第20話 新しい旅立ち
「……そうですか、お母さまに言われて『こうふく』を買いに来たのですか。もちろん何が『幸福』なのかは一人一人違いましょうし、そもそも売っているモノではないと思うのですが……。お母さまがそうおっしゃったのでしたら、なにか考えがあってのことなのでしょう」
そこまで言うと、女王さまは困ったように首をかしげ、ハッと何かを思いついたようでした。
「そうですね、あの方でしたら……」
「あの方?」
しゅん、としてしまったドッコイにかわって、お兄ちゃんのスットコが女王さまの言葉に食いつきます。
「そうです、あの方でしたら何かを知っているかもしれません」
それから女王さまは姫の方を向きました。
「わが姫、この方たちを『サブロウ』さまのところへ連れて行ってあげなさい。ふふ、そんな顔をしてもだめよ。サブロウさまとあなたが顔見知りなのを、母は良く知っているのですから」
赤い目をした白いお姫さまは、むむ、っと難しい顔をしました。難しい顔をして、それからぱあっと笑顔になります。
「女王サマ、それっテ……」
「ええそうよ、姫、スットコさんとドッコイさんと一緒に行くのも良い体験となるでしょう。わたしの次の女王に成るための、ね」
女王さまはそういうと、たおやかな白い腕で姫を抱きしめました。
スットコとドッコイはその様子をうらやましそうに眺めていましたので、女王さまは気づくと、二人を手招きし、三人まとめて抱きしめます。不思議と甘い、清潔な木のようなにおいのする女王さまに抱かれて、スットコとドッコイはくすぐったそうに笑うのでした。
「オい、こっちだゾ、スットコ」何かの入ったカバンを受け取った姫は、勝手知ったるように二人を案内します。
「ドッコイ、何デ言った反対側に行こうとするんダ!」
姫は意気揚々と二人の先頭に立ち、案内します。
「ねえ、そのサブロウって人は、どんな人なの?」
道すがら、ドッコイがもっともな質問を口に出しました。
幼い白い姫は人差し指を口のところにもっていくと、うーんと考えて、二人に話し出します。
それはこんなお話でした。
『コウガ・サブロウは、その名前のとおり三人兄弟の末っ子で、美しいお姫さまと幸せな生活を送っていました。
ところがある日、山で狩りをしたときに、姫を魔物にさらわれてしまいます。
サブロウは、地底に囚われていた姫を何とか助け出しましたが、地底に忘れた彼女の宝物を取りに戻ったところを、悪い二人の兄たちによって地底に閉じ込められてしまったのです。
仕方なく地底を歩き始めたサブロウは、小さな国に出ました。その国で三日過ごした後、また歩き始めると、その先には別の国があったのです。
このようにして、七十二の国を通り過ぎ、やがてユイマンという国に行き着きました。
そこは地底の一番奥の国で、その国の王様に気に入られたサブロウは、王さまの末娘、ユイマン姫と結ばれて平穏な日々を送ることになります。けれども、やがてサブロウは、地上に残した妻のことを思いだして涙します。
それを見ていたユイマン姫のはからいにより、サブロウは王様から鹿の肝臓で作った千枚の餅をもらい、それを一日一枚ずつ食べながら故郷に向かいました。
サブロウは苦難に耐え、地上に戻って来ます。
しかし長いユイマン国での生活によってその身体は竜となっていたのです』
「えっ!? 竜に!!」
スットコは長い長いお話し(何と言っても白い姫はまだ小さいので、つっかえつっかえ、それもスットコとドッコイに質問されながらですから、どうしても長くなってしまいます)の最後でそんなことになるとは思わなかったので、びっくりしてしまいました。
「そうだゾ、サブロウさまは竜になったんダ。スットコやドッコイなんか、パクっと食べられちゃうんダ」
白い姫はひひひ、と笑いました。
スットコとドッコイの冒険 ファッションロード @mamodlian
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。スットコとドッコイの冒険の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます