俺達は、揺り篭の中で殺意を燃やしながら。 06
寝てしまっていた事を気にして、俺がおいとましますと言うと、「送るよ」と花折は俺より早くスニーカーに足を突っ込んだ。
まだ熱を残す夜を二人で歩く。田畑の広がる畦道を、間隔の開いた電灯だけが照らしている。
「今度はね、夜学校の近くの山で人体模型が走ってたっていう話を検証しようかなって思ってるんだよね」
「それ完全にマルオ君が犯人だろ。ほら検挙。ほら解決」
俺は四肢をガムテープで繋ぎ合わせた部室の人体模型を思い出しながら適当に相槌を打つ。もしあれが生きていたら山ではなく俺の家に復讐に来るに違いないだろうが。
「え――!!まだ見てもいないのに!?」
不満そうな花折の声を聞き流しながらその顔を見る。夜にも関わらず、僅かな電灯の明りを映してきらきらと輝く菫がかった瞳。その目に偶に宿るぎらぎらとした光を見つけ、俺の心はざわつく。
最初はただの焦燥感だと思っていた。
だが今なら分かる。それは生を実感したいという思い。
春過も葉切も遠里も、毎朝見る、鏡に映った俺の目にもまだ残り火のように燻る本能の光。
半分が我々で出来ている花折は、その思いが何なのかをまだ理解していない。
「あっ、あれって夏の第三角形?九月でも見えるんだっけ?」
何も知らずにはしゃぐ花折。
戦って、敵と認識すればそれを消滅させるまで消えない殺戮衝動。檻に閉じ込められているのが化物だと知らせないまま、それを飼い慣らせと、飼い慣らせるはずだと我々は花折に希望を託している。
我々は、殺さずに地球人とやっていけるのだと祈っている。
「今度流星群が来たらさ、天体観測しようよ!」
少しでも興味のある事には首を突っ込む花折。殺すという感覚を知らないから、自分が何に追いたてられているのか分かっていない。
「それもいいな、こんな田舎なら肉眼でも十分見えるだろ」
だから俺は、そんな花折の近くにいよう。
こいつが飽きるまで、呆れるまで、失望するまで、絶望するまで。
もしくは、殺戮衝動を置換できる、新しい何かを見つけてくれるまで。
「未散、星好きなの?」
「あぁ?何でだよ」
いきなり意味不明な事を言い出すものだからつい俺はぞんざいに返してしまう。花折は首を傾げて俺の顔を見た。
「だって、未散が楽しそうにしてるから」
本当に、たった一言だけ。
「どうしたの?すごく変な顔してるよ」
その言葉は俺の
「何してるの未散。僕みたいに眠たくなった?」
花折は笑って手を差し出した。情けなく尻餅をついた俺は、花さえも手折って進めそうなその溌溂とした表情を見上げるばかりだ。
「ほら」
白く薄いその手を、俺は縋るように握る。
どうやら、救われたのは俺らしかった。
おわり
花折ト未散ノフシギクラブ ~陰鬱なエイリアンは殺意を見送り謎を解く~ 遠森 倖 @tomori_kou
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