この小説の前日譚『ヒーロー&ヴィラン~Side Story~』を読んだ際は、これは「正義とは何か、悪とは何か」を問う物語になると思っていました。
でも、本編を読み終えた後、そんな答えなどはどこにも無いのだなと感じました。
主人公のコウは魔族と機械族の幸福を願い、ラストである重大な決断をします。
コウはヒーロー(正義)だったのか、ヴィラン(悪)だったのか。
彼の行動は、彼のことをよく知らない多くの人間たちと彼の真意を知っている仲間たちで大きく評価が分かれることでしょう。
これは私個人の考えなので作者様の意図や他の読者の人たちと異なる意見になるかも知れませんが、コウの気持ちを知りもしない人間たちはもちろん、コウと共に戦ってきた仲間たちの「彼は正義か、悪だったか」の評価はどちらも正しいし、どちらも正しいとは言えないと思います。
コウは、傍目から見たら、かなりの人間を殺したし、欺いた。一番大切なユメさえもたくさん欺き、本意では無かったとはいえ彼女の心を翻弄して傷つけている。
でも、コウの胸の内には種族の関係無く幸せに暮らせる世界を作りたい、ユメを守りたいという純粋な心があった。それが彼の目的であり、誰にも真似をできない偉業を果たした。
ただ、その結果、コウにとって一番大切な人たちは幸せになれたのかどうか……。
正義や悪なんて人々の主観や立場で変わり、どれが真実だなんて言えない……。
コウの最後の決断は、自らを犠牲にして子供たちに未来を託そうという悲壮な決心だったと解釈できるけれど、教え子のユメに希望を果たして与えられたのだろうかと私は思ってしまう。コウと同じく教員免許を持っている私としては、コウは教師なのにあまりにも多くの嘘を生徒のユメに重ねたのではという思いにかられてしまう……。
これが私の個人的なコウへの思いです。
しかし、私の彼への評価もまた一個人の勝手な評価にすぎない。
そして、異世界で歴史の人となった彼は何百年、何千年という後々までその善悪を問われ続けることになるでしょう。
歴史は結局、その時代の当事者たちは自分たちの行ないの善悪や成功、過ちなどの評価を生き残った人々や後世の人間に委ねて必死に生き、自らの役割を果たして死んでいくしかないのです。これが歴史の無常さです。
ユメもまたこれから正義とは何かを模索しながら生き、やがて歴史の人となっていくと思います。
正義とは、何か。悪とは何か。その真の答えは見つからなくても、コウが自らの信念に従って己の役割を果たしたように、ユメも自らの役割をきっと見つけてくれるはずだと私は信じたいです。