても同じだろう。第一、私の知り合いなんてのはほとんどいない。先輩は、いるにはいるが、あの人はどうせ知らないだろう。私か来る一年前までに、そういった秘密警察のような風紀委員会があったわけでもなければの話だが。


(まあ、無いでしょう。というか密告部って何をするんだろ)


 校則破りの密告チクりとかだろうか。だとしたら何とも陰湿な部活だ。きっと恨みを買われてるに違いない。……そもそもそんなことは重要ではない。

 思考を切り替え、今までに得た情報をまとめるとしよう。




 

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