第4話 運命の出会い

「……ジョウブ、…………大丈夫ですか?」

脳が限界を迎え、意識を失った俺を誰かが呼んでいる

「……そうだ、のみもの……」

視界を開こうとするが、瞼が開かない、少しまぶしく何かが俺を照らしている

「ギッ~、ギッ~」

身体が横になっている事を把握、両手を使い状態を確認する

、ベンチで寝ているであろう事が分かった

だいぶ視界も開けてきて、上半身を起こし、周囲を見渡す

「さっむい」

風がスッーと身体にあたる

灯りの正体は電灯だった

秋の夜、あたりは真っ暗になり虫の鳴き声が、耳に心地よく入ってくる

「しかし、何で公園に?」

たしか、人混みの中倒れた記憶があり、こんな静かな公園にいるなんて、人間の本能の賜物なのだろうか。

「フフッ」

俺は、自分自身の能力の高さに少し感心した

「よし、帰ろう」

そう言って、ベンチから立ち、ズボンにお金が入っているかを確認する

「あれ!!」

手に触れたのは、2つ折りにした2枚の諭吉だけ、3枚目がない

途端に冷や汗をかく

まあ、確かにベンチって高級ホテルと同じだから1万円だったらお得か!

って、そんなけあるかい!

「フフッ」

自分で自分にツッコミを入れ、思わず笑ってしまった。

「……な~んか、気持ち悪い」

ビクッ

突然真後ろから、女性の声が聞こえ、飛び跳ねてしまった

「ははっ、ただいまの前跳びの記録40センチ~記録更新で~す」

そういって、軽く拍手する女性は、とても綺麗な大人の女性だった

「はい賞品です、あったかいお茶」

「……(どうも、ありがとうございます)」

心では、そう思った。実際は、ぺこりと頭を下げただけ

俺改め、僕は、右手で受け取ろうとした。

「ん~連想ゲームか!」

そう言って女性は、僕のほっぺに温かいお茶をくっつけた

「……あっつい~~」

僕はさらに飛び跳ねてしまった

「ははっ、君声ちゃんと出るじゃん」

そう言う女性は、小悪魔のような笑みを浮かべ、僕を見てきた

「……あ……す(ありがとうございます)」

女性の笑顔に照れ、行動に照れ、そう言ってもらえた事に照れ、顔が真っ赤になっていく様が自分でも分かるが、感謝の想いを込めていった

「まだ、言えてない」

「……」

コクリと、再度頷き、謝る仕草を見せる

「でもさ、ちょっと声かっこよかったね」

「!!」

心臓が速くなるが、先程と比べ、なんと心地よいのか、その言葉にドキドキが止まらない

「私、梨花っていうの、君の名前は?」

「……」

「なんて?」

「……た……か…し」

緊張で声が出ない、これは昔からだ

でも、振り絞って、振り絞って、自分の名前を言った

「ははっ、なんかニートっぽいね名前が」

冗談で言ったのだろう、また、小悪魔な笑顔で僕を見ていった

「……」

図星をつかれ、ポーカーフェイスを保てばよいものの、顔に出てしまう

思わず俯いてしまった。

「やだ、本当にニートなんだ。でもぽいね、髪型とか髭とか、服装とか」

「!!」

この梨花って女、傷つく事をズバズバと、羞恥心が一気に高まり、梨花の顔を見た

「なんか言いたそうな顔だね、でもさ」

「!!」

また何か、言われるのではないかと、身体を硬直させ備える

「でもさ、やっと私の顔を見てくれたね」

「?……!!!!!!」

僕は、女の人が理解できません

気付つける様な事を言ったり、ドキドキさせるような事をいったり、僕を好きなのかな?

好きでもない人にこんな事を言って、やっぱりこの梨花って女は悪魔の手下小悪魔なのか??

