うさぎさんラビリンス
ずっと変だと思ってたんです。
いつも裸足だし、眠そうだし、この前なんて授業中なのに平然と廊下歩いてましたし。
垂れたうさぎの耳みたいな髪がたまに動いてるように見えたのは……きっと気のせいだと思うんですけど。
他の人は誰も気にしてないみたいだし、私が世間知らずなだけだと思ってたんです。
だけど違いました。同じクラスになって改めて思いました。
九重うさぎさんは、やっぱり変な人です。
「あの、そこ私の机なんですけど……」
まだ人も少ない登校時間。うさぎさんは当たり前のように私の机に座っていました。椅子なら構いませんけど机は困ります。いつもながら素足の長い脚をぷらぷらしていたうさぎさんは、まるで傍に来るまで気付かなかったみたいにぱっと顔を上げました。絶対教室に入ってきた時に気付いてたと思うんですけど。
「さくさくちゃんおはよー。今日も早いねー」
「おはようございます。うさぎさんは珍しく早いですね……って、そうじゃなくて。そこ、私の机です。うさぎさんの席はもう一つ前ですよ?」
ご挨拶が遅れましたが私は小桜さくらです。名前に関してはもうたくさんの方からご意見ご感想を頂いたのでスルーさせてください。開き直って年中桜の髪飾り付けてるあたりで察してください。
それはさておき。うさぎさんはじーっと自分の席を不思議そうに見つめたあと、振り向いて困ったように笑いました。
「やだなぁもう。知ってるよー。ここはさくさくちゃんの席で、その前が私の席。一億年と二千年寝ぼけてたってそれは間違えないよー」
いやいや、それがどういう状態かは分からないですけど、それだけ寝ぼけてたら一つぐらい席間違えても想定の範囲内だと思います。
「だったら自分の席に座ってくださいよ。机じゃなくてちゃんと椅子に」
「えっ。なんで?」
「えっ。なんでって、えっ?」
脚ぷらぷらをやめてうさぎさんがきょとんとしてます。まずいです。この感じがうさぎさん迷宮の入り口なんです。
「あっ、さくさくちゃんってデューク東郷だっけ? 俺の後ろに立つな的な」
「後ろにも二つ席があるじゃないですか。いつも一番後ろがいいなんてただのわがままさんじゃないですか」
「よかったー。極太まゆ毛のさくさくちゃんに暗殺されるかと思ったよー」
「私まゆ毛太くないです! 文字媒体なのをいい事に適当言わないでください!」
ああ、もう手遅れです。うさぎさん迷宮に迷い込んでしまいました。
助けを求めて教室を見渡しても話した事のない男子ばかり。劇場版ジャイアン候補はいない模様です。うう、ここは私一人の力でなんとかするしかありません。
「だって机に座られてたら授業の準備できないじゃないですか」
「えっ。前の席空いてるよ?」
「そりゃあうさぎさんの席なんですから当然空いてるでしょう。そこへ座ってくださいと言ってるんです。机じゃなくてちゃんと椅子の方で」
いやいやいや。難しい事は何一つ言ってないはずです。ここで何を言ってるのか本気で分からない顔されても私が困っちゃいます。コンビニのコピー機が多様化し過ぎてコピーの仕方も分からないような顔されたって、分からないのは私の方なんです。何が分からないのか私には分かりません。
「えっと……さくさくちゃんが前に座ればいいんじゃないの、かな?」
「そうですね。そうしましょう」
にっこり笑ってそうする事にしました。
うさぎさんが何を頑なになっているのか、それとも頑なにもなっていないのか、じゃあ一体何を考えてるかなんて私には分かりません。自分の席にこだわる理由もないですし、意味不明のやり取りを続ける必要なんてないんです。
そうしてうさぎさんの席に座って、すぐ。
「さくさく号、キャノン砲スタンバイ!」
嬉しそうな掛け声と一緒に、両肩にうさぎさんの長い足を乗せられました。つま先までぴんと張った長い足がキャノン砲、なんでしょうか。いいえ。これはただの足です。
「なんだ、こんな事がやりたかったんですかー」
「キャノン砲発射どどどどどど!」
「あっ、ちょっ! 足ぱたぱたしないでください! こちらさくさく号、至急キャノン砲解除求む!」
フルコースの途中で アキラシンヤ @akirashinya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。フルコースの途中での最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます