第10話 疑惑はさらに深まり

「いや、今日イマルさんがこっちに来るのは連絡もらってたんで用意しておいたんですが……やっぱ要らぬおせっかいでしたかね?」


「そうじゃないわよ! なんで司書が禁書を事前に準備できるのかってきいてるのよ!」


 次から次へと疑問が浮かび上がる。

 国家魔術師出ない限り、禁書庫の鍵を開けられないようになっているといったのは司書本人だ。

 にもかかわらず、司書さんは自分で禁書を準備したという。

 俺はなかば確信しながらもたずねた。


「もしかして、司書さんって国家魔術師だったりするのか?」


「そうだけど。じゃなかったらあんな魔法も使えないだろ? あれ結構疲れるんだぜ? まぁ、本部勤務じゃないってあたりで大したことないのは知れちゃうかもしれないけど」


 司書さんはなんてことはないように伸びをしながら答えた。

 司書さんの答えに合点がいったのかイマルは頷いている。

 しかし、イマルが失踪扱いになっている事やイマルに追手がかかっている事はいまだ謎だった。

 まず、イマルに失踪扱いになっている事について問いただす必要があると考え、イマルにきいてみた。

 

「イマル、団長が言ってたことだがお前は任務中に失踪したという扱いになっているらしいが心当たりはあるか?」


「私は任務中に一人本部から呼び出されて、一人で本部に戻ってこの任務を受けたのよ。だから、私は協会そのものか、王国騎士団をだませるほど偉いやつのどちらかに嵌められたようね。前者だと相当やばいわ、指名手配されるでしょうし」

 

 話している内容のわりに落ち着いた様子なのが気になるが、とにかくまずい状況なのは間違いないようだ。

 本部に連絡できないことを考えると協会側が怪しい気もするがそれを確認する手立てもない。

 

「さて、迷惑な利用者をどうしようかね。さすがに記憶をいじるようなのは使えないから時間稼ぎのために拘束の呪文をかけとこうか」

 

 俺が悩んでいると司書さんが騎士団の前で物騒なことをつぶやいている。


「念のため、防具なども回収しておいた方がよさそうですね。武装解除の呪文なら私も使えますから手伝います」


「お、優秀な後輩だ。じゃあ、オレが拘束呪文かけてくから武装解除はお願いするね?」


 国家魔術師の先輩だと分かったとたん敬語を使いだすあたり、あいつも苦労してんだと思う反面、俺は放置かよと少しいじけたくなる。

 さて、俺はこれからの自分の動きについて考え始める。

 忘れてはいけないが協会から任務を頼まれたのはイマルだけではない。

 協会は論文を書いた俺にも協力するように命令している。

 仮に協会がイマルをはめたとするならば、俺も一緒に協会に嵌められていることになる。

 となると、俺が書いた論文は協会側からして都合の悪いものでイマルとまとめてやっちゃえみたいなことなのだろうか。

 いくらなんでも雑すぎるなと思いながらも俺は、武装解除をしているイマルの方にも協会に恨まれるようなことはなかったか聞いてみる。


「そうね、ないといえばうそになるでしょうね。私の家は国家魔術師の家ではないからよそ者扱いされるのが日常だし。その上、私が仕事を完璧以上にこなすから気に入らない連中なんてうじゃうじゃいるでしょうね」


 相変わらず自信過剰なやつだ。完璧以上とか自分で言っちゃうか? 

 とにかく、協会からイマルが恨まれていたとしても何の不思議もないことは分かった。

 俺は観念してこの訳あり二人とこの状況を打開するための案を考えることにした。

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まほうじんの描き方。 天井カラシ @karashi1996

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