ともかく、僕の思考はドキドキで機能停止になってしまった。

「あっ、もうこんな時間」

公園にある大きな時計をみると23時になっていた

「あのお茶代払います!!」

咄嗟に言葉を発せた。しかも、男としてポイントの高い相手を思いやった発言だ!

「いや、いいです」

即答で、断られた。

「このお茶は、お姉さんからのプレゼント。君ニートってすぐ分かった。他人が怖いんでしょ、そんなタイプの人間だって、でもさ勇気を振り絞って、外の世界に出たんでしょ、君の事全然しらないけど、それは分かったから」

こんな僕を思ってくれる梨花さん

なんて素敵な女性なんだろう

「そ……で……す、が……ば…っ……て…そ……と…に」

「分かるよ、だからさお姉さんからのプレゼント、その自分を超えようと言う気持ちって私にはまだない気持ちなんだ~、だから、君と少し話そうと思ったんだ」

レベルの違いなんか、明らかなのに、梨花さんは僕なんかから学ぼうとしているのか

言葉から真意を読み取る能力はないが、梨花さんにも色々あるのだろう、微かに眼の奥が潤んでいるような気がした

「コクリ」

僕は、誠意を示すために、ゆっくりとお辞儀をした

「じゃあ、お休みね」

梨花さんはそう言うと、公園をさろうと歩き出した

「……ま、まって」

僕は、この出会いを運命だと思った。

だって、こんな僕を慈しんでくれる女性なんて、絶対にいないと思ったから

「なに?」

そう振り向く彼女はやはり美しかった

うん、電灯と言うライトで照らされた梨花さんは天使だった

クリーム色のコートに身を包み、黒のスカート

髪の毛は肩まで伸びていて、髪先はくるりとしている

その事をなんていうかはニートの俺には分かるはずもないが、大人の女性と言う事は分かった。

顔立ちも、ははっと笑う笑顔がほんとうに愛らしくうつる、幼さの中に凛とした鼻筋のある顔立ちは、僕を一瞬で惹きつけた。

だから、言いたかった

24年間生きてきて、こんな経験はなかった

前に言われた手相占い、20代前半が最後の恋愛線ですねと言われた。

だから言う

目の前の梨花さんと言う天使に

「なに?」

意を決して言う!

「付き合ってください!!!!!!!!!!!!!!」

「ごめんなさい」

あっさりと幕は閉じた

「ははっ、まだ君は何もしてないじゃん、これで付き合うのは君の為にならない

善意で、君の喜びの感情は満たしたくないかな、それだと私は人形になるしね」

難しい事を早口で言われたが、何故だかすぐに理解できた

付き合うと言う事は、お互いに、尊敬し、信頼し、支えあい、助け合い、喜び合い、泣き、共に同じスタートラインに立っている事が前提だ。

僕は、スタートラインにすら立てていないのだ。

彼女の横にすらいないのに、横に立たせてと言う僕の、付き合ってくださいと言う言葉はどれだけ彼女と言う人間を舐め切った発言だったのか

言って3秒、後悔ばかりで、死にたくなった

「じゃあ、遅いし行くね、話せてよかったよ」

そういって梨花さんは手を振った

僕は、今すぐ逃げたい気持ちで一杯だったが、逃げない事を誓ったのだ。

「…ぼ、……ぼくは、必ず梨花さんの前に立てる男になりたい、いやなる

だから、その時はきっと」

勇気を振り絞っていった

「うん、期待してる、頑張った君の姿少し興味あるかも」

そう言うと、梨花さんは、ははっと笑って帰っていった

「最後まで、名前を呼んでくれなかったな」

名前を聞いてくれたが、最後まで君だった


振られてしまったが、家を出て5時間でこの出会い

僕は、梨花さんが言った言葉の意味を考えながら

自分の家までの帰り道をゆっくりと歩いて行った


寒空の中、心と右手にあるお茶は暖かく、僕を包んでくれていた


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小さな勇気 斉藤流 @saitouryu

